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六 モグラ、幽鬼退治に駆り出される②

 最初の事件の時点では三人とも、まだ笑って話をする余裕があった。


 白状すれば、幽鬼が犯人という説をどこかで疑っていたのだろう。たとえば、被害者の宦官と女官の痴情のもつれとか、なにか納得できる結末があることを期待していた。妖術師の話題をあげた香蘭でさえそうだった。


 ところがだ。事件は一度きりでは終わらなかった。


 宦官たちが次々に幽鬼に襲われ、被害も少しずつ深刻化していく。とうとう、昏睡状態におちいり目を覚まさぬ者まで出てきてしまった。


「昏睡している被害者でもう四人目か。全員宦官、そして琥珀宮づきか」


 疲れた顔でこめかみをトントンと叩きながら、焔幽がつぶやく。


「警備をこれだけ強化しているのに、犯人は煙のように消えてしまって跡形も残らない。となると……」


 夏飛の言葉を香蘭がつなぐ。


「実行犯は本物の幽鬼。操っているのは妖術師。妖術師を雇っている者が真犯人でしょう」


 妖術師と真犯人がイコールである可能性も、現時点では否定できないが。


 焔幽の表情はますます険しくなる。彼は妖術師の存在をいまいち信じきれないでいるのだろう。


 彼らは裏で暗躍するのが生業。史実に華々しく登場したりしないので、それも仕方ないかもしれない。


「普通に推理をするなら、犯人は琥珀妃月麗さまに恨みのある人物ってことになりますうよね?」


 夏飛の言葉に焔幽は首を横に振る。


「とも言い切れないんじゃないか? 被害者は宦官ばかり。琥珀妃が狙いなら最初から彼女を襲えばよさそうだし」

「たしかに」


 夏飛も焔幽もそれきり黙ってしまった。いろいろと妙な事件なのだ。


「妖術師については、香蘭の知っている情報をもとに探っている最中だ。西方の国々では一般的な存在のようだな」


 焔幽の言う西方の国々というのは、瑞より西に位置する『(しょう)』や『(かい)』のことだろう。蘭朱の時代には辺境の蛮族程度の認識だったが、今やどちらもかなりの大国に成長していた。西大陸の影響を強く受け、瑞とは異なる独自の文化と風習を持っている。


「幽鬼をとらえることはできないので、妖術師の線から探るのが一番の近道でしょうね」


 言いながらも、香蘭はそう簡単ではないと思っていた。彼らは目的を果たすと、それこそ幽鬼のようにするりと消えてしまうのだ。


(相手は身を隠し暗躍する術を何十年、何百年と磨いてきていますからね)


「そうそう」


 夏飛が沈んだ声を出す。


「切羽詰まった現実的な問題がひとつありまして……」

「なんだ?」


「人手不足です!」


 聞けば、琥珀宮を担当する宦官たちはすっかりおびえてしまい配置換えや暇を希望する者が続出しているのだそうだ。


「幽鬼に襲われる恐怖、さらには苛立つ琥珀妃の怒声。やめたくなるのも道理ですよ」


 夏飛は彼らに同情的だ。


「では、私がしばらく琥珀宮に手伝いにうかがいましょうか?」


 香蘭の提案に焔幽も夏飛も目を見開いた。


「いやぁ、今の琥珀宮は本当に危険ですよ。いつ五人目の被害者が出るかとみな、ヒヤヒヤしていますから」


 あまり香蘭に好意的ではない夏飛ですら心配して止めようとする。焔幽も反対と顔に書いてある。

が、香蘭は聞かなかった。こうと決めたら決してひかない、それが胡香蘭だ。


「幸い、体術は得意ですから」

「幽鬼に体術は意味がないだろう」

「怨念を跳ね返す精神力も、千華宮一と自負しておりますし」

「それは否定しないが……」


 香蘭は焔幽の反対を強引に押し切る。


「なにより! 月麗さまのお相手をするのに私以上の適任者はいないでしょう」


 香蘭、いや宦官の蘭楊は気難しい月麗にも好かれている。


「夏飛さんの説が正解で、犯人は月麗さまに恨みを持つ人物かもしれません。彼女の話を聞くことが事件解決の糸口になるかもですよ!」


(それに、そろそろ月麗さま本人が標的になる可能性もありますしね)


 香蘭はあのかわいい顔して高慢ちきな彼女のことが結構好きなのだ。


(深謀遠慮の渦巻く後宮にあって、裏表のない人物は貴重ですから)


 希少価値のあるものは守るべきであろう。

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