表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽物令嬢は踊らない。  作者: ゆす
第一章 寸劇『第三王女の告白』
5/20

公爵家の黒服たち

 舞踏会の会場には、軽やかな音楽が流れ始めた。

 人々の関心は、貴族同士の情報交換と上級貴族との人脈づくりに移り変わった。


「こちらの紳士は、公爵家の客人として丁重におもてなしをします」

「おぉ、エリザベス様。公爵家のご厚意に、深く感謝を申し上げます」

 痩せた紳士はすっかり観念して、何度も何度も頭を下げた。


 私は、公爵家の警備と戦闘部門、通称『黒服部隊』に痩せた紳士を引き渡し、舞踏会から穏便に退場させた。


 おそらく、今回の騒動は彼一人の判断で実施された計画では無い。

 背後には、国家の転覆を企む犯罪組織が暗躍している可能性が高い。


 そうでなければ、隣国への郵便物を入手するなどという、犯罪まがいのことが出来るはずがない。

 痩せた紳士は、正義感や愛国心といった心理を犯罪組織によって言葉巧みに刺激された、被害者かも知れなかった。


 あの様子では、痩せた紳士が逃亡するとは考えられないが、一人にしておくと犯罪組織による誘拐や暗殺の可能性がある。

 そのため、公爵家で厳重に保護することが妥当だろうと判断した。



「見事なご采配です。エリザベス様」

 鈴が鳴ったような美声だった。


 振り返ると、尊敬のまなざしで私を見つめる偽物の第三王女様がいた。

 銀髪褐色肌の美少女である。


 彼女の正体は、第三王女様の専属メイドだと判明している。

 自分と同じ身代わりメイドの彼女に、親近感が湧かないはずが無い。

 頭をナデナデしてあげたい気持ちをぐっと堪えて、その柔らかそうな頬に手を当てた。


「一人でよく頑張ったわね」

「ありがとうございます。私のことは、イリヤとお呼び下さい」


 第三王女様は、私の手に自分の手を重ねて、くすぐったそうに目を細めた。


 なんなの、この気持ち。

 この子、すっごく可愛いわ。


「イリヤ様。ちょっと二人だけでお話できないかしら?」

「はい、喜んで。私もエリザベス様とお話をしたいと考えていたところでした」


 第三王女様は、嬉しそうに頬を染めた。

 そうと決まれば話は早い。


「エドワード王子。ちょっと良いかしら?」

 お声をかけると、若い女の子たちをかき分けて近づいてきた。


 エドワード王子は、美貌の第二王子である。

 エリザベス様の婚約者であっても、お近づきになりたい女の子は多いのだろう。


「相変わらず、すごい人気ですわね」

「彼女たちは、我が国の大事な国民たちさ。無下に扱うなんてことはできないよ」


 エドワード王子は、王族のくせにまったく偉そうでは無い、変わり者の王子だった。

 その言動は、王族というよりも、人気俳優かアイドル歌手めいていた。


「王女様に大事なお話がありますの。しばらくお一人にしてもよろしいかしら?」

「もちろん大丈夫さ。王女様の事は、任せるよ」


 言動もイケメンすぎるエドワード王子に後始末を頼んで、舞踏会を中座した。


--


 第三王女様を連れて、公爵家に割り当てられた控室に向かった。


 会場を出ると、すぐに公爵家のメイド服を着た女性が、二人一緒に着いて来た。

 ただのメイドではない。

 公爵家の要人警護を担当する精鋭の黒服部隊の一員である。


 今回の騒動の背後には、国家の転覆を企む犯罪組織が暗躍している可能性が高い。

 おそらく、計画を阻止された犯罪組織が、次に狙うのは第三王女様の身柄である。


 しかし、現在の第三王女様の立場は、国賓ではなくただの留学生である。

 彼女が隣国から連れてきたスタッフは最小限で、その警備状況は万全であるとは言い難い。


「イリヤ様の身の安全は、公爵家が責任を持ってお守りします」

 黙って着いてくる第三王女様に話しかけると、彼女は逆に表情を暗くした。


「何から何まで、お世話になります。でも、どうしてエリザベス様は(偽物の私に対して)そんなにも優しくして下さるのですか?」


 確かに、彼女の疑問も理解できる。

 理由の無い親切は恐ろしい。


 私は、彼女が納得できる理由を探した。


 国家の安全のため。

 王国内に蔓延る犯罪組織の野望を挫くため。

 他にも、いくつか理由を考えられる。


 でも、最大の理由は『エリザベス様なら、偽物であろうと第三王女様を見捨てないだろう』と思ったからである。

 個人的にも、身代わりを務めるメイド同士という親近感を持っている。


「要するに、私がそうしたいと思ったからよ。その答えでは納得できないかしら?」

 すると第三王女様は、少し困惑したあとに、はっと顔を上げた。


「なるほど、エリザベス様は、自分の事が信じられないのか? と、問うているのですね」

「いえ、そこまで深い意味はないのですが」


 頭の回転が速い人は、深読みして勝手に納得してくれることがあるのだけど、この子もそういうタイプなのかしら?


「エリザベス様は、孤立無援で困っていた私を助けくれました。私は、エリザベス様の言葉を信じます」


 王女様に、きらきらとした眼差しで見つめられた。

 納得してくれたようなので良しとしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ