寸劇『第三王女の告白』
偽の第三王女様。その正体が王女様の専属メイドだったなんて素敵だわ。
同業のよしみで私が助けてあげましょう。
私は、自分が優位だと誤解している紳士に問いかけた。
「最後に、ひとつだけ教えて。あなたは、その情報をどうやって入手したのかしら?」
「もちろん信頼できる筋からの情報だ。入手先は、教えることができない」
やはり、情報の入手先はこの紳士の弱点ね。
「つまらないわ。その人に『困ったらそのように言え』と言われたのね」
「な、なんだと!」
その慌てよう、図星ね。
「残念だけれど、あなたは騙されているわ」
「私が、騙されているだと?」
「真実は、もっと素敵で私的な事情だわ。ここにいる第三王女様はご本人ではありません。それは本当。でも、本物の第三王女様が本国に留まっている理由は勉強が嫌いなんてつまらない理由ではありませんわ」
会場の全員の注目が集まっている。
エリザベス様が好みそうな状況だわ。
私は『本当のことなど何も知らないけれど』大衆が求める真実を即興で創作した。
「本物の第三王女様は、難病でベットから出ることができないの。だから、別荘で療養をしている第三王女様に代わって、最も信頼している専属メイドである彼女を我が国に留学させたのよ」
隣国の別荘地が、温暖な気候で病気の療養に最適なのは、裕福な貴族だったら誰もが知っている事実だった。
「魔法学園への留学は、第三王女様の夢だった。だから、その手紙の束は我が国の機密情報では無く、彼女の身代わりに学校で経験した事を第三王女様に伝えるための私的で大事な日記なのよ」
「う、嘘だ」
私は、呆然とする紳士にだけに聞こえるようにささやいた。
「あなたも可哀想に。騙されたのね」
「騙された、だと?」
私は、自信満々に見えるよう微笑んだ。
「あなたは、この国のことを心配してくれたのでしょう。公爵家の名にかけて、誰にもあなたの事を責めさせたりなんかしないわ」
「それは、本当だろうか」
痩せた紳士が縋るような表情で私を見つめた。
ふふ。落ちたな。
後で、信頼できる筋とやらの情報をじっくりと教えてもらいましょう。
「エドワード王子?」
名前を呼ぶと、様子を伺っていた王子が近付いてきた。
「なんだい、エリザベス嬢」
「幕引きをお願いしたいのだけど?」
「喜んで」
エドワード王子は、一歩進み出て大袈裟にお辞儀をした。
「これにて、寸劇『第三王女の告白』を終了いたします。さぁ、皆さん舞踏会を始めましょう」
気を効かせた、楽団が軽やかな音楽を奏ではじめ、会場の雰囲気はすぐに明るくなった。
周囲の人々から、なんだサプライズだったのかという声が聞こえてきた。
偽物の第三王女様が深く頭を下げた。
「エリザベス様。わたくし、なんてお礼を言ったらよいか」
「大丈夫、心配しないで。全部、公爵家が面倒を見てあげるわ」
これを丸投げという。
「はい。よろしくお願いいたします。それにしても、どうして我が姫の私的な事情をご存じだったのでしょうか?」
「うふふ。公爵家には優秀なスタッフが揃っていますの。侮ると火傷しますわよ」
そう言うと、偽物の第三王女様が驚いたように目を見開いた。
「さすが、エリザベス様です。感服いたしました」
今回、半分以上でまかせだったけど、当たっていたようで良かったです。