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嘘つきの魔法使見習い  作者: 学習席のパソコン
1/1

嘘つきになる覚悟

 真っ暗闇。

 前を見ても後ろを見ても右を見ても左を見ても暗闇しかない。

 見えるのは自分の周りがぼんやりと見える程度で周りに何があるのかはわからなかった。

 いったいどうなってんだよ、どこみても何があるのかわからねぇ。

 悪態をつきながらも出口を見つけるために暗闇の中を歩き出した。


「だめだ、出口がぜんっぜんみつかない」

 どのぐらい歩いたのだろう。

 物は何一つないのでいくら歩いたところで景色に変化がない。

 おかげで自分がどこから来たのかもわからなくなってしまった。

 歩き出して体感30分は経ったと思っているが実際はどのくらい時間がたったのかわからないが、それでも歩き続ける。

 こうも歩き続けていると本当に出口があるのか疑わしくなってきた。

 初めからこの空間に出口なんてないんじゃないか?

 こんなに歩いているのに見つからないならこれ以上歩いても意味がない、探すのは一旦やめるか。

 歩き続けて疲れが溜まりだしたところで休憩しようとその場に座ろうとする。

 いや、座ろうとした。


「なん、だこれ」

 ピチャと水たまりを踏んだような水音が暗闇しかない空間に広がった。

 視点を足元に向けるとそこにあったのは目を疑うものだった。

 そこにあったのは血だまりだった。

 う、うわああああああああああああああ!

 嘘だ嘘だこんなの、こんなのあるわけない!

 叫び声は声にならず心の中でしか上げられなかった。

 その場から逃げ出したかったが、身体は言うことを聞いてはくれずその場に立ち尽くすことしかできなかった。

 足元の血だまりはだんだんと広がって、しまいには見渡す限り赤に染まっていた。


 そして、周りが見えなかったはずなのにいつの間にか周りを見ることできるほどに明るくなっていた。

 見たくないという気持ちに逆らって、身体は、頭は、目は、ソレを見た。

 見てしまった。

 見たくなかった、見てはいけなかった。

 見てはいけなかったソレを見てしまうと俺はイヤっていうほど理解してしまった。

 死体、幼い子供の鼻から上と俺から見て右半身が抉られたようになくなっていた死体。

 死んでいて動かないはずなのに死体は動いて俺の服を掴んで叫びだした。

「痛い痛い痛い痛い痛い!!!!たすけてよ!!!!たすけろよ!!!」


 聞けば聞くほど恐怖が俺を蝕んで、支配して、逃げ出したい気持ちばかりが大きくなる。

 呼吸をすればするほど、鼻の中に血の匂いが入ってくる。

 血の匂いが頭を、身体を、埋め尽くしていく。

 逃げないと、ここから離れないと、このままじゃ俺が。

 おかしくなってしまうと直感で感じた。


 だけど、逃げられなかった。

 身体動かない。

 頭が回らない。

 息ができない。

 俺はこの感覚を知っている。

 俺はこの状況を知っている。

 俺はこの全てを知っている。


 あぁ、たしかこれは____________


 枕元に置いてあるアラームがさっさと起きろと言わんばかりに鳴り、その音で目を覚ます。

 目を覚ますと身体は汗でびっしょりだった。

 なんでこんなにびっしょりなんだ、イヤな夢でも見たのか?

 どうしてこんなに身体が濡れているかは結局わからなかった。

 汗拭きシートで拭けるだけ拭いて、クローゼットの中に仕舞っている新品の制服に腕を通す。


 俺は今日から華の高校生になる。

 新しい学生生活が待っている。

 それだけで心はワクワクし、スキップしだしそうになる。


 一階にいる母親が朝ごはんだと俺を呼んでいるので、準備が済ませてあるサッチェルバックを手に取って一回に駆け降りる。

 リビングにいる両親に朝の挨拶を済ませ、用意されている朝食を食べる。

 家族と食べる朝も今日でしばらくお預けかー。

 なんて考えながら食べているとゆっくりしすぎたらしい。

 あと数分で家を出なければならなくなっている。

 しまった!ゆっくりしすぎた!


 残りを急いで食べ、歯を磨き、残り1分となり慌てて玄関に行く

「もう行くのね」

「もう行くよ」

「気を付けて行けよ、連絡もしろよ」

「たまには帰ってきてね」

「そんなこと言われなくても帰るよ、大体ホリデーには帰らなきゃいけないし」

 両親との会話もほどほどにし、行ってきますの言葉を残して家を出る。


 バス停にはすでにバスが停まっていて、乗り遅れたら大変なので全速力でバスに駆け込む。

 出発ぎりぎりで乗ることができ胸をなでおろす。

 あぶなかった、入学式に遅刻なんて笑えない。


 バスに乗ってスマホでもう一度駅までのルートを調べ直す。

 前日にも調べてあるが、万が一間違えてしまったら俺は入学式を遅刻して途中参加するという恥ずかしい思いをする羽目になる。

 それだけはなんとしても避けたい。

 念入りに、何度も何度も調べていると最寄り駅のバス停に停まった。

 調べるのに集中してた、気づかなかったら電車に乗り遅れるところだった。


 一日に二度も遅刻してしまいそうになるとは考えもしなかった。

 注意力散漫になってる、気を付けねぇと本当に遅刻する。

 心の中で乾いた笑いが零れる。

 初日から遅刻なんてさすがにごめんだ。


 俺は通勤ラッシュで満員の電車に乗り、人に押しつぶされながら電車に揺られる。

 今日から通う学園はどんな感じなんだろう。

 クラスメイトはどんな人がいるんだろう。

 学園に近づいていくと妄想が膨らむ。


 学園の最寄り駅で電車を降りそこから30分ほど歩くと学園の入り口の大きな門が見えてきた。

 だが、違和感がある。

 門に書いてある学園の名前が違う。

 厳密にいうと俺が受けた学園の名前と違う。


「ごめん母さんちょっといい?」

 どうして俺はここにいるのか。

 どうして俺は魔法使専門のデュランダルカレッジの門の前にいるのか。

 その謎を解き明かすために母さんに電話で聞く。


 なぜ自分の母親に聞くのかというと、最終的なやり取りは母親がしたからだ。

 母親が強引にやり取りを勝手に進めたのだ。

「俺さ母さんに渡された書類通りに来たらデュランダルカレッジ着いたんだけど」

「それね私がデュランダルカレッジに入学の連絡したから」

「はぁ!?俺は魔法補助具専門のアシェンプテルカレッジに入学するって言ったはずだ!」

「ダメ、デュランダルカレッジ以外は許さない魔法使になれるのにならないなんて有り得ない」

 そう冷たく言うと一方的に電話を切られた。


 ふざけんな!と大声を出したくなる、が出したところで現状が変わるわけでもないので俺は、叫びたい気持ちをぐっと堪える。


 入学希望の連絡がデュランダルカレッジにいっても、資格がなければ入学は認められない。

 だが、運がいいのか悪いのか魔法使専門のデュランダルカレッジと姉妹校の魔法補助具専門のアシェンプテルカレッジの両方とも資格があったのだ。

 おかげでデュランダルカレッジの入学が認められてしまったのだ。


 デュランダルカレッジの学園長に説明をしたら取り消しになるのではないか。

 いや、学園長に言ったところで俺の不手際だと言われるかもしれない。

 現状を理解され、入学が取り消しになったところで両親に連絡がいくのは想像がつく。

 つまり俺に逃げ道はないということ。


 あぁ、俺は腹を括らないといけない。

 魔法使の卵しかいないデュランダルカレッジで生きていかなければならない。


 この地獄で生きていくしかない。

 魔法がほぼ使えないというのに。


 メメント・ジェームズ・トーマスは今日より名門デュランダルカレッジの生徒となる。

 人生を賭けた嘘を貫き通す。

メメント・ジェームズ・トーマス

年齢:16歳

性別:男

在籍:デュランダルカレッジ

備考:先天性魔力零細病持ち

魔法は使えるが魔力が微々たる量で初級魔法以外は詠唱中失神または死亡する病

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