正しいゲームと偽りのゲーム
「リンネちゃん、この状況……わかるかな?」
ボクはそう見知った人物、リンネちゃんに声をかける。
「わからないよ……気がついたら此処にいた」
ボクと同じ状況って訳か。
ただ、こんな島で過す中で、こんな狂気に慣れてしまったとして……
誰もがここまで、取り乱すことなく現状を受け入れてしまえるのだろうか。
目の前の自称、正解を生きる者を別としても……
こんな状況を受け入れるなど……到底不可能な話だ。
……まぁ、ゲームとやらも始まっていない。
……実際に殺された人間もいる訳じゃない。
……置かれている状況に実感が沸いていないのかもしれない。
実際にボクもそんな感じだった。
旧校舎の廊下に出ると、ほとんどの場所の防火扉が閉まっていて、移動先のほとんどを閉ざされている。
向かいの教室だけが開いている。
自然と8名全員がその教室に入る。
先ほどの教室もそうだったが、窓ガラスは鉄板により覆われている。
ここが何階かはわからないが、窓から脱出ともいかないようだ。
教室を見渡す。
不自然に机が並んでる。
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上記のように、並べられた机。
席は丁度、8席ある。
それぞれが席に着けと言うように。
休み時間の終わり、授業の開始を伝えるチャイムが鳴り響く。
そして、教室の隅にあるスピーカーから声が響く。
「それでは、席にお座りください、一限目のゲームを開始します」
一つの席に座る。
机の上には透明なアクリル板のようなものが一枚立っている。
それぞれが席に座っていく。
ボクの目の前のアクリル板にトランプのようなカードの液晶が写される。
一枚は3の数字が描かれていて、もう一枚は裏面に伏せられたように裏面の柄のようなものが写されている。
他と3名液晶を見ても同じだ。
一枚のカードに数字が書かれていて、一枚は裏面で伏せられている。
自分の対面 リンネちゃんが座っている。
そして左には百瀬 チシノ
右に、至念 アキが座っている。
「今、君たちの前に【1】から【9】までの数字が書かれたカードが2枚づつ配られています」
そう校内放送が告げる。
「一枚はあなたにだけ見えていて、もう一枚はあなたには見えず、相手側にだけ見えています」
周囲を見る……確かに、4枚のカードが見え、4枚のカードが見えていない。
「そこで、ゲーム開始よりあなたは質問する相手を一人だけ決め、自分のカードが何かを導き出す質問を一つ投げかけることができます……もちろん、数字を特定するような質問……このカードは【1】ですか?なんて質問はNGです」
「また……答えを導き出されそうな質問を投げかけられた場合は質問の内容をパスすることができる……が、その場合パスした人間はその一巡は自分の質問件を失うことになります」
「もちろん、質問の答えが嘘になる場合はその時点で負けが確定します」
「一度質問された人間に再度質問は、その方に質問権が回るまでは質問できません、パスしていた場合は質問権はありませんが、質問される権利は回復します」
「【1】から【9】までのカード、配られるのはその中から8枚、一枚は場に伏せられる形となり、それぞれは誰か一人に質問を投げかけ、自分の裏のカードを先に言い当てたものからあがりとします」
そう説明される。
自分の前には【3】のカード。
一枚は裏面を向けている。
このカードが【3】を抜いた、【1】から【9】のどれかという訳か。
周囲に目を向ける。
リンネちゃん。
ボクから見えるカード【7】それは、彼女が答えなければならない数字。
そして、彼女だけが見えている数字は、逆にボクには見えない。
左 百瀬 チシノ。
見えるカードは【1】もちろん彼女の見える表のカードはわからない。
右 至念 アキ。
見えるカードは【4】表のカードはわからない。
ボクから見えるカードは【1】と【3】と【4】と【7】
見えていないのが、【2】と【5】と【6】と【8】と【9】
その5枚の中にボクの裏のカードの数字が紛れている。
その内3枚が彼女たちに見えているカード。
そして、1枚はこの場に配られること無く伏せられたカード。
取りあえず、この場で危険視する相手は……右側の女性だ。
実際、このゲームで何があるのかはわからない……
それでも……対面の女性……彼女はなんとかあがらせたい。
「それじゃ、ゲームを開始します……先手はお任せします、そこから時計周りに質問を始めてください」
そうスピーカーごしに声がする。
「ボクから……いいかな?」
ボクはそう小さく挙手する。
……沈黙のあと、
「どうぞ」
アキちゃんがボクにその権利を譲る。
「チシノ先生に質問します」
ボクは周りのカードを見てからその視線をチシノ先生に映す。
「……どうぞ」
そうチシノ先生は返事をする。
「チシノ先生の見えるカードに【7】のカードはありますか?」
そう尋ねる。
対面のリンネちゃん以外はあからさまに不信な顔をする。
当然だ……
聞くまでもなく……ボク自身にそのカードは見えている。
そして、その質問の意味は彼女たちには思いつかないだろう。
……いや、実際にボクにとって何のメリットもない。
「……見えるわ」
そうチシノ先生は不信な顔をしながら答える。
リンネちゃんの目線から……
自分の裏のカード【7】は見えない。
だが……そのカードをチシノ先生が見えると言った。
彼女の目線から【7】のカードはすでにチシノ先生の表のカードか、自分の裏のカードであることが確定していることになる。
彼女の目線から見えるカード。
伏せているカード、ボクとアキちゃんの表のカードは見えない。
少なくとも現状でボクが彼女のために質問を使ったことは3名ともに伝わっていないだろう……
後は、それをどうリンネちゃんに伝えられるかだ。
「……噂どおり、不快な人間ね」
そうアキちゃんはボクをギロリと睨みながら
その視線を前に戻す。
「次は私から……鳴響さんに質問するわ」
そうアキちゃんが言う。
「あなたの目線から【4】のカードは見えるかしら」
そうリンネちゃんに尋ねる。
鋭すぎるだろ……
自分の手札と、相手のオープンされたカードから……
自分の裏のカードにすでに目星をつけている。
彼女の裏のカード、【4】が答えだ。
彼女がその質問にYESと答えれば、リンネちゃん同様に彼女はリンネちゃんの表のカードか自分の裏のカードが【4】であることが確信できる訳だ。
「質問をパスします」
そう……リンネちゃんは答える。
自然と、リンネちゃんの質問件は奪われ、チシノ先生に質問の権利が移行する。
「逸見君あなたに質問するわ」
そうチシノ先生がボクを指名する。
「あなたから見える私のカードは【5】以上かしら?」
そう聞かれる。
答えは【1】……回答はNOだ。
少なくともボクの視点から彼女は【1】と【3】は見えていない。
質問に答えたとしても、答えにはたどり着けない。
あがり席を3席残して、もし答えが二分の一になったとしても、
そんな賭けにはでないだろう。
「【5】以下になるかな」
ボクはそう答える。
さて……
あとは、どう信じてもらうかだ。
「リンネちゃんに質問する」
ボクはそう彼女に質問する。
「……リンネちゃんの目線から【7】のカードは見えるかな?」
3名共、複雑な顔に変わる。
無理もない。
ボクの質問は余りにも異常過ぎる。
「見えない……」
リンネちゃんは答える。
後はリンネちゃんがボクを味方だと信じて……
後はボクに質問をするだけだ。
伝わってくれ。
「本当に……不快な奴」
険悪な目線をアキちゃんに送られる。
「百瀬先生に質問します」
そうアキちゃんは再び目線を戻す。
「先生から【3】以下のカードは1枚以上ありますか?」
そう質問する。
「1枚も無いわ」
そうチシノ先生は答える。
……これは、彼女の目線からすると大きな収穫なのかもしれない。
……が、それよりも……
次の質問はリンネちゃん。
何かに怯えるように伏せていた目線を起こし、ボクを見る。
「とうたくん、君に質問する」
リンネちゃんがボクを見る。
そう……それでいい。
「……あなたの目線から【7】のカードは見えますか?」
その質問にボクは……
「見えるよ」
そう答える。
その時点で……彼女の答えは確定した。
同時に隣のグループから一人目のあがりが出たようだ。
すくっと一人の女性が立ち上がり、真っ直ぐに立つ。
ジャージのポケットに手を突っ込み
あがりを決めた女性はボクの後ろを通り、一足先に教室を退場する。
「先に待っているよ、つまらない偽善で足元掬われるなよ?」
そう彼女はボクに言い残しその場を去る。
答えは決まった……
リンネちゃんもそれに気がついている。
だが、それを彼女は答えようとしない。
多分……彼女なりにボクへの恩返しを考えているのだろう。
残りの質問をボクのために使うつもりなのかもしれない。
「……それじゃ、至念さんに質問するわ」
そうチシノ先生が言うが……
「待って……」
そうアキちゃんが一旦阻止する。
「さっさと答えなさい、あなたがさっさと教室を去れば取りあえず今の不正には目を瞑る」
そうアキちゃんが、ボクを睨んだ後、リンネちゃんを見て言う。
「……残された、偽善者は自業自得……不利な状況で勝負を続けてもらうだけ」
そうアキちゃんがリンネちゃんを見たままボクに向けた言葉をはなつ。
少し困った顔でリンネちゃんがボクを見るが……
「ボクの勝手でリンネちゃんが勝手に助かっただけだよ……後はボクが勝手に助かるか、死ぬかのどちらかに転ぶだけ……痴れ事だけどね」
ボクがそうリンネちゃんに言う。
「……コール、答えます」
そうリンネちゃんが小さく挙手する。
「私の裏のカードは【7】です」
そうリンネちゃんが答える。
リンネちゃんのパネルに【clear】の文字が表示される。
リンネちゃんは心配そうにボクを見ながら、この場所から退室する。
この勝負の負けが【死】に直結している。
恐怖が無いわけはない。
こんな場所でこんなゲームを強いられ、
その恐怖から目を反らしているつもりもない。
自分が最初の犠牲になってやろうなんて気もない……
それでもボクは彼女を最初にあがらせた。
痴れ事だけどね……
この勝負はさ……ボクの勝ちだよ。
知らぬ殺人鬼にボクは胸の中で呟いた。