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真実と偽りのデスゲーム  作者: Mです。
1/3

正しい彼女と偽りのボク

 「なぜ、見ない?本当は誰よりも見えているんだろ?」

 黒い長い髪、前髪は眉毛のあたりで綺麗に同じ長さに切りそろえられ、

 学園の制服に身を包みながらも、学園の規定のジャージの上だけその制服の上から着込みジャージのポケットに手を突っ込み燐とした態度でボクの前に立つ。


 全くボクと正反対である彼女。

 全くボクと相違する彼女。


 学校の放課後の教室……

 いつもなら、誰かしら一人くらい教室に残っているはずなのに、

 この日は、まるでこの学園からボクら二人を残して消えてしまったように、

 ボクと彼女は二人だけだった。


 「先の事件もその前の事件も、君は誰よりも事件それを理解していたのだろう?」

 彼女の正義はボクを許さない。

 彼女の正しさはボクの不正を許さない。


 「何があっても悪は悪だ……そうでなければならない……」

 そう燐とした態度で、相変わらず両手をポケットの中で、姿勢良く直立していて……

 今、この口論はすでに、最初から初めから、相手になんてならないくらいに……敗北していた。



 「正しく生きるなら法に従いなよ……それが正解とは言わない、それでも馬鹿ひとが生きるためにはそれが共存いきる方法だ……それができない者は世界ほう搾取ころされるだけさ」

 燐として……私はそうでは無いと……そう瞳は力強く語る。


 彼女はいつだって正しかった。


 多分、ボクはいつだって間違っていた。


 こうして彼女と話すのは始めてかもしれない。



 常に悪と戦い、正しい事を見つめてきた、正視 キョウカ(まさみ きょうか)

 ただ逃げるように、偽りを見てきた、逸見 トウタ(いつみ とうた)


 ボクと彼女、二人は対峙する。


 ボクはその先に起こる事件をまだ知らない。


 彼女の正しさもきっとその事件の真相をまだ知らない。


 こんな島で、こんな場所で……



 呪われたように、事件それはたて続けにボクの前に現れる。


 そして、ボクはそれを見ない。

 そんな、正義かのじょボクを許さない。


 そんなボクと彼女、二人の前でさえもこのきぃういは……その殺意を剥き出しにする。


 今のボクらはそれに気づけない。


 そんな彼女ただしい目は何をうつするのか?

 そんなボクの目はなにをうつすのか?


 その二つの視点でボクらは……事件それに正解することができるのだろうか?


 彼女の瞳はボクの偽りを正す。

 ボクの視線は彼女の正しさを否定する……。


 矛盾……それは決して正当化できない。

 それでも……彼女の目はただ、正しく。

 ボクの瞳はいつだって、偽りだらけで。


 そんなボクの痴れ事を……彼女の至言も……

 間違いだらけで、正されて……

 見失って……探して……


 

 ボクらは対峙する。


 その相違する鏡は何を写すのか。


 ・

 ・

 ・


 「ねぇ、とうた君、君はこの世界が平和だと思うかい?それとも残酷だと思うかい?」

 ボクよりも10年は長く生きていそうな男はそうボクに尋ねる。


 「……ボクに難しい話はわからないけど、少なくともこの島はそんな平和やさしい場所とは思えないけど……」

 ボクがそう返すと、何が楽しいのか男はへらへらと笑い……


 「そうだね、この世界は残酷なほどに平和で、優しくない」

 男がボクに言う。


 「なぁ、とうた君……この世界には決まって人間は二種類に分けられているんだ」

 男の瞳がそっとボクの目を覗く。


 「この世界で生を謳歌できるものと……ボクのように生き難くさと苦痛しかその生を見られないもの」

 そう疲れた、目の下にはくまのある、その瞳で……


 「なぁ……とうた君、君はボクのような無能な人間がなぜこの世界で生きられていると思う?」

 その男の言葉に……


 「……その資格があるから……」

 そんなボクの適当な痴れ事に……


 「なるほど……とうた君、僕はね……君より少しだけ長く生きて気づいたんだよ……平和になりすぎたのさ、残酷なまでに……ね」

 そう……先の言葉を繰り返すように。


 「多分……僕がね、何百年前に産まれていたら……今のような平和な場所で産まれていなかったら、きっと、もの心がついたころには死んでいた、そんな人間が生きられる世界になっちまったんだ、だから、そんな人間は生き辛さを感じる、そういうことなんじゃないのかな?……悲しむべきか喜ぶべきなのか、複雑だよ本当に」

 男は再びヘラヘラと笑いながら……


 平和だからこそ残酷な世界だと……男は言う。

 平和だからこそ人に平等に優しいとは限らない。


 「自分つよきものたちが築き上げた平和な世界を壊したくないから、弱いものが生きる事を止めることを許しはしない……ってこと?」

 ボクはそう男に尋ねる。


 「なるほど……僕の言葉をそう汲み取ってくれるか、さすがだね」

 男は楽しそうに笑いながら……


 「例えば、目の前に暴力を振るわれてる人間がいて、自分がそれを守らないとならない大人たちばだったとして……案外、動ける大人って少ないんじゃないかい?」

 「責任だとか立場ってだけで、僕以外の人間は皆動けるもんなのかい?」

 男はそうボクに尋ねる……


 偽りのような場所で生きてきた。


 偽りのようなルールの中で生きてきた。



 この島の外で当たり前のそのルールは正常か、偽りか……

 ここに住むボクには無縁のようで……

 そんな平和な場所から地獄に踏み入れた男はいったいどんな心境でここに居るのだろう。


 数日前に島の外から、この学園の教師として招かれた、自称無能の教師、仁品 ノウム(にしな のうむ)

 島の外で、居場所を追いやられてこんな場所に来てしまった。

 基本的には良くも悪くも突出した才能のような人間が多い中……


 彼は余りも無個性で……余りにもこの場所には不釣合いで……

 だからこそ、ここの脅威に溶け込んでいた。


 ・

 ・

 ・




 ゆっくりと……目を開く。

 数時間前の記憶が無い。


 真っ暗だ……

 数日前の出来事を思い出す。


 八神ソウスイに不意に殴られ、見知らぬ倉庫に監禁された……


 だが……暗闇の中、そこに居るのは自分ひとりじゃないことがわかる。

 しかも、数名……ボクと同じように訳もわからずにここに連れてこられたって感じだ。


 不意にその暗闇の部屋に置かれていたテレビの液晶がつく。

 そのテレビの明かりがぼんやりとあたりを照らす。


 ボクは最小限に瞳を動かし、場所……人……状況を読み取る。

 理由はわからない……が、不本意にキョロキョロと頭を動かして、

 自分の動きを周りに探られるのが良くない気がした。


 ……旧校舎……数ヵ月前に取り壊しが決まったはずだったが、

 今もこうして残っている。


 人の数……ボクを含めて8名。

 この場に居るのは……だが。


 状況……ボクらは皆何者かに囚われている。

 少なくとも、ここに居る全員はそう装っている。


 そして、画面には9人目の人物が映された。


 仮面を付けて深くフードを被った人間。

 これからデスゲームでもやらされるのかと思うくらい、雰囲気のある人物。


 「キミたちには、これより、いくつかのゲームに参加してもらう」

 画面の奥で男はしゃべり、左奥の天井付近にあるスピーカーから声が聞こえる。


 テレビの映像は無視して、周囲の人間を観察する……

 映像の内容が大切なら後から誰かに聞けばいい。


 それよりも重要な情報があるとするのなら……



 「それで、ゲームに負けたものから順に殺していきます」

 変声機で変えられた声がスピーカーから響く。

 デスゲームのように殺し合いをさせられる訳じゃないようだが……


 ゲームの内容によっては、ここに居る者同士が蹴落としあうものなら……

 誰もが黙ってその映像の声を聞いている。


 「それで……勝つ条件は?」

 以外にも一番最初に声を出したのはボクだった。


 確かめたかった……


 このテレビの映像が録画なのか……ボクらの姿が見えているのか……声が聞こえているのか……質問に対応できるのか……


 「……勝つ条件……?」

 仮面の人間は惚けるように……


 「あんたの負けの条件が何かって話だよ、それがわからなければゲームは成立しない」

 ボクのその言葉に、画面の奥の仮面の人間は笑いながら答える。

 録画ではなく……リアルタイムの映像ってわけか。

 実際に笑っているかなんて仮面でわからないのだけど。


 周囲の人間……全員がそれなり離れた位置に囚われている。

 実際にその表情を伺うのは難しい……


 「殺人鬼わたしを探し出せばいい」

 そう映像の奥の殺人鬼は言う。


 「なるほど……私たちが全滅する前に、この旧校舎の中から殺人鬼あんたを探せってこと」

 ボクの代わりにそう口を開く。

 こんな状況でありながら冷静に……

 ここからは表情は見えないのに凛とした姿で真っ直ぐと悪を見つめているのがわかってしまう。


 正視 キョウカ……彼女もまたボクと同じく囚われていた。


 「そう……数時間ごとに、ひとり、またひとりと仲間を生贄ぎせいにしながら、全滅する前に、私の元に一人でも辿り着ければキミたちの勝ちとしよう」

 そう画面の奥の人間はキョウカちゃんに返す。


 ゲームに負けたものから殺されていく。

 目を覚ましたらそんな狂気な場所に居た。



 「それで、そのゲームとやらにあなた自身は参加するの?」

 ボクのそんな質問に……


 「もちろん」

 参加するよと画面の中の者が言う。


 「だって……私はキミたちの中にまぎれているからね」

 そう仮面の者は笑いながら……

 液晶がプツンと消え。


 ガシャンと大きな音がすると……

 天井の電気が一斉に灯る。


 同時に手足を固定していた鉄の枷が外れる。


 彼女の《《正しさ》》は何を見た。

 ボクの《《偽り》》は何を見ていた。


 キョウカちゃんはこの状況を殺人鬼の存在すらも恐れることなく、すくりと立ち上がり、一通り部屋を見渡している。


 ボクもあらためてその場にいる一人ひとりに目線を送り、人物を確認する。


 ボク……逸見 トウタ。

 彼女……正視 キョウカ。

 

 そして、鳴響 リンネ。

 数日前にここに来て、出会ったばかりの……仁品 ノウム。

 ここまでが見知った人物。



 5人目……茶髪の長い髪……

 名乗られなくてもそれが誰なのか……

 彼女の面影を残している。


 最初の事件の至念しねん家の次女……

 至念 マキ……の姉。

 一つ上の学年。


 至念 アキ。


 6人目……国語の教師。

 百瀬 チシノ。


 7人目……数学の教師。

 大場 カズイエ。


 8人目……隣のクラスの生徒。

 芝原 リンカイ。



 8名の顔をゆっくりと流すように見る。

 そして、その場の極めて正しいものを写す。


 同じように周りを見回していた正しい瞳はその場の偽りを写す。

 ボクと彼女の目が合う。


 彼女は姿勢を真っ直ぐに、両手を制服の上から来ているジャージのポケットに手を突っ込んだまま、真っ直ぐにボクの方に歩いてくる。



 「何かみえたのか」

 彼女はボクにそう尋ねる。


 「誰が……犯人か、実は見えていたりするのか?」

 そうボクに問いただすが……

 もちろん、彼女の正しさが見えないものが見えているはずがない。


 「わからないって割には、難しい顔してるじゃないか」

 首を降るボクに彼女はさらに追い討ちをかけるように。


 「キョウカちゃんは……気にならなかった?」

 ボクのその言葉に。

 こんな場所なのに……少し嬉しそうにボクを見る。

 その先の言葉を待つように。


 ボクの瞳も少しは正しいものが見えてしまっていることに……


 「8人の中の誰かよりも……9人目の何者かを探せとでも?」

 ボクの答えを見透かすように……


 「あのテレビの映像はボクとキョウカちゃんの質問に答えていた……」

 ボクがその内容をすでに知っているだろう彼女に話す。 


 「……あの言葉が本当なら、ボクたち8人に紛れて、何処か違う場所からカメラに向かって、話すことなんて不可能じゃないかな?」

 そうボクが返す。


 「……そうね……でも、本当はどう見えているの、君の目はそんな真実を写していなかったんじゃないの?」

 そうボクの瞳を覗き込むように……


 その正しさは何を写す。

 ボクの偽りは何を語る……


 閉鎖された旧校舎の中で……


 今のボクに……武器なぎちゃん凶器うみちゃんも居ない。


 今回の殺人鬼さつじんきが何が目的でこのメンバーを集め、

 何を目的に殺人ゲームを始めたのかはわからない。


 この8名の中にそいつは居るのか?

 どこか違う場所でそいつは映像だけ見ているのか……


 多分、その正しさも偽りもその答えは見えていて……

 でも、それが誰なのかまでは見えていない。


 

 ガラガラと部屋を塞いでいた鉄の柵が開く。

 木製の旧校舎、明らかに後から、今日のために取り付けられたような、柵が開かれ、部屋の外に出ることが許される。


 「どんなゲームか知らないけど、私と勝負しようって……」

 キョウカちゃんはボクからその柵のあった向こう側に瞳を写す。

 その正しさは自分の敗北を写しなどしない。


 ただ……ボクの足りない脳みそでもわかっていること。

 ここに居る8名全員の意識を奪いこの場所に連れてきた、その何者かは……こんなゲームの参加を強制させて居なければ、その時点でボクら全員を殺せるだけの狂気であるということだ。


 例え、ゲームに勝ったとして、ボクらが助かる保障は無い。


 それでも……彼女の正しさも、多分……ボクの偽りも……


 敗北それを写さない。

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