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『フツウ』です

作者: 草野あおい

生温い風が吹き込む。


シャワーを浴びて、すっきりしたはずなのに、この部屋に戻ってきた瞬間にジトっと皮膚の表面に汗がまとわりつく。

温暖化の影響で、年々上昇する気温にうんざりし、クーラーのないこの部屋で今年をどう乗り切るかを考えていたが、答えは出なかったので黙って目の前の数学の問題に取り組んだ。


深夜11時。

人の本能とは相反して、起きていなければならない状況に眠気覚ましにと、深夜のラジオを流す。

最近は便利なもので、スマホからでもアプリを使ってラジオが聞ける。いつものようにアプリを押下。するとスマホから現在位置を把握し、放送を受信する形になる。

今日の放送のMCは声優さんで、少し弄られやすいタイプの人。面白いトークと軽快な笑い声で目が覚めるので、夜中に聴くにはうってつけだ。


『それでは最後までお楽しみください!』


パリッとする爽やかな声が響き、お便りのコーナーに移った。


『今日のテーマはホラー。リスナーの方から寄せられた実体験の話を紹介しましょう。それでは最初のお便りです。東京都在住20代の【着信アリ】さんから。…うわぁ、名前からして、ちょっとホラー感が。』


『…こんばんわ。いつも楽しく番組を聞いています。』


『…どうもありがとうね。』


『これは私が先…じ……体験した…こ…なのですが…』


Wi-Fiの調子が悪いのか、途中で話が細切れに聞こえるようになってしまった。仕方がないので、いつもは使わないCDデッキから聞くことにする。

アプリから聞けるラジオと、CDデッキから聞くラジオではタイムログがあって、ほんの数秒CDデッキの方が早い。

ただ、今聞いてる局はこの部屋からだと少し入りにくい部分があって、突然繋がらなくなるのも嫌だったし、またWi-Fiの調子が戻ればアプリからも聞けると思い、スマホの方はつけっぱなしにした。

とうのスマホは、ネットワークを探しているようでローディング状態になってしまったのだが…



『友人に電話をかけていた時に、突然『つながらないよ』と中年の女性の声が聞こえて切れてしまいました。その時はその友人のお母さんの声が一瞬つながった時に聞こえたのかと思ったんです。それで慌ててもう一度かけ直しました。今度は友人につながり『今、家に居るの?』と聞くと、『え?今1人でマックだけど??』と返ってきました。その瞬間、背筋がゾクリとして、私は一体誰と話したんだろう?どこへ繋がったんだろう?と思い、怖くなりました。いまだにあの声が耳から離れません』


『うわぁ…えぇー…それって間違え電話をかけちゃったんじゃないの?って思いたいね…一発目から』


『一発目から』


ようやっとスマホの方がつながりだした。


『あぁ…だいぶ寒くなった感じがする。え?もう1枚読むの??寒くなったからもう…はい。読みます。続いてのお便りは、埼玉県在住30代の『フツウです』さんから。』


『埼玉県在住30代の『…です』さんから。』


一瞬、スマホの方の音が途切れた気がした。気にせず聞いていると...


『いつも楽しく拝聴して…います。‥‥‥‥‥‥』


いきなり音声がやけに小さくなってしまったようで、聞き取りづらくなってしまった。何かごにょごにょと聞こえるので、さっきみたいにローディングしてるわけではない。慌てて音量ボタンをあげてみた。

最大にしたはずなのに無音が続く。

あれ?と思った時、









『・・・・・・・・・つながらないよ』






と急に中年女性の声が聞こえて途切れた。




『…もういくらラジオだからって『音』ネタのホラー持ってくるの勘弁してよ。この人の名前見たときに嫌な予感がしたんだよね~。『不安の不に、通じないの通で不通』って。え?このコーナー来週もやるの?…あ、やんのね。というわけで、まだまだホラー体験募集中です。どしどし送ってきてください!』


CDデッキからやけに明るい声が響いていた。

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