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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
一章 一年生
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自覚

 地域大会で男女とも優勝。

 優勝候補だった強豪校には苦戦を強いられたものの勝ちを掴み取った。

 それを待って体育館の工事が入り、部活が長い休みになってしまった。

 部活がなければ先輩との接点がない。

 接点がなけれが彼が私の家にくることもない。

 部活がないまま春休みを迎えてしまった。

 完全に暇を持て余している。暇つぶしの勉強すら身に入らない。

 冬休みにも似たような気持ちになったけれど、それより酷い。

 いままでこんなことなかったのに……。

 『つまらない』

 スマホを片手に友達欄を眺める。

 が、未だに彼の連絡先を聞いていない。


 ホワイトデーにお返しとして彼に貰ったフラスコ型のガラスの入れ物。

 机の上にあり、窓からの光が反射して眉をしかめる。

 『なんか面白いから気になってこれ買ったんだけど』

 と、ホワイトデーのお返しとしては変化球。

 先輩らしいお返しだと私は笑った。

 フラスコの中には金平糖が詰まっている。

 これは私が入れたもの。

 元はチョコレートが入っていたのだが、すぐになくなった。

 一粒取り出して口に放り込む。

 甘い。

 沈んだ気持ちが少しだけ持ち直すのを感じる。



「夏菜いる?」


 

 控えめなノックの後。

 ドアを挟んで母さんの鈴の音のようなやさしい声が聞こえる。

 ベッドに投げていた身体を起こし母さんを出迎える。



「いるよ」



 母さんが隣に座る。

 ふわっと石鹸のいい香り。

 この匂いは私を安心させる。



「夏菜、最近元気ないからどうしたのかと思って」

「そう見える?」

「うん」



 無表情と言われる私の顔は親にもお見通しだった。

 母さんの綺麗な黒髪が私に触れると、目の前にくりくりとした茶色い瞳が現れる。

 左手を私の頬に触れ、やさしく撫でる。



「好きな人出来たんだね」

「え? 先輩は……」



 母の指で口を閉じられる。



「もう答え出てる。お父さんが私を見る時の顔にそっくり」



 徐々に身体に熱が帯びていく。

 あ、これは。やばいかも。

 認識してしまったらもう遅い。

 

 特に好きになるきっかけはなかったと思う。

 印象に残る出来事はあった。

 けれど、それは知り合う切っ掛けと仲良くなる切っ掛けだった筈。

 どこに惹かれたかわからない。

 私に挑んでくる真剣な目だろうか。

 時々見せる優しさだろうか。

 出会ってからそんなに時間も経ってないように思う。



「夏菜、好きっていう気持ちに理由付けはいらないの」



 母の言葉はするりと私の中に入り込み、溶けて一部となった。



「そっか私先輩のこと」

「初恋だね」



 少女のように微笑む母。

 これが父さんを虜にした姿。

 やさしくて安心させる雰囲気。



「実らないって言うよね」



 私にしては卑屈になる。

 恋というものがわからない。

 知らないものは怖い。

 恋が実った曲は多いように、失恋の曲も多い。

 そのどちらかしかないとも言える。

 失敗か成功か。

 負けか勝ちか。



「言うだけ」

「そうなのかな」

「私と父さんも初恋同士だから、きっと夏菜も大丈夫」



 頭を優しく撫でられる。

 くすぐったい。



「応援してくれる?」

「もちろん」

「頑張る。先輩に勝って見せる」



 この勝負は負けられない。

 自分から挑んで勝ちに拘るは初めてだ。

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