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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
一章 一年生
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私と先輩の伸びしろ

「先輩。あけましておめでとうざいます」

「あけおめ」


 

 移動教室のために理科室へ向かう途中、同級生と歩いている先輩を見つけたので新年の挨拶を交わす。

 新学期になってようやくバスケ部が再開されるので休みの期間に彼と会うことなく、練習で使っている公園にも姿が見えなかった。

 部活あがあれば毎日顔を合わせて話をしたり、二人で練習していたので少し寂しいとは思った。

 だからだろうか。

 先輩の姿が見えたときは微細な喜びを感じた。



「柊、その子は?」



 彼の隣に立っていた男子生徒が私を顔から下へ向かっていき、最後に顔に戻る。

 男の子特有のちょっと性的な視線もある。

 慣れているからというのもある、けど先輩の友達なら悪い人ではないだろうと。



「バスケ部の後輩」

「一年の市ノ瀬です」



 先輩の答えに続くように自己紹介をしておく。

 一緒にいるのだから仲のいい友達。

 また会うことになるかもしれないのだから、挨拶していて損はない。

 相手が覚えてくれるかどうか知らないけど。

 事実だけあれば責められることはしないだろう。



「彼女?」

「違うけど」



 迷わず答える先輩に少しイラッとした。

 確かに交際はしていないけれど。

 もうちょっと言い方というものがあったんじゃないかと思う。

 


「市ノ瀬?」


 

 彼は友達に先に行くように伝えると、二人だけになる。

 先輩が少ししゃがみ、私の顔を覗く。

 目線が同じになりいつも以上にばっちりと彼の顔が見える。

 ……っ。



「なんですか? ちょっと気持ち悪いんですけど」

「気持ち悪いって……。流石に傷つくぞ」



 私の悪態にも怒らず、苦笑いを浮かべながら心配した表情。 



「なにか怒ってる?」

「いえ。そういうわけでは」



 虫の居所が悪いかもしれない。

 確かに先輩にちょっとだけ不快感を覚えた。



「まだ全然寒いし風邪でも引いたのか」



 教材を両手で持っていたためか、咄嗟のことで反応が遅れたのか。

 先輩の手が私の額に触れる。

 暖かくて大きい手。



「熱はなさそうだな」

「へ、平気ですよ」

「そう? 顔が少し赤いから気をつけろよ。何かあれば言ってくれればいいから」



 そう言ってようやく手が離れる。



「それじゃ先輩。私理科室に行くので」

「おう、じゃまた放課後な」

「はい。失礼します」



 私は逃げるように早足で理科室に向かうことにした。

 なんで私が逃げなきゃいけないんだと、一人愚痴る。



 ※



 午前中にあったことはすっかり忘れ。

 部活の時間になる。

 今日は二月に行われる春大のレギュラーを決める部内での試合が行われる。

 夏の大会ほどではないけれどそこそこ大きな大会。

 先に女子の試合が行われる。

 三年生が居ないので一年も試合に参加。

 一年通して見ているとこの学校のバスケ部は男子も女子も実力が跳ね上がったように感じていた。

 理由は簡単、私と先輩がいるからだ。

 嫌でも一年間私達に付き合わせられるのだから、目も慣れ、動きも慣れる。

 だからと言って私に勝てるはずもなく。

 試合は私のいるチームの圧勝。

 私は7の番号を貰った。


 男子の試合が始まる。

 体育館の二階。

 手すりに肘を付きながら、くつろぎつつ試合を眺める。

 先輩は2試合目から出場になっているので、特に面白くない。

 女子の試合を見るよりはマシ。

 その程度。

 いくら上手くなったとはいえ、私は先輩の動きに慣れすぎてしまった。

 女子の動きでは物足りない。 


 いつの間にか私の回りに女子部員が増えていた。

 彼女らも試合を観に来たようだ。

 昔なら各人好きなことをやっていたような。



「次、柊君の試合だってー」

「楽しみだよねぇ」



 そんな会話が聞こえる。

 へぇ。

 先輩人気なんだ。



「市ノ瀬さん。柊君ってどのくらい強い?」



 私は振り返らずに、準備を終えてコートに入ってくる先輩を眺めながら答える。



「どうでしょうか? 比較対象がいないのでなんとも言えないですね」

「市ノ瀬さんとしか張り合えてないから、貴方から見てどうなのかなーって」

「そうですね。あと1,2年したら私は先輩に勝てません。それくらいの強さだと思います」



 簡単に負けるつもり勿論ないですが。と付け加える。

 男子と女子。

 リーチに筋力、スタミナ。いずれは離される。

 いくらフローターを覚えても取られるようになるし、私がいくらブロックしても無意味になる。

 あとはこの身体。

 中学生ながら育ちが良く、胸がEカップまで成長している。

 母もその頃には同じサイズだったようで遺伝子を色濃く受け継いでしまった。

 足元が見づらく、腕の稼働の邪魔。

 まだまだ戦えるという自信はある。

 けれど私と彼では成長の限界値が違う。

 

 先輩の試合が始まった。

 なんというか、私もそうなのだろうか。

 一方的な試合で相手チームを蹂躙していた。

 ただ先輩は個人技だけに頼らず、チームとして動くことも必要とあればしている。

 それに私に勝つために覚えた技の数々。

 一人だけ中学生の粋を超えている。


 全試合が終わり、先輩も私と同じポジションでレギュラーを貰っていた。


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