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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
一章 一年生
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冬休みの暇つぶし

 冬休みになり私は暇を持て余していた。

 先輩もいるのかなと思い公園に出かけたりもしていたが、一度も見かけることはなかった。

 約束しているわけではないから何も言えないけど。

 腕が鈍らない程度に基本的な練習と、まだ10本に1回は外してしまうフローターシュートの練度上げだけをする。

 先輩との試合。

 あの瞬間だけは絶対に決まるという感覚があった。

 コツは掴めているものの手首をスナップするシュートとは違い、押し上げるように打つ。

 普通のジャンプシュートのように溜めてから打つのではなく、一瞬でゴールの向きと距離を見極めて打つ必要もある。

 仮想の先輩を思い浮かべながら何度も練習し、満足が行く頃には日が落ちてきていた。



「うわっ……」



 身体から湯気が出ている。

 練習に集中するあまり薄着になっていて、汗をかいていた。

 汗冷えしないようにすぐにタオルで拭い着込む。

 すぐお風呂にしよう。

 幸い母さんは家にずっといるのでお願いして沸かしてもらうことにした。



「ただいまー」



 リビングにいるであろう母に声を掛けながら、自室に着替えを取りに。

 誰に見せるわけでもないので着心地優先。

 父に似たのか私はかなり長く浸かる習性があり、お風呂に上がる頃に1時間ほど経っていた。



「夏菜、少し気抜きすぎじゃないかしら」

「今は母さんしかいないし」



 元は父親の物だった、だぼだぼのTシャツに下着一枚。

 下着はシャツの裾で隠れていて見えないし、部屋は暖房が効いていて湯冷めする心配もない。



「柊君、今日くるみたいよ」

「え? ちょっと母さん先にそれ言ってよ」



 私はすぐに自室に戻ろうとするが、後ろから笑い声が聞こえた。



「冗談よ。私が柊君の連絡先知ってるわけないじゃない」

「もう」


 

 踵を返し、ソファで寛ぐ。

 身体の疲れが抜けるまでこうしてよう。

 キッチンに戻った母さんが紅茶を淹れて戻ってくる。

 母と私は紅茶派。父さんはコーヒー派。

 どちらも準備されているけれど、消費は紅茶の方が圧倒的に多い。

 いや、最近は先輩もコーヒーを好んでいるようで消費量は追いついてきていたような。



「実際、柊君いつくるの?」

「わかんない。正月はお父さんも休みで家にいるから来ないとは思うけど」

「連絡してみて聞いてくれない。お店休みになってるところ多いから」

「うん」



 テーブルに置いてあるスマホを握り、アプリを開き友達欄を眺める。

 柊……。

 えーっと。

 柊渉。

 ない。



「私、先輩と連絡先交換してないや」



 考えてみれば学校内とうちでしか話したことない。

 コミュニケーションは部活やその後で事足りていたし、夕飯を食べるかどうかは毎日聞いていて、自炊するのも買いに行くのも面倒だなっていう表情。

 自分で言っていて訳のわからない表情を先輩が浮かべているときに少し強引に誘っているだけだった。



「なに? そんな自分の子を残念そうにみるのは」

「残念だからよ……。変なところだけ私に似たのかな? 普段は父さんみたいに何でも出来るのに」

「そう言われましても」

「自覚はないよねぇ」



 困った困ったと苦笑いの母親。



「柊君は来年3年よ。あんまりもう遊ぶ時間はないんじゃない?」



 なにを当然のことを言っているのだろう。

 3年生の部活は夏まで。

 それが終われば受験勉強に入るが当たり前。

 先輩の頭なら受験の心配はないかもしれないけど。

 

 母さんの言っていることの意味の根っこの部分に気づくのはもう少し後のことだった。

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