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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
一章 一年生
4/38

今年最後の勝負

「97点」



 部活の終わり、いつもの1on1後。

 今日も私が勝った。

 10対7。最近はこのスコアから前後しているだけ。

 理由は勿論、彼が上手くなるほどに私も上手くなる。拮抗しているだけ。

 勝負の結果を報告するため、珍しく制服に着替えて集合。



「ケアレスミスで二問損してますね」

「そういう市ノ瀬はどうなんだ」



 リュックから返してもらったばかりの答案用紙を先輩に投げてよこす。



「……満点。かぁっ、また僕の負けかぁー」

「先輩の負けですね」

「言わなくてもわかってるよ。焼くなり煮るなりどうぞお好きに」

「どちらも不味そうなので結構です」

「塩味効いてると思うんだよね」

「制汗スプレー貸しますよ……」



 人差し指を顎に当てて考える。

 罰ゲーム。

 あぁ、これなら。



「罰ゲーム決めました」

「出来る範囲でお願いします」

「時々でいいので一緒に夕飯を食べること」

「それならまぁ」

「では早速」



 荷物を片付けて先輩の腕を掴んで立ち上がらせる。

 『えっ、今日から』と慌てふためきながら引きずられる先輩。

 私はお構いなしに袖を引っ張って校門を通り過ぎた。

 両親に先輩が来ることを伝えると、素材があまりないとのことで彼を連れてスーパーに向かうことになった。

 自然と彼は道路側を常に歩き紳士的な振る舞いを見せる。

 少し以外。

 たまにこの人は私のことを女の子として見てない気がしていた。

 怒ることでもないし、私も気を使わなくて済むので良しとしているけれど、たまに見せる優しさと女の子扱いに少しドキリとさせられる。



「先輩はアレルギーとか苦手なものありますか?」

「アレルギーはないけど魚介が苦手かな、特に魚」

「それって骨を除くのが面倒なのでは?」

「えへへ」



 誤魔化し笑いをしても無駄だと思います。

 さて、献立は何にしようか。

 一任されているので今日は私が作る。

 男子生徒、部活でかなりの体力を使う。

 肉がいいだろうか。

 スタミナの回復には豚肉がいいと父さんが言っていた気がする。あとは確かにんにく。

 とんかつでいいかもしれないが、揚げ物は流石にちょっと面倒くさい。

 素直に生姜焼きにしよう。

 散々通っているスーパーだ。

 効率的なルートで食材を選び、買い物かごを持っている先輩を見ずに渡していく。



「先輩、リュックのサイドからエコバッグ取ってもらっていいですか?」

「了解ー」



 会計をしていると両手が塞がるので先輩にお願いして、食材を詰めてもらう。

 なんだか自分の両親とやっていることが似ていて照れくさく感じる。

 いつか私も両親のように仲睦まじい夫婦になって……。

 想像つかなかった。

 あんな風になりたいという願望はあるものの誰かを一途に想う姿が想像できない。

 帰り道。

 あの時は先輩にコーヒーを溢してしまったから、一緒にこの道を通った。

 けれど今回は自分で望んで歩いている。

 先輩と出会って半年、私も変わってきてのかもしれない。



 ※



 十二月の末。

 世間ではクリスマスモード一色。

 特に今日はクリスマスイヴで恋人のいないほうが多い中学生で浮足立っているように感じた。

 おかげで十二月に入ってから私は告白される回数が少し増えて少しげんなり。



「市ノ瀬、よろしく」

「はい」



 今日で学校も休み。

 クリスマスイヴの日。

 私たちは何をやるのかというと、もちろん。

 


「今年最後のチャンスだからな。勝たせてもらう」

「がんばってください」



 1on1だった。

 先輩が私にパス、それを私が返し勝負が始まる。

 なにか仕掛けてくるのか期待していたけれど、まずは様子見していたようで私が簡単に先制点をとる。

 先輩はスピードも読みも悪くないのにフェイントに引っかかりやすい。

 そうさせないようにしている私が言うのもなんだけど。

 右に重心をかければ右に素直についてくる。

 これは性格なのかもしれない。

 すぐに四本先取。

 五本目。

 これは先輩が取得。

 左右に振り回されて綺麗にロールターンを決め、私を抜きさり去りそのままレイアップ。前より磨きがかかっている。

 六本目も先輩。

 これは先輩の新技、リバースショット。

 引き離されるのが嫌なのか、いつも素直に新技があるとここで仕掛けてくる。

 ある意味初見殺し。

 次はもう決めさせない。

 そこからはシーソーゲーム。

 先輩が負けず嫌いなのは知っているけれど、最近気づいたことがある。

 私も結構負けず嫌い。

 特に先輩には絶対負けたくないと思っている。

 9対7

 あと一点。



「先輩、今日も私の勝ちですね」



 いつか身長差が広がって負けるかもしれない。

 そこで私が身につけた物。

 フローターシュート。

 ブロックお構いなしのシュートだ。

 先輩の最高到達点より高いふわっと浮かせる決め球。

 吸い込まれるように赤いゴールリングにボールは入っていく。



「はぁあ!? 今までそんなことしてこなかったじゃん市ノ瀬」

「私も素直に負けたくないので」

「来年絶対勝つかんな」

「はい。期待してます」

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