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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
三章 三年生
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卒業

 朝早く登校せずにぎりぎりに教室に入る。

 流石の私も学んだ。



「夏菜、今日遅かったね」

「去年ひどい目にあったから」

「正解だよそれ」



 麗奈は笑いながら、辺りを一周ぐるりと見回す。

 ただ少し疲れた顔をしている。



「もしかして迷惑かけた?」

「別にいいですけどぉー」

「近いうちに何かおごるから」

「お、マジ? じゃ許す」



 時刻になりチャイムが鳴る。

 パタパタと足音を立てながら、麗奈は自分の席へと戻った。

 机に置いてある、在校生が作った紙で出来た花を左胸につけると、担任が少し遅れて登壇し、ガヤガヤと騒がしかった教室は静かになるどころか、さらに盛り上がっていた。

 教師もそれを窘めることをせずに、会話に参加する。

 最後の一日。

 だからこそ盛り上がる。

 時間の確認だけは怠っていないで、その時がくれば静かになるだろうと、私は頬杖をついて外を見る。


 卒業に相応しいと思えるほど、曇ひとつない空。

 感傷に浸る。

 先輩も去年はこんな気持だったのだろうかと。

 いや、そんなことはないな。

 去年、彼はこのあと父親と会う約束して、DNA鑑定を行なったと聞いた。

 そっちで頭が一杯だっただろう。

 だから私を待たずして帰ってしまったのだ。

 タイミングが本当に私は悪いな、と。



「それじゃ廊下に出席番号順に並べ、ここからは静かになぁー」



 と、担任のもと私たちは動き出した。



 ※



 卒業式は滞りなく終わる。

 校長の長い話しも思い出になるアクセントとして受け取ろう。

 いつか先輩や山辺さんと話すことがあるかもしれない。

 あの校長今年も話し長かったですよって。


 麗奈と少しだけ会話をして、すぐに解散となる。

 彼女も来年には梅ヶ丘の生徒だ。

 無事、合格したようで私も安心した。

 唯一この学校での友人だ。

 来年も同じというのは嬉しくもなる。



「じゃ、夏菜。またね」

「うん」

「入学前に何か奢ってもらうかんね」

「わかってる」



 左手には卒業証書。

 右手には花束。

 今年もバスケ部恒例のプレゼントだ。

 泣き出す下級生を見て、もう少し何かしてあげたら良かったのかもと。

 後悔した。

 私は父親の性格を引き継いでいて、身内甘く他人に興味がない。

 まぁ、変われないだろうなって思う。

 こんな私が大好きだからだ。


 今日だけ運動場は駐車場となっていた。

 父も母も車で待機してくれている。



「もういいのか?」

「ううん、少しだけ歩きたいから荷物置いてていいかな」

「わかった、終わったら戻っておいで」

「うん。ありがとう」



 父にお礼を伝えて、校舎に戻る。

 花束の代わりに携帯電話。

 カメラモードを起動している。


 図書室で先輩がよく座っていた席。

 そこから見える反対側の校舎。

 白いテーブル。


 まだ片付けの終わっていない体育館。

 一番奥のバスケットゴール。

 そこから少し外れて、金属製の大きな扉。

 よく二人で休んでいた床。

 バスケ部の備品が置いてある倉庫。

 外にある思い出の詰まったバスケットゴール。


 一枚一枚丁寧に景色を切り取る。

 こんなもんかな。

 他にも色々と鉢合わせた場所なんかもあるけれど、やっぱり思い出すのはこの写真にある場所ばかり。

 もう写真でしかもうみることはない。



「お待たせ」

「じゃ帰ろうか」

「うん」

「「夏菜、卒業おめでとう」」

「ありがとう」



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