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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
三章 三年生
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学園祭

「先輩のクラスはなにか出し物あるんですか?」

「僕のクラスは休憩所だね。椅子を並べてるだけ」

「……本当にそんなクラスあるんですね、これどうぞ」



 先輩に先程買ったベビーカステラを渡す。

 土曜日。

 学園祭当日。

 金曜日は学生だけで、今日が学外からも入れる。



「僕のクラス部活やってる人が大半でそちらをメインやりたいってことでそうなった」

「なるほど?」

「そんな訳で帰宅部の僕は一日フリーだね」

「そうですか」

「ま、市ノ瀬が来てくれて助かったよ、暇しないで済む」

「……。それで山辺さんは? 先輩でも友達いますよね?」

「引っかる言い方だなっ」



 先輩は笑いながら突っ込むと、質問に答えてくれる。



「休憩所って言い出したのアイツだよ。出番がくるまで家で寝てるってさ」

「……よくそんな人と先輩仲良くなれましたね」

「ああ見えて、いいやつだからな」



 高校生の文化祭というわりに賑わっており、活気に満ちていた。

 自由な校風がそうするのがとても凝っていて、出店で出される物も本格的なものが多くて、ケバブなんかあって結構美味しかった。

 先輩はその隣にあったクレープを食べていた。

 そちらもそちらで美味しそうだけれど。

 クレープ、パンケーキ、チョコバナナ、わたあめ。見ているだけ胃もたれがしそうで、ベビーカステラは差し上げた。



「なんか、結構ガチで作ったおばけ屋敷あるみたいだけど行ってみる?」



 パンフレットを片手に先輩が誘ってくる。

 けれど、



「嫌」



 あれ以来ホラー関係は全部NG。

 先輩からパンフレット奪い取り、結構歩き回ったので映像部のショート映画や、謎の古の駄菓子屋再現した物があって中に入ると、確かにノスタルジーで見たことがない景色ながら圧巻された。

 私は何も買わなかったけれど、先輩は駄菓子をかなりの数購入していた。

 色んなアトラクションや演目など見ながら過ごすと、私たちの出番がやってきた。




「これサイズ大丈夫ですかね?」



 神楽さんの制服を借りるものの、サイズが合ってなくて萌え袖になっている。

 スカートは折り曲げればいいので大丈夫だけど。



「似合っているよ」

「……そうですか」



 先輩の言葉を素直に受け取り、諦める。

 ステージをサポートしてくれている生徒に見られて、こんな生徒うちの学園にいたっけってつぶやかれた。

 来年からです。

 よろしくお願いします。



「さて、行こうか」

「うっす」

「はい」



 私はこくりと頷く。

 野外ステージ。

 日陰になるように作られているが、ちょうど夕方。

 逆行でお客さんの姿がみえない。

 結構入ってるように、圧で感じる。


 サイドのスタッフがライトを付けては消して合図を送る。

 ステージのライトが一気に私達に向き、光を全身に浴びる。

 眩しくて見えない。

 けれど、山辺さんがスティックを叩く。



「わん、つー、すりー」



 ドラムの彼の声が私たちだけに聞こえるように。

 キーボードはない。

 代わりに先輩がアレンジされたリードと私の歌声で始まる。ピアノの部分はベースをアレンジしたもの。

 そしてドラムの振動。

 私たちの幕が上がった。



 一曲目が終わる。

 歌っている最中にも気づいたのだけれど、たくさんのお客さんが足をとめてしっかりと聞いてくれていた。

 私たちに集まる多くの目。

 緊張はしなかった。

 どちらかと言えば高揚感の方が強い。

 後ろには先輩がいる。

 普段勝負ばかりして、敵な先輩。

 今日は味方。

 これほど心強いものはない。

 

 順調な滑り出しに、続き2曲目と3曲目と繋がる。

 ここからは神楽さんのための曲。

 歌いづらい部分はパッションで誤魔化す。

 発音よりも気持ちを優先させる。


 そして最後の曲。

 先輩が楽器を変える。

 本来はそのままエレキギターでもよかったのだけど、この時間夕焼けに染まるステージはアコースティックなほうが趣がある。

 私と先輩で始まり、途中から神楽さんが入り、最後に山辺さんが入る。


 神楽さんの代わりに歌に気持ちを込める。

 こんなに感情豊かだったろうか、私は。

 なぜか歌いながら、涙ぐむ。

 恋する女の子なのだ。

 神楽さんも。

 失恋という形に終わるしかなかったもの。

 想像するだけで悲しくなってきてしまったのだと、理解する。

 

 先輩のギターが最後の余韻。

 神楽さんと私は並ぶ。先に頭を下げる。

 照明が消え私たちは捌ける。



 後ろでものすごい歓声。

 アンコールの声も聞こえるが、準備などしていない。

 このまま後は文化祭の終わりまで先輩と回るぐらいだ。



「神楽さん、お兄さんとこ」

「そうだな。せっかくだから会いに行こう」

「はい」

「じゃあ、3人共ありがとう」



 神楽さんの後ろ姿が見えなくなるまで、見送る。



「じゃ、ベースとアコギは俺が引き取るから、撤収~」



 山辺さんの明るい声。

 すべてを知っているのだ。彼は。



「渉は市ノ瀬ちゃんをしっかりエスコートしろよ。折角の休みを潰してまで手伝ってもらったんだから」

「わかってる」



 ギターを担いで、先輩は私に振り返る。



「じゃ、行こうか」

「はい」

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