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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
一章 一年生
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トラブルと試験勉強

 気づけば十一月の中旬。

 今年は時間の流れが少し早く感じる。

 先輩との勝負が楽しいからかもしれない。

 けれど期末が近いとして部活が一週間休みになった。

 部活がなければ先輩と会うことはない。

 自分からわざわざ勝負の誘いに行く必要もないかなって。

 私にメリットないし。

 誘われるのであれば受けるつもり。

 先輩が上手くなればなるほど張り合いが出来て楽しいのだ。

 自分の技術もかなり向上したと思う。

 学校に居ても仕方がないので、父さんのカフェに手伝いにいくことにした。

 制服の上からお店のエプロンを羽織る。

 キッチンは流石に手伝えないので、フロアで料理やドリンクだけを運ぶ。



「夏菜、これ3番テーブル。そこの学生に」

「うん」



 コーヒーと軽食を持って、テスト勉強をしている学生の元へ。



「おまたせしました。ぶれんど……先輩?」

「あれ市ノ瀬?」

「どうして先輩がいるんですか?」

「僕はテスト勉強しに、ちょうどいいカフェがあったから。市ノ瀬こそ、どうしてここに?」

「私の父さんがやってるお店なんです。その手伝いです」

「へぇ」

「あ、これブレンドコーヒーです」

「さんきゅ」


 渡そうとする私と受け取ろうとする先輩。

 互いに手を伸ばした結果。



「あっつぅ~~~!!!」



 手元が狂ってコーヒーが先輩に。



「あっつぃ、まじで。市ノ瀬は平気?」

「わ、私は」



 先輩の大声にキッチンにいた父さんが駆けつける。

 


「申し訳ございませんお客様」



 父さんが裏からタオルを持って来いと指示をする。

 すぐにバックに戻り、タオルを3枚ほど持ってくる。1枚は水で濡らしきつく絞る。



「大丈夫です、少し太腿に掛かっただけなのでシミにもなってないですし」

「そういうわけには」



 私が悪いのに父さんが深く謝罪する。

 どっちに対しても申し訳なく思う。



「すみません、先輩これ」



 濡らしたタオルの1枚を先輩に渡す。



「あぁありがとう市ノ瀬」

「「いえ」」

「?」

「「?」」



 謎の沈黙。

 お客様の目の前でする態度ではないのだけど。

 父さんと見合って二人してくすりっと笑ってしまった。

 先輩のことを説明すると、制服を洗うためにお手伝いを終了して自宅に招くことに。

 家に私の知り合いで男性を招くのは初めてじゃないだろうか。

 女の子なら両親の友達の子、今は確か小学5年生の子が何度も来ている。

 友達と言えるかは謎だけど。



「これ、父さんの服ですが着替えてください。制服洗いますので」

「別にいいんだけどなぁ」

「そういうわけにはいかないです」



 先輩の背を押して脱衣所に向かわせる。

 諦めた様子で先輩は大人しく従い着替えてくれた。

 彼が着替えるのを待って、脱衣所に入り洗濯を開始する。



「本当にすみません、色々と邪魔をしてしまって」

「大丈夫だって、そんなに謝んな気にしてないから」

「……はい」

「それよりテーブル使っていい? 勉強の続きしようかな」

「どうぞ、お茶を淹れますので」

「さんきゅー」



 謝罪というわけではないけれど、お気に入りの茶葉を取り出して紅茶を淹れる。

 父さん直伝の淹れ方なのでペットボトルなんかと比べると美味しい筈。

 気に入ってくれればいいけど。

 今度は気をつけながら先輩に紅茶を差し出して、今どこの部分をやっているのか解いている問題を見る。



「あ、先輩そこ違います」

「え?」

「基本はできてるので応用問題さえ気をつければ、先輩なら解けますよそれ」

「あ、ほんとだ。市ノ瀬、頭もいいんだな。ってか2年の問題も解けるとかすげぇな」

「別にやることがなかったので2年の勉強もしてたんですよ」



 先輩に褒められるのは悪い気はしない。

 なんというか下心が見えないから。



「どうせ今週部活休みですし、よかったら一緒に勉強しますか?」

「後輩に勉強まで教えれるのは複雑だ」

「そんなこと言うなら点数勝負しましょう。学年は違いますけど、勝負ごとなら先輩ももっとやる気になるんじゃないですか」

「よし乗った。じゃ、負けたほうが一つだけ言うことを聞くってので」

「……ベタですね」



 父さんが私達のことを心配して早めにお店を閉めて帰ってきてくれた。

 母さんも仕事から帰ってきて4人で夕飯を食べている時に、先輩の家庭事情を聞くことになる。

 結構ヘヴィ。

 よくこんな素直に人間に育ったなぁ。

 先輩はケラっとしているけれど両親には思うところがあるようで、この家にきて夕飯を一緒にしようと誘っている。

 気が向いたら来ますと先輩は答えてくれた。

 んー、これは来ない奴だ。


 期末試験まで先輩と図書室で勉強。

 父さんたちも気にしているので何度かうちに来るように誘ったものの断られた。

 仕方ないので学校で勉強ということに。

 勝負は先輩の得意という数学の点数で決めることにした。

 正直私はどれでも勝てる自信がある。



「市ノ瀬さぁ」



 集中力が切れて休憩。

 先輩が私の名前を呼ぶ。

 少し困った様子。



「はい」

「好きな人とかいんの?」

「……はい? 頭に虫で湧きました?」



 もう先輩の前で取り繕うことはしなくなっていた。

 こっちが私の素。

 彼を自宅に招いたことで気を抜いたのかもしれない。



「あはは……」



 苦笑いする先輩。

 彼の普段からの振る舞いで私に好意がないことは気づいていた。

 だからこそ先輩と仲良くなれたのだと思う。

 小学生の頃はまだよかった。

 幼稚な恋愛。

 あの男の子が好きだの、格好いいだの。それだけで女子のグループは満足していたようだった。

 稀にマセた男の子が告白してくることがあるぐらいだ。

 ただ中学に上がってから恋愛の意味が少し変わったことに気づいた。

 『好きです』で終わらない。『付き合ってください』が加わる。

 煩わしい。



「誰かに言われましたか?」

「やっぱりわかるか」

「ええ、まぁ」



 誰か私に好意を抱いている人物がいる。

 バスケ部の誰か。

 以前部活の休憩中に先輩が私との関係を聞かれていたことがあった。

 普段の私なら気にもとめないのだけれど、

 その時はなぜか気になって聞き耳を立てた。



「答えないと先輩も困るでしょうから。居ませんよそんな人」

「市ノ瀬、わりぃ」

「どうしたんですか?」

「すげぇ嫌そうな顔してた」

「……」



 無表情。

 いつもつまらなそうな顔してるねってよく言われる。

 感情がないわけではない、ただ振り幅が極端に少ない。

 しかし、そんな私の機微な感情を察してくれている。



「……先輩」

「ん?」

「馬鹿ですね」



 こんな愛想のない後輩を見てくれているなんて。

 お人好し。



「だから勉強してるんだろうが」

「そうですね」



 こういうところは察してくれない先輩。

 少し面白くて自然に笑みがこぼれた。



「告白されても断るので、その人に伝えてくれてもいいです」

「僕から断ろうか?」



 そこまで先輩に気を使わせるのは忍びない。



「大丈夫ですよ。慣れてます」

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