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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
三章 三年生
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花火に願いを

 去年の私と今年の私。

 14歳と15歳。

 身体も心も気持ちも成長したと思う。

 去年と同じなのはこの浴衣だけ。



「お待たせしました」

「お疲れ、市ノ瀬。冬乃さんもこんばんわ」

「こんばんわ、柊君」



 挨拶を交わすと、彼は腕を差しだてくる。

 去年と同じものがもう一つ。

 そっと彼の腕を掴む。



「それじゃ、柊君。夏菜のことお願いね」

「はい」



 ダリアで待ち合わせ。

 父さんは戸締まりや業務的な後始末があるためまだまだ出てこない。

 今年は別々に七夕祭りへ行くことになった。

 母さんは私とカフェまで一緒で、ここから別行動。

 私達を見届けると母さんはカフェに入っていく。



「今年はどうする? 去年と同じようにするか」

「今年は神社のほうに行きませんか? 去年、両親が行ってたらしくてとても静かだったようですよ」

「それなら、そうしよっか。神社のほうが近いしありがたい」

「先輩どうぞ」



 彼に虫除けスプレーを渡す。

 木々が多いため、虫も多い。

 虫たちに邪魔はされたくない。

 手や脚、首にもスプレーを振りかけると顔に掛かったようで、咽る先輩を見て笑いが起きた。



「さんきゅ」

「いえ」



 穏やかな心持ち。

 焦りはしない。

 チャンスがあれば攻める、それだけ。

 しばらく歩くと人通りが増えて、さらに進むと喧騒も雑踏もすごいことになっている。

 街の光で星の光が見えない。



「今年は去年より多いな」

「確か、隣街のお祭りがなくなったようですから」

「そうなんだ」

「市ノ瀬、もっとしっかり掴んどけ」

「はい」



 ギュッと力強く、彼の腕に絡む。



「市ノ瀬太った?」

「……っ」

「痛いっ。痛い、痛いってごめんなさい」



 思いっきり腕を噛む。

 流石にそれはない。

 先輩の言葉でも許せないことはある。



「うわぁ……。すげぇ歯型……」

「自業自得です」



 ※



 去年より早く、お祭り会場にいるため花火までもうしばらく時間がある。

 少し遊ぼうかという話になり。

 金魚すくいの前にやってきた。



「やったことある?」

「ないですね」

「じゃ、久しぶり勝負しょうか」

「フェアな戦いですね、いいですよ」

「ポイ3個でどれだけ穫れるかでいい?」

「えぇ」



 一枚目は捨てる。

 強度がどのくらいか、どの重さで破れるか。

 それを確かめる。

 先輩も似たようなことを考えていたために、そう提案したのだろう。

 

 実際に一枚目は簡単に破れた。

 紙の濡れた部分とそうじゃない部分で圧力のかかり方が違ったようだ。

 薄い紙では致命的だと悟る。


 二枚目。

 完全に濡らした状態で一匹すくい上げる。

 小さな金魚。

 十分だ。

 徐々にサイズを大きいものに変えていき、ある程度の重さで破ける。

 6匹。

 初めてにしては順調。


 三枚目。

 手に持っている金属製の小さなボウルでは足りなくなった。

 2つ目を借りて更に挑戦する。

 ちょっとしたミスで紙が破れて、終了。

 私の合計は32匹。

 ボウル4つ分。

 先輩を見ると、すで終わっていた。

 ボウル3つ分。



「32匹です」

「27匹」

「私の勝ちですね」

「う~ん。負けかぁー」



 悔しそうに呟きながら、ボウルから金魚を戻していいかと店主に聞く。

 唖然と首を振る店主。

 やさしく金魚をリリースして、私達は後を発つ。

 何故か人だかりが出来ていた。

 人を掻き分けて新鮮な空気を吸う。



「あれ、市ノ瀬さん? と、柊先輩」



 その呼びかけに私達は視線を向ける。



「デート中っすか」

「中村か久しぶりだね」



 元同じ男子バスケ部。

 先輩は彼のことを知っていて当然だった。



「デート中?」

「なんで先輩が私に聞くんですか……」



 少し拗ねて見せる。



「男女が二人で遊びに出掛けてるからデートじゃないですか?」

「そういうことらしいよ中村」



 先輩はただの思考放棄だった。



「俺ら男バスのメンバーで来てるんですけど、柊先輩もどうっすか?」

「ん?」

「久しぶりなんで会うのも楽しいと思いますよ」

「そうだなぁ」



 考える素振りを見せる。

 私はたまらず掴んでいた腕に力を込めてしまう。

 なるほど、麗奈の言うことは恋愛において結構正しいことを言う。

 中村は確かに私にとって邪魔な存在。

 はっきりとそう認識する。



「市ノ瀬はどうする?」

「先輩が行くなら、私は帰ります」

「わかった」



 え?



「じゃ、そういうことだから中村、あいつらによろしく」



 ※



 イカ焼きに焼き鳥。

 今回のお祭りは串物を多く買って境内の一部を陣取る。



「よかったんですか?」

「何が?」



 とりかわを食べている先輩に投げかける。



「その中村くんのところに」

「あぁ、別にいいんじゃない? 僕、市ノ瀬のこと冬乃さんに任せられてるから」

「母さんのことは気にしなくていいですよ。先輩が行きたいのであれば行ってくれて構いません」

「それじゃ意味なくない? 市ノ瀬の誕生日でもあるんだから、市ノ瀬が楽しい思いをしないと嘘じゃん、それに」



 食べ終えた焼き鳥の串を咥えながら、先輩は私を見て笑う。



「市ノ瀬が嫌そうな顔してるのバレバレだから、隠す気もないじゃん。中村に謝ったほうがいいんじゃない?」

「そうですね」



 きっとあの場では先輩しか私の表情に気づかない。

 今、私が嬉しくて緩んだ表情にも気付かれる。

 顔を見られたくなくて、花火が上がることを願った。

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