体育祭観戦 2
次の競技は告知のあった通り、障害物競走。
ウェイターのようにトレイに水を紙コップに入れて運ぶもの、バスケのドリブル、ピンポン玉をスプーンで運ぶもの。
最後に借り物競争。
どれも先輩に有利そうな内容。
実際に目の前で走る先輩はかなりリードをつけていた。
ただ、風で揺れるピンポン玉には苦戦しているようには見える。
そして最後の借り物競走。
一番近かった手頃な紙を開き、周りを見回す。
かなり困惑している。
なかなか持ってそうな人がいないのだろうか。
目が合う。
はっとしたような、何か閃いた顔で先輩が寄ってくる。
「市ノ瀬借りていい?」
「なにをでしょう」
今日の持ち物は鞄の中に財布と日焼け止め、あとは軽いメイク道具のみ。
あとは誕生日に貰った腕時計ぐらいだ。
「市ノ瀬を」
「……」
「そんな怪訝そうな目でみられても困るんだけど」
「わかりました」
手を捕まれ、審判を務める教師の元へ。
紙に書かれた内容をみて、私を見る。
先輩と私を心配するような目。
「柊……、合格。ゴール行っていいよ」
「うっす」
無事1着を取れたのはいいのだけど。
退場門のすぐ脇に待機して、先輩が出てくるのを待つ。
音楽が止み、静かになると先輩が出てきた。
「先輩、その紙渡してください」
「え?」
「……」
「大したこと書かれてないよ」
後退りする先輩。
彼が離れるほどに私は近づく。
壁に追いやられて先輩の逃げ道がなくなった。
「渡してくれますよね?」
「……はい」
「最初からそうしてください」
先輩のお尻側にあるポケットから薄い一枚の紙切れ。
二つ折りになった紙を捲ると。
『ペット』
「何か言う事は?」
「ありません」
「そうですか」
「……はい」
怒ってはいないけれど。
そもそもお題を書いた人が悪い。
しかし、先輩で遊ぶいい機会だと思いついた。
普段、私のほうが彼に振り回されているのだ。
こんな時ぐらい良いだろう。
「犬っぽいですか? 猫っぽいですか?」
「猫っぽいかな」
「語尾ににゃんってつけてあげましょうか?」
「猫っていうか猫科」
猫科?
ちょっと以外な返し。
「噛み殺してほしいってことですか?」
指を口の中に入れ、端を引っ張り八重歯を見せる。
邪魔になった紙切れを自分のポケットにしまい、余った手を先輩の胸にそっと当てる。
「もう少し生きていたいかなぁーっと」
「残念でしたね、もうお別れみたいです」
少し背伸びをして彼の首筋、いつか舐めた同じ場所に歯を立てる。
先輩の心臓がどくんっと小さく跳ねるのが、手に伝わる。
「冗談ですよ」
反応に満足し、先輩から距離を取る。
「それじゃ、私。カフェの手伝いがあるので失礼します。この後も頑張ってください」




