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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
三章 三年生
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体育祭観戦 2

 次の競技は告知のあった通り、障害物競走。

 ウェイターのようにトレイに水を紙コップに入れて運ぶもの、バスケのドリブル、ピンポン玉をスプーンで運ぶもの。

 最後に借り物競争。

 どれも先輩に有利そうな内容。

 

 実際に目の前で走る先輩はかなりリードをつけていた。

 ただ、風で揺れるピンポン玉には苦戦しているようには見える。

 そして最後の借り物競走。

 一番近かった手頃な紙を開き、周りを見回す。

 かなり困惑している。

 なかなか持ってそうな人がいないのだろうか。


 目が合う。

 はっとしたような、何か閃いた顔で先輩が寄ってくる。



「市ノ瀬借りていい?」

「なにをでしょう」



 今日の持ち物は鞄の中に財布と日焼け止め、あとは軽いメイク道具のみ。

 あとは誕生日に貰った腕時計ぐらいだ。



「市ノ瀬を」

「……」

「そんな怪訝そうな目でみられても困るんだけど」

「わかりました」



 手を捕まれ、審判を務める教師の元へ。

 紙に書かれた内容をみて、私を見る。

 先輩と私を心配するような目。



「柊……、合格。ゴール行っていいよ」

「うっす」



 無事1着を取れたのはいいのだけど。

 退場門のすぐ脇に待機して、先輩が出てくるのを待つ。

 音楽が止み、静かになると先輩が出てきた。



「先輩、その紙渡してください」

「え?」

「……」

「大したこと書かれてないよ」



 後退りする先輩。

 彼が離れるほどに私は近づく。

 壁に追いやられて先輩の逃げ道がなくなった。



「渡してくれますよね?」

「……はい」

「最初からそうしてください」



 先輩のお尻側にあるポケットから薄い一枚の紙切れ。

 二つ折りになった紙を捲ると。


『ペット』



「何か言う事は?」

「ありません」

「そうですか」

「……はい」



 怒ってはいないけれど。

 そもそもお題を書いた人が悪い。

 しかし、先輩で遊ぶいい機会だと思いついた。

 普段、私のほうが彼に振り回されているのだ。

 こんな時ぐらい良いだろう。



「犬っぽいですか? 猫っぽいですか?」

「猫っぽいかな」

「語尾ににゃんってつけてあげましょうか?」

「猫っていうか猫科」



 猫科?

 ちょっと以外な返し。



「噛み殺してほしいってことですか?」



 指を口の中に入れ、端を引っ張り八重歯を見せる。

 邪魔になった紙切れを自分のポケットにしまい、余った手を先輩の胸にそっと当てる。



「もう少し生きていたいかなぁーっと」

「残念でしたね、もうお別れみたいです」



 少し背伸びをして彼の首筋、いつか舐めた同じ場所に歯を立てる。

 先輩の心臓がどくんっと小さく跳ねるのが、手に伝わる。



「冗談ですよ」



 反応に満足し、先輩から距離を取る。



「それじゃ、私。カフェの手伝いがあるので失礼します。この後も頑張ってください」

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