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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
三章 三年生
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体育祭観戦 1

 修学旅行を終え、次の週の日曜日。

 先輩にスケジュールを聞き出し、部活をさぼって県立梅ヶ丘高等学校の体育祭に来ていた。

 時間的に余裕があるものの、先輩のクラスがわからず彷徨う。

 こんな場所で携帯を持っているわけでもないだろうから途方にくれる。


 先輩の身長って高いわけでもないからね……。

 本当に平均より少し上って感じ。


 先生方に聞くのが早いと思い、救護室あたりにいる大人に尋ねると校舎側のコーナー付近が1年生だと教えられる。

 自動販売機でスポーツドリンクを二つ購入し、1年生の集まるところに向かった。


 整然とされた椅子の上、タオルを頭に被せて友人と思われる男性と談笑している彼の姿が見えた。

 談笑の相手は、いつか先輩の隣にいた男子生徒だとわかるが、その時に名前を聞いていなかったのを思い出した。

 比較的外側に位置しているところに居てくれていたので、声を掛けることにも苦労をせずに済んだのは助かる。



「先輩」



 私の呼びかけに先輩は振り向くと私の元へ。

 手を引っ張られ適当な空いた椅子に案内される。



「これどうぞ」



 先程買ったドリンクを先輩に渡す。

 本当は自分用に買ったものだったけれど、もう一本残った方も先輩の友達に差し出す。



「さんきゅ」

「え、俺もいいの? 市ノ瀬ちゃんだっけ、ありがとう」

「いえ」



 どうやら私の名を覚えているようだった。

 


「先輩の出番ってもうすぐですよね」

「うん、2連チャンで出場になってるからしんどいけどね」



 そういうと先輩は手持っていたスケジュール表を渡してくれた。

 一年生のリレーに障害物競走。

 走ってばっかり。



「午前中からリレーっていうのも珍しいですね」

「うちの学校の目玉って、三年の騎馬戦と午後の応援合戦らしいからね。そんなわけで一年は気軽にリレーできるってわけ」

「先輩アンカーですよね」

「よくわかったね」

「それ以外考えられないので。まぁ、無様にならない程度に頑張ってください」



『1年のリレー参加者は集合を開始してください』というアナウンスが流れ、先輩は立ち上がると後ろ手でひらひら振って去っていく。 



「じゃ、並ぶように言われたから行ってくるよ。まだ居るなら僕の席に座ってくれていいから」

「はい」



 席を移り、日差しが少し暑いため先輩の置いていったタオルを頭に被せる。

 日焼け止め塗っといてよかったな。

 私は結構肌が弱く、日に焼けると真っ赤になる。



「市ノ瀬ちゃんさぁ」

「はい」



 私を暇にさせないためか先輩の友達が声を掛けてきた。



「前に会った時ってまだ中学1年だったよね」

「そうですね」



 会ったというには短い時間だったけれど。



「やっぱり渉と付き合ってんの?」

「いえ」

「まじか。あいつ奥手なんかな、もう3年ぐらい一緒にいるべ」

「そうなりますね」



 私の返事に彼は言葉が詰まる。



「もしかして、俺と話すのつまらない?」

「そういうわけではないですが、えっと名前……」

「山辺司」

「山辺さんが悪いわけじゃないです。私、人と話すのが得意ではないので」



 これは何度も行われた光景。

 相手が変わり者以外はみんな同じような反応をする。

 先輩や麗奈が特殊な事例。

 大体仲良くなる前に私から離れていく。

 良いか悪いか、正直どちらでもいい。



「そうなんだ、渉とは楽しそうだったから。急に機嫌が悪くなったと思ってびっくりした」

「誤解させたのであれば、すみません」

「こちらこそ」



 誤解が解けたところで校内で掛かる音楽が変わり、先輩を含めた1年生が入場してくる。

 先輩は列の中で欠伸をしている。

 バレないように姿を隠しているが、ちょうどこちらからは間抜けな姿がばっちり見えていた。



「ふふっ」

「どうしたの?」

「いえ、すみません」



 ※



 一年生のリレー。

 先輩の前、男子と女子のバトンが受け渡しが失敗し、2位から5位。

 つまり最下位に落ちた。

 女子生徒はすぐにバトンを拾いあげ、泣きそうな顔で疾走する。

 見た感じ女子生徒は悪くなかった。

 男子生徒の速度に合わせて、しっかりとた予備動作で受け取れるテンポだった。ただ、男子生徒が軽い悪ふざけなのか、バトンを力強く振ったせいで彼女の手から離れ地面に投げ出すような形になった。

 責任感が強いのであろう、涙を堪えながら懸命に走る。けれど距離は縮むことなく、先輩にバトンが渡る。

 瞬間、バトンを落とした彼女に向かって笑って見せて、真剣な顔になる。

 さきほど欠伸をしていた彼とはすごいギャップ。

 瞬発力があるのは知っていた。

 最初からトップスピードで、1つ目のコーナーを抜けるころには4位まで戻り、直線で一気にまくりあげて2位まで戻っていた。

 すでに周りから拍手を送られ、クラスからは応援の声が聞こえる。

 最後のコーナー。

 なおも速度を下げず、じりじりと1位との差を縮める。

 届きそうで届かない距離。

 手を伸ばせば届く距離。

 白いゴールテープが流れた。

 半歩ほど。

 1位には届かず、惜しくも2位。

 負けてしまったけれど、すごく格好良く映った。



「山辺さん、ちょっと行ってきます」



 私が買ったドリンクと先輩のタオル、彼の席に残っているからそのまま預けられていたものを持って、棒を二つ突き刺しただけの退場門に駆ける。

 先輩は泣いているクラスの女子の頭を撫でてて、涙を指先でなぞり拭う。

 誰にでもやさしいんだなこの人は。と、少し嫉妬をしてしまう。

 慰められて、落ち着き、顔を真っ赤にした女子生徒。

 でも、私はそのまま先輩のもとに行く。



「先輩、お疲れ様です。これ」



 持ってきたものを渡す。

 麗奈が言っていた。

『隣にいるだけで周りを牽制できる』

 この女子生徒がどう思うかは知らない。けれど、先輩の良さに気付いたのは確かだと思う。

 だから譲らない。

 この人は私のものだと主張するように。



「さんきゅ、市ノ瀬」



 受け取りすぐにキャップを外し、3分の1を飲み干す。



「惜しかったですね」

「そうねぇ、あと数メートルあれば勝てたかも」

「はい」



 私の登場に気まずさを覚えたのか、女子生徒は先輩にお礼だけを告げて離れていく。

 一瞥だけして、先輩に向き直る。



「次も出場ですよね」



 借りていたタオルを煽り、風を作り出して先輩を癒やす。



「動きたくねぇ……。久しぶりに全力疾走した」

「……あはは」

「日頃から少しは運動したほうが良さそうだな。明日、絶対筋肉痛だわ」

「今日、うちに来てくれたらマッサージしてあげますよ」

「う~ん。それはともかく今日は行こうかな」



 表情を読み取ると自分で夕飯を用意するのが面倒くさいというもの。



「じゃ、またこれよろしく」



 先輩はドリンクを渡し、正反対位置の入場門に戻っていく。

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