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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
三章 三年生
22/38

1日目 夜

 レクリエーションを終えた私たちはお風呂に入り身なりを整える。

 汗でベタつく身体はさっぱりして生まれ変わったかのように感じる。

 この後は夕飯まで自由行動。



「夏菜、めっちゃだぼだぼじゃんウケる」



 体操服の上着は袖は肘より長く、裾は太腿の中間辺り。

 左胸にある名前は市ノ瀬ではなく柊。

 卒業していらなくなったのを父さんが貰ってきたものだ。

 短パンのサイズは変更がないため前から使っているものをそのまま使っている。



「貰い物だからね」

「柊夏菜かぁ~。あ、赤くなったっ! 乙女じゃんっ」

「ちょっと……抱きつくのはやめて」



 ぴったり張り付いてくる橋田さんをどうにか引き剥がし距離を取る。



「えぇ~。せっかく同室なんだから仲良くしようよぉー」

「十分仲がいいと思うけどね」

「そっかなぁ~」



 クラスの中というよりは、学園の中で一番気を許している生徒は間違いなく彼女だ。

 私から絡んだことはなかったけれど、2年の終わりぐらいから橋田さんの方からグイグイくるため仲良くなったような気がする。

 少し派手な見た目。

 ギャルっぽいがギャル。

 全然タイプが違うけれど、彼女も私に気を使っていないのがわかるため、私も気を張らなくて済む。

 先輩や両親ほどじゃないにしても、私の表情を読み取れる数少ない人物。

 そして以外にもテストの成績は良く90点代を常にキープしている。



「ってかさぁー。いい加減、麗奈って呼んでよ」

「そんなこと言われたっけ?」

「言ってないけどー、流れで呼ぶようにならない?」

「そんな流れになったこともない」

「まぁいいじゃん、ほれ言ってみ?」

「……麗奈。これでいい?」

「うんっ」



 自動販売機に売っていたペットボトルのさんぴん茶に口をつける。

 ホテルが用意しているお茶請け、ちんすこうもありがたくいただく。

 麗奈はぼりぼりと音を立てながら食べ、ベッドに胡座をかいた。



「実はさぁ」



 改めて話始める麗奈。

 言おうとしている事が恥ずかしいのか頬を掻く。



「卒業式の日に夏菜が中庭で告白されてんの見てたんだよねぇ」

「結構見てた人多いって話じゃなかった?」

「そうなんだけどー、私ちょうど中庭にいたんだよ」

「ふ~ん」



 私には一切ダメージがない。

 あるとすれば告白してきた男の子だろう。

 今でも弄られているのを見かける。



「それでさぁ、夏菜のことかっこいいって思っちゃった」

「私が?」

「言いたい事いってさ、柊先輩だっけ? その人のことだけが好きって」

「……ん?」


 

 首を傾げる。

 それのどこがかっこいいのだろう。

 表立って告白するほうが勇気のあることだと思うけど。



「私だったら流されてそのまま頷いちゃうからさぁ」



 窓の外。

 薄暗い海を眺める麗奈。



「私もそういう恋っての? してみたいなって」



 取り繕うように笑う。



「麗奈なら出来るんじゃない?」

「そっかなぁ」



 言って後悔する。

 私の言葉には重みがない。



「今のなし」

「え?」



 驚く麗奈を手で制止し。

 たどたどしい言葉を紬ぐ。


 そもそも先輩との出会いは偶然だった。

 戸締まりに来た私と居残り練習をしていた彼。

 練習試合後に私の強さをみて話しかけてきたのも彼だ。

 出会いも仲良くなるきっかけも作ったのは私ではない。

 たまたまの偶然が重なって、いつの間にか私は彼を想うようになっただけだ。



「そんな感じだったんだね二人って」

「だから私に言えることは何もない」

「そんなことないよ。偶然の産物だとしても、ちゃんと好きで恋してんじゃん」



 ベッドから降りてぎゅっと私の両手を掴む。



「それ他人に言われると結構恥ずかしい」

「夏菜のこと応援してるからね」

「どうも」



 なんで私が慰められてる立場になっているのだろう?

 そんな疑問があったものの、麗奈は人懐っこい笑顔を浮かべて部屋を出ていった。

 時計をみると夕飯の時間だったようで、私も後を追った。

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