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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
三章 三年生
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修学旅行(本)

「先輩の体育祭って今月ですよね」

「そうだけど」



 新人戦が終わり、新しいクラスにも慣れた頃。

 足繁くカフェに通っていた。

 カウンターにいる先輩にも見慣れてきて、『おかえり』『ただいま』と言える関係が心地良い。

 先輩が何か注文は? という顔をしている。



「ダージリンでお願いします」



 慣れた手付きで紅茶を淹れる。

 私からの合格点を貰った彼はすでにカウンターを任せられていた。

 といっても高校に慣れるまでは出勤数を調整していたようだけれど、6月に入ってからは週3,4は働く予定らしい。

 私は土日のどちらか、または授業が昼までの特殊な日にしか手伝いにやってこれない。

 ちなみに私が飲み食いしたものはその手伝いから引かれているらしい。

 先々月の実験台は例外だったようで、まだ合格を出さなければよかった。



「見に行ってもいいですか?」

「普通の体育祭なんだけど」

「見に行ってもいいですか?」

「……いいけど」



 諦めた顔で淹れたての紅茶を差し出してくる。

 しつこく頼めば断らないことを知っていた。

 ゴリ押せばなんとかなる。

 ただしどうでもいい事に限る。

 こう見えてこの先輩、芯がしっかりしており絶対に引かないときは引かない。

 たまに子供のように意固地になる時もあるけど……。

 あれはなんというか私をからかって遊んでるような?



「市ノ瀬も今月、修学旅行だよね?」

「はい、明日から沖縄ですね。そのお陰でこうして昼間からここにいるんですけど」

「いいなぁ沖縄」

「去年いきましたよね?」

「そうなんだけどさぁ、学校じゃなくて普通の旅行として行きたいよね」



 完全に同意。

 好きなところを好きな人と好きなように散策したい。

 スケジュールがきっちり決まっているのもあまり好きになれない。



「お土産どうします?」

「う~ん」



 腕組みして考えているようだけど、答えは出なかったようで。



「市ノ瀬のセンスに任せるよ」

「それ一番難しいやつです」

「あははっ」


 

 私が拗ねてみせると先輩は笑ってくれる。


 去年、写真とは別に琉球グラスも頂いた。

 海の泡のような綺麗な青色のグラス。

 勿体なくて箱のまま、引き出しに大事に仕舞ってある。

 先輩の方が余っ程センスがいい。

 同じ物を送っても芸がないので余計に困るというものだ。

 先輩には好意とは別にお世話になっているから良いものを送りたい。



「折りたたみ傘ちゃんと持っていけよ。去年スコールでえらい目にあった」

「はい」

「まぁ、傘で防げるか微妙なとこだけど」



 不安になるようなこと言わないでほしい。



 ※



「各班まとまっておけよー」



 空港から出て担任の号令で私たちは動き出す。

 男女3人ずつの6人グループ。

 橋田さんとその友達と同じ班。

 彼女が誘ってきたのでそのまま了承した。

 元々仲の良い班はいいかもしれないが、もう3人の男子と組むのは難航した。



「夏菜よかったの?」



 橋田さんが並んでそう聞いてくる。

 彼女の視線の先には男子生徒の姿。

 浅く焼けた肌に高い身長とスポーツマンらしい短い髪。

 私に告白してきた男子生徒。



「いいもなにも担任が決めたから」



 同じバスケ部員だからという理由で組まされた。

 拒否権があるわけでもない。



「別に終わってる話だから、いいんじゃない?」

「相変わらずクールだねぇ夏菜は」



 彼のことを橋田さんに話したわけではないが、学校では有名な話になっていた。

 教室から中庭が見えるせいで目撃者が多かっただけだ。



「興味がないだけ」



 小さな鞄だけ残し、衣類などが入ったスポーツバッグはバスの下にある大きな収納スペースに入れると、乗り込む。

 最後尾の一番左の窓際。

 眠い……。

 久しぶりに先輩が泊まったのをいい事にゲームで対戦して夜更かししてしまった。

 あれは先輩が悪い。

 意地になって何度も挑戦してくるから。

 飛行機の中でも寝ていたけど、全然眠気が取れない。

 私はこうやって休めるからいいけど。



「夏菜眠そう、笑える」

「笑えない」

「何彼氏とずっといたん?」



 橋田さんの二つ先の男子がびくっと反応して聞き耳を立てる。



「2時には寝たんだけどね」

「熱々だね」

「そんなんじゃないけど」



 欠伸をしながら適当に答える。

 否定も肯定もしない。

 というか橋田さんは私が彼と付き合っていないのを知っているはずだ。

 これ以上詰められるのは面倒だったので彼女の方に話を切り替えした。



「橋田さんこそ1年の頃に誰かと付き合ってるって言ってたけど」

「あはは、覚えてたんだ」

「まぁ」

「2年に上った頃には別れたよ」

「へぇ」

「自分で聞いといて興味なさそう。笑える」

「眠くてね……。何にも考えてない」

「これは独り言だけど、夏菜みてるとねぇ」

「?」



 私に何の関係が?



「ま、同じ部屋だし夜にでも話そう」

「ん」

「起こしてあげるから、寝ちゃいな夏菜」

「ありがとう」



 起こされてからは眠気は消えて、学校で決められたスケジュールを回す。

 黒糖の生産の体験会と昼食は国際通りでソーキそば。

 休憩後は、首里城に到着して芝生のある広場から様々な門をめぐり最後に売店という流れ。

 たしか最後に先輩はアイスを食べたと聞いていたから、私も同じものを頼む。

 6月の沖縄はとても暑くて、汗ばむ身体を冷やすのにアイスはちょうどいい。

 日陰になっているベンチで3人で並ぶ。

 30分の自由時間が与えられていたが、暑さと疲労でほとんどの人が売店近くで、私達のように休んでいる。

 いくらアイスを食べたからいって暑いのは変わりなく、胸元のリボンを緩めボタンを2つ開ける。

 パタパタとシャツをあおり風を送り込む。

 はしたないと思うが部活でもやっているし、周りのみんなもやっているのでお咎めはないだろうと思っていた。



「夏菜がそれやると目立つよねそれ」

「橋田さんだってやってるよね」



 白い肌に綺麗な鎖骨、そして青い紐が見える。



「夏菜ブラのサイズいくつよ」

「G75」

「やっば! じゃなくて男子見てるよ」



 部活でも男バスから見られていたので恥ずかしいとも思えない。

 なんならスポブラとはいえ透けて見えてることも結構ある。

 橋田さんも優れた容姿をしているから、余計に注目を集めている。

 それを彼女に伝えると、盛大なため息をつかれた。



「最近、もっと可愛くなって自分の見た目に気を使ってるのかと思ったけど」

「気をつけてるけど」

「いや、うん。努力しているのは伝わるんだけど、他の男子が可哀相だよね……」

「?」

「夏菜はそのまんまがいい気がしてきた」



 褒められてるのか貶されているのか謎。


 左腕の白い時計が4時半を示す。

 自由時間が終わりを告げる。

 あとはバスに戻ってホテルに向かうだけだ。


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