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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
二章 二年生
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儘ならぬ卒業式

「すみません。貴方と付き合うことは出来ません」



 先輩の最後の日。

 今日を過ぎれば、彼はもうこの学校には来ない。

 彼の居た場所、私の居る場所。


 しかし、ため息がでる。

 先輩を捕まえるために早めに登校した。というのに教室に着くなり知らない男子に呼び出されてしまった。

 このタイミングで告白してくるということは相手は3年だろうと決めつけていたが、推測は間違っていなかったようだ。

 胸に紙で作られた花。

 卒業生の証。



「好きな人いるとか?」

「はい」

「やっぱり無理だったかぁ、卒業前にワンチャンあるかと思ったけどねぇーか」



 記念告白。

 無駄な時間を使わせないでほしい。

 本気で告白してくるなら、断るにしてもちゃんとした対応をするつもりだ。

 最近自分が恋愛してから変わった部分。

 前までは面倒くさい、見ないで欲しいって思っていた。

 その気持ちはまだ残っているものの、告白するのに勇気がいることを私は、恋愛において臆病な私だけは痛いほどわかっている。

 だから本気で私のことを好きなら、誠意を持って断る。



「では、失礼します」



 三年の教室に向かう途中。

 何度か声を掛けられ、その度に振り出しに戻る。

 見えない何かに拒まれているようで不快感を覚える。

 なんとか彼の教室にたどり着き、後ろ姿が見えたと思った頃には予鈴が鳴り響き。

 撤退を余儀なくされた。

 帰り道、携帯でメッセージを送る。

『放課後、いつものバスケットゴールでお待ちしております』

 見てくれるかはわからない。

 けれど、送らないわけにはいかなかった。



 ※



 先輩方より早く1、2年生は体育館に集合させられ、用意されたパイプ椅子に座る。

 私達の前には保護者がずらりと。

 褒められたものではないけれど、既読がついてるかどうか5分感覚で確認する。

 けれど望んだ文字は表示されず、予定時間になり三年が入場してくる。

 しばらくして、見慣れた顔が見える。

 伸びた髪を少しだけ切り揃え、けれど部活に励んでいた時よりも長い。

 中央を歩いて行く彼と目が合う。

 彼は軽く手を振ってくれたが、すぐに視線を戻した。

 ほんの僅かな時間。

 長い卒業式。

 彼の顔を見れたのはその時だけ。


 在校生はただ座っているだけの苦痛な時間だったけれど、私が考えるのは放課後のこと。

 気持ちは固まっていた。

 あとはどう伝えるか。



 ※



 卒業生が捌けると、次に保護者が出ていく。

 最後に私達が教室に戻される。

 現生徒会や委員たちは残って片付けを任されている。


 教室に戻る途中。

 しばらく見ていなかったスマホをチラ見すると、既読の文字。

 返事はないけれど、読んではくれたみたい。

 HRはすぐに終わり解散となる。

 今日は荷物の必要がなかったのだけれど、一つだけ用事があった。

 バスケ部の卒業生に花束を。

 三年の部長だった方の教室の廊下。

 在校生の数人は泣いていたけれど、私にはそんな感情はなかった。

 お世話になったとは思う。


 男バスも同じ場所で花束を渡しているようで先輩の姿もあった。

 けれど女子とは違い義務的な雰囲気があり、すぐに先輩の姿は見えなくなった。

 他の男子部員は数人残っていて、こちらのほうを伺っている。

 先輩が先に行って待っていてくれることを祈るとしよう。

 けれど、抜け出しにくい雰囲気。

 3年生が夏の大会での私の活躍を褒めてくれて、思い出話に浸っている。

 40分程だろうか、在校生が落ち着くと同時にようやく解散する気配。

 一人二人と輪から離れていく。

 別れを告げて階段を降りようとすると、残っていた男子部員の三人に声を掛けられた。

 舌打ちしたい気持ちになるけれど、顔には出さない。

 

 中庭に案内される。

 三人のうち私に用があるのは卒業生ではなく、同学年の男子生徒。

 その男の子を卒業生の二人が肩を叩き背を押すと、見えない位置へ向かっていった。



「市ノ瀬さん」



 これで今日何人目だ。

 卒業生ばかりで記念告白ばかりで辟易していた。

 けれど今回は同学年。

 私が断れば次の一年どうするのだろう。

 いや、今回ばかりは彼のほうが正しいかもしれない。

 最後の一年で付き合えなかったら、三年なんてあっという間だ。

 私は痛いほどよくわかっている。

 それに、今日の相手してきた男子たちより真剣。

 脚は震えて、いくらか顔色もすぐれない。



「……はい」

「柊先輩と仲がいいのはわかっています。でもここはあえて聞きます」



 付き合っていますか?

 付き合っていたならどんなに安心できただろう。



「いえ、恋人の関係ではないです」



 私の言葉に少しほっとしたのか、顔に赤みが戻る。

 告白する前に振られてしまうことを危惧してのことだろうと予想はついていた。



「よかった。市ノ瀬さん、俺と付き合ってください。初めて見た時から好きです」



 真っ直ぐな告白だと思った。

 けれど私が返す言葉は変わらない。



「すみません。貴方と付き合うことは出来ません」

「え?」

「困惑されてもこちらが困ります。貴方は私のことを知っているかもしれませんが、私は貴方のこと知りません」

「それなら、これから」

「言うべき言葉を間違えましたね」

「?」

「好きな人がいます。だから無理です。すみません」



 ここからでは見えないが、体育館の脇にあるバスケットゴールのある方へ視線を向ける。



「柊先輩?」

「はい」



 間を置くことなく即答。



「でも、柊先輩とは何もないんじゃ」

「えぇ、交際してないだけです。彼がどう思っているかは知りませんが、私が好きなのは先輩だけです」

「卒業してしまったよね? 交際できるかわからない相手をずっと好きで居続けるの?」

「はい」

「付き合っても長く持たないんじゃ」



 そんなのはわかっている。

 でも毎週会いに行く覚悟はある。

 別に他県や遠い学校に進学したわけじゃない。

 会おうと思えば会うのは簡単だ。



「それは、私と貴方が付き合っても同じことです。その可能性はミリもありませんが」

「……」



 告白してきた男の子は無言で視線を落とす。

 他人に、私にしてはほぼ素に近い言い方。

 真剣に想ってくれるからこそ、嘘はつかない。



「もう、用がないのであれば用事があるので行きますが」

「あ、うん。待って」

「はい」

「今日は断られてしまったけど、チャンスはあるよね。まだ好きでいていいよな」

「それを決めるのは私ではなく貴方です。好きで居続けるのは勝手にしてください。チャンスがあるかどうかは別ですが」



 その勝手。

 私は先輩を好きであり続けるだけ。



「わかった。ありがとう市ノ瀬さん」

「はい」

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