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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
二章 二年生
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憂鬱な12月

 終業式の日、クラスの雰囲気とは真逆に私は焦っていた。

 明日はクリスマスイヴ。

 先輩を誘うかどうか。

 相手は受験生。

 彼なら間違いなく合格すると思う。

 けれど、それとこれは別問題。

 私の気持ちだけを優先して迷惑になってはいけない。

 でも一日ぐらい息抜きに出かけてもいいのでは、と。

 嫌だったら断ってもらって結構だ。


 ただ焦る理由は別にある。

 告白。

 もう時間がない。

 三年生の三学期はあってないような物。

 クリスマス、バレンタインと告白に適した季節。

 けれど先程言った通り、受験生。

 バレンタインは公立の受験日と重なっている。

 タイミングがわからない。

 余計に私を焦らせる。

 あの時、夏祭りの夜に告白していればという後悔が募る。

 彼が卒業してしまうと会うこともなくなり、忘れ去られてしまうんじゃないかという恐怖感がある。


 放課後になり三年生の教室に向かってみるものの先輩の席は空で、図書館にも顔を出して見たけれどもぬけの殻。

 もう帰宅したのだと理解した。

 勿論ラインにも連絡をメッセージを入れているのだけど、未読のまま。

 ハズレの日。

 こういう時に外れなくても。

 あと残るは父のカフェだけど。

 土日に来るぐらいで一ヶ月に二回程度。

 期待は薄い。

 先輩の自宅は私の家から然程遠くないと聞いているけれど詳しい場所は知らないし、それとなく聞いてもはぐらかされている。


 足早に帰宅してカフェへ。

 少し遠回りして公園を経由してみたけれど、姿はもちろんなかった。



「いらっしゃいませ」



 バイトの大学生が私を招き入れるが、彼に見向きもせず淡い期待を抱く。

 いつも座っている奥の席。

 今日は別の男性が座っていた。

 他の席も見回すが、先輩はいなかった。



「父さん、紅茶」

「はいはい。今日は荒れてるね」

「荒れてない」

「柊君と喧嘩した?」

「してない」



 差し出された紅茶の良い香り。

 ささくれた心が絆されていく。



「父さんと母さんって付き合い始めたのっていつ?」

「大学生の時かな」



 初恋にしては遅い。

 もっと前から出会っては居たのだろう。



「父さんたち初恋同士って聞いたけど、いつから好きだったの?」

「夏菜がそんなこと聞くなんて、本気なんだね」

「うるっさい。いいから答えてよ」



 子供を慈しむような目。

 嬉しいような、寂しいような、そんな表情。

 けれど悪戯な笑みを浮かべている。

 先輩も父さんも私をからかう時はいつも人を小馬鹿にしたように笑う。

 子供の恋愛だって言われても仕方ない。

 でも、私は本気だ。

 この気持ちに嘘はない。

 父さんにだって馬鹿にされる謂れはない。



「悪かったって。中学の時だよ」

「……。ずっと好きだったの?」

「まぁ、うん」



 恥ずかしそうに頬を掻く父の姿。

 そこには父というより、一人の恋する男の子というような姿。

 見てはいけないものを見てしまったような。

 鏡。

 きっと私は彼のことを想っている時はこんななんだ、と。

 甘い紅茶の香りよりも、私は安心する。

 諦めなければ、私もきっと。

 両親のようになれるのだと。



 けれど、運は私に味方しなかった。

 12月中。

 先輩とは片手で数えれる程しか姿を見ることはなかった。

 タイミングが噛み合わない。

 メッセージの返信も一日遅れで来ることが多く、交わす言葉もない。

 何かに集中しているときの先輩の顔は好きだけど。

 こんな時、見えない場所で、そんな先輩を少し恨む。

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