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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
二章 二年生
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一時の休息

 流れる季節はとても早く。

 今年も残りわずかになってしまった。

 先輩との仲は、あの引退試合で更に深まったと思う。

 彼からの遠慮がなくなっていた。

 けれど先輩のいない部活はとても退屈で、色褪せて見える。

 部活に意味を見出だせず最近は少しサボりがち。

 ちなみに引退試合で獲得した権利は、一日ずっと遊んでもらうというチケットに消費した。


 十月には体育祭。

 体育祭は出場した演目での勝利数を先輩と競う勝負を行ったが、三対二という結果。

 私は全部個人競技に出場したので勝てたが、先輩は一つだけ綱引きに参加することになり負けてしまった。

 先輩も個人技オンリーだったのなら、この勝負は引き分けになったのだと思う。

 運がなかったんじゃないかな。

 

 もうひとつ忘れてはいけないのは月末の先輩の誕生日。

 プレゼントは悩んだ。

 テストや上の学年の勉強をしている時ですらこんなに悩まなかったのに。

 本当に何を上げたら良いのかわからず、ネットで調べてみたり父に相談したりと、クラスの橋田さんにも聞いてみたりしたのだ。

 来年、高校生になる。

 それこそ私が貰ったみたいに腕時計がいいのかもしれないなんてこと思ったりしてみたり。

 けれど一緒に遊んで貰った時に先輩の財布がボロボロだったのに気付き、私の左手にある物同様の値段の財布をプレゼントした。

 普段から使ってくれているようで、なんだか気持ちがいい。

 彼の中から私という存在が透けて見える。

 それが嬉しくてたまらないのだ。

 秋は過ぎ去るように消えていった。


 十二月。

 三年生は完全に受験シーズン真っ只中。

 放課後は遊んでいた学生たちも塾や自宅にすぐ向かっていくため、すごい静かになる。

 運動部の掛け声や、吹奏楽の演奏などが遠くで聞こえる程度。

 吹奏楽の演奏が夏の大会で聴いたものですごく懐かしく感じてしまう。



「先輩、今日はこちらですか?」



 インクの独特なニオイ。

 僅かに暖房が効いていて温かい図書室。

 五時だというのに夕日が差し込み、哀愁が漂う。

 白いテーブルに先輩は志望校の赤本を開いて、過去問を解いていた。

 先輩はこちらに振り向き、私の相手をしようとする。



「いいですよ、そのままで」



 小さく頷き、問題に戻る。

 私は先輩の正面に座り眺める。

 髪、伸びたな……。

 眉あたりだった彼の前髪が目の下まで伸びている。

 邪魔にならないのだろうか。

 それにしても、この表情久しぶりに見た。

 問題を解いていく先輩は、バスケの練習中と同じように真剣で集中している。

 私と最後にやった試合とは違って落ち着きももっている。

 なんだか今日は懐かしい気持ちになってばかりだ。

 静かでやさしい時間。

 どちらも話さず傍にいるだけ。

 そんな時間もすぐに終わる。



「おまたせ市ノ瀬」

「いえ。私も久しぶりゆっくり出来たので」

「そういえば部活は?」

「サボりました」

「そっか」



 彼が荷物を纏めると同時に、私も床に置いていた鞄を手に取る。



「市ノ瀬、そんなの履いてたっけ?」



 彼に指摘されたのは黒いタイツ。

 最近、脚の筋肉が気になって隠すように履き始めた。

 橋田さんや他の女子生徒に比べても太くはない、むしろ脂肪が少ない分均整の取れた形をしていると思う。

 ただ少し筋張っている。



「冬ですから、結構温かいんです」



 じっーっと見つめてくる。

 


「なんですか?」

「ちょっと色っぽいね」

「……いいから行きますよ。今日、うちに来るんですよね?」

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