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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
二章 二年生
14/38

最後

 先輩と出会った夏が終わる。

 夏休みの全部を部活に費やした。


 全国大会出場。

 まさに奇跡的だったと思う。

 男子、女子ともに。

 地域予選までは順調。

 ただ全国はレベルが違いすぎた。

 私や先輩レベルが束になってかかってくる。

 女子はなんとか一勝、男子は一回戦敗退。

 今になって思う。

 先輩の可能性を私は一つ潰したのでは、と。

 小柄な女子と常に戦っていた先輩だ、自分が低い立場での戦略が少なかった。

 けれど先輩は負けた悔しさはあるものの、普段どおりだった。

『バスケに執着してるわけじゃない』

 あの言葉はどうやら本当だった。


 そして、三年生の部活最後の日。


 私と先輩は向かい合っていた。

 いつもの場所ではなく、体育館。

 最後の部活ということで部員や顧問たちの余計なお世話。

 なぜか部員が見守る中、勝負をすることになった。



「最後ですし、また何か賭けますか?」

「いいよ」



 私も先輩も目の前の敵しか見ていない。



「花を持たせるつもりはありませんが、ハンデぐらいはつけましょうか」



 不敵に笑う。



「いらない」



 冗談には冗談で返してくるけれど、いつもと違う。

 雰囲気が。

 真剣そのもの、目が鋭く集中力が段違い。


 ボールパス。

 先輩の先手。

 様子見する先輩の癖。

 けれど今日は違った。

 最初から本気。

 緩急のつけた鋭いドリブル。

 一六八センチと一五三センチ。

 私のリーチが全然足りないのは知っている。

 足りない分はスピードで補っていた。

 けれど、前より試合のときよりも早いロールターン。

 すぐに抜かれてレイアップ。

 先輩の王道パターン。

 先制点を初めて取られた。

 私だって怠けていたわけじゃない。

 けれど一歩先を行かれた。


 私のターン。

 ドリブルなら私の方がまだ上手いという自負がある。

 私の身長で先輩に勝つ方法の一つ。

 初めて見せるドリブル。

 前傾姿勢になり、頭を突き出すような形。

 低姿勢。

 ダックイン。

 これを先に見せていたなら、全国での先輩の成績は変わっていたかもしれないと思うと、少し心が痛むが勝負は勝負だ。

 私だって負けるつもりはない。

 先輩を素早く抜き去り、そのままシュート体制。

 ぶれもなく真っ直ぐゴールに。


 実力は拮抗していた。

 8対8。

 新しいドリブルに。

 いつもの技は出し尽くした。

 このまま行けば、単純にミスしたほうが負け。

 11対11。

 いつもならもう私が勝っている。

 だけど続いた。

 どちらもはミスしない。

 このまま長期戦になれば負ける。

 スタミナで勝負すると不利だ。

 先輩と戦うため常にフルスロットルを維持している。


 攻守交代。

 先輩の攻め。

 常にぴったりと張り付く。

 隙きを見せるつもりもないが、向こうも決して簡単にボールを取らせてはくれない。

 常にボールを見ながら読み合いをする。

 コート中を右往左往。

 ついに先輩が動く。

 バックハンドで、私から見てボールを右に。

 何度もみたバックチェンジ。

 けれど、私はふと気づいたことがあった。

 先輩が新技を出してこない。

 夏の間、常に練習していたのにも拘わらず。

 何かあると。

 ただの勘だったのかもしれない。

 けれど私の勝ちだった。

 ダブルパックチェンジ。

 さらに後手で持ち替える技。

 フェイントに掛からず、私はすぐに動き出せる体制。

 今回、初めて彼からボールを奪って攻守が変わる。。


 これで私が得点を入れれば私の勝ちになる。

 とうの昔に限界が来ていた。

 酸欠になった頭は思考を鈍らせ、動く脚は鋭さを失い遅い。

 ボールのリズムもぐちゃぐちゃで気持ち悪い。

 単純に何も考えてない私の身体は自然と散々練習しつくしたフローターシュートを放っていた。

 ゴールリングに当たり、跳ね上がる。

 リバンドを取るのは私には無理だ。

 けれど、運は私に味方した。

 二度跳ねるボールはゴールリングに吸い込まれていった。

 12対11

 私の勝ちだ。

 どんなオチであれ私の勝ち。


 疲れが限界に越え、脚が震えている。

 観戦していた部員たちの歓声が響き渡るが、あまり耳に入ってこない。

 身体の力がぬける。

 ふわっとした浮遊感。

 あ、やばい。

 けれど衝撃は来なかった。



「先輩。最低です」

「すまんって」

「今回だけ許します」



 先輩が腕を差し出して、私を抱き上げるように支えていた。

 咄嗟のことで胸を揉むような形になっていたが、最初から怒るつもりはない。

 彼も限界だったようでゆっくりと倒れるが、下敷きになってくれて私もそのまま抱き合うような形でくずれた。

 先輩もすごい集中だった。

 だからこそ、いつものスタミナ量では足りなかったのかもしれない。



「……先輩。汗臭いです」

「流石にな」

「じゅるっ……。塩味効きすぎですね」

「やめ、やめろって。お前、今僕たち二人だけじゃないの忘れてるだろ」

「二人きりだったらいいんですか?」

「いいわけないだろ。頭バグってるだろ市ノ瀬」

「えぇ、まぁ。全然頭働かないです。でも安心してください、見られない角度ですので」

「変なところ冷静な!」



 スポーツタオルを掛けられ顧問と女子部員に運ばれながら、二人して冷房の効いた保健室に連れて行かれた。

 呼吸も整ってきて、自分で歩けるようになった

 着替えに行きたい所だけど未だに脚が少し震える。

 荷物は持ってきてもらえるらしいので、しばらく保健室で休む。

 運ばれた当初は気づかなかったけど、先輩と二人ならんで座らされている。



「先輩、少し離れてください」

「もう今さらだろ」

「気になるんで」

「もう抱き合ったなかじゃん」

「……殴りますよ?」

「殴ってくれてもいいよ、動くのまだつらい」

「正直、私も殴る元気ないです」



 どうにかお尻をずりずりと動かしながら先輩から距離を取る。



「先輩は引退ですけど、勝負は続けるんですか?」

「そうしたいけど受験もあるし。部活の邪魔になるから今回で終わりかな」

「そうですか」

「全国で負けたより、市ノ瀬に負けるほうがちょっと悔しいな。今回は勝てそうだったから余計に」

「いつでも挑戦してください」

「気が向いたらな」

「はい」

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