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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
二章 二年生
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夏祭りと

 父さんとは現地で集合することになっていて、母はいち早く父に気付いて走り出してしまった。

 残された二人。



「え?」



 遠くで仲睦まじい夫婦の姿。

 一瞬だけ振り返り、手を小さく振るだけ。

 戻ってくる気配はない。

 巾着袋に入れていた携帯が鳴る。

『あとはお二人で、羽目を外さないように。花火終わったらまた連絡するから』

 私と先輩を二人にしたいのか、父と二人きりになりたいのか。

 どっちもだな。これは。



「先輩、腕貸していただけませんか」

「いいけど?」

「下駄歩きにくいですし、人が多いのでお願いします」



 母のように胸を押し付けるように腕に抱きつくのは流石に抵抗があり、ちょこんと彼の腕を掴む程度にとどめた。



「どっからいく?」

「そうですね……」



 あたりを見回す。

 焼き鳥なんかもあるけれど。



「夏らしいもの食べたいですよね。せっかくの夏祭りですから」

「そうね。つっても出店にあるものっていつでも食べられるものばっかじゃない?」



 焼きそば、お好み焼き、たこ焼き。

 確かに。

 それに値段の割に美味しくはない。

 雰囲気込みの味。



「焼きトウモロコシなんてどう? 流石に自分で作るものじゃないから」

「そうですね」

「一通り買ってから休めるとこ行こうか」

「少し外れたところに小さな公園があるんですけど花火もばっちり見えるので」

「んじゃ、案内任せるね」



 彼の先導で人混みを縫いながら出店の前へ。

 いちご飴に、わたがし、ベビーカステラ。

 ちゃっかりと甘いものを買っている。

 


「先輩、次右です」

「おっけ」



 提灯や出店の明かりが減っていき、次第に辺りは暗くなる。

 街灯の明かりを頼りに道を歩く。

 人波もなく先輩の腕から手を離しても問題なく歩けるぐらいにはなっていたが、そのままに。

 長い坂道を登っていくと目的の公園。



「へぇ、こんなとこあったんだ」

「毎年このお祭りには来ていますからね。両親ももしかしたら来るかもしれないですが」



 浴衣が汚れないようにベンチでハンカチを敷き座る。

 先輩は私から少し離れた所に腰を落とし、間に買ってきた物を並べた。

 流石にトウモロコシだけを主食にするわけにもいかず、先輩はたこ焼き、私は焼きそばを買ってきていた。

 彼は先にたこ焼きを開封し、消費している。



「先輩、半分どうぞ」

「いいのか?」

「えぇ、その代わり。たこ焼きを少し」

「おっけー」



 たこ焼きを爪楊枝で差してすくい上げると、先輩は私の口元に持っていく。

 これ立場逆じゃないかな。



「あふっ、あふっ」

「あはは、こんな可愛い市ノ瀬見るの初めてだ」



 お茶を一口。

 口の中を冷やすと先輩を睨みつけた。



「最低です」

「悪かったって、もう一個食べてもいいから」



 今度は焼きそばの空いたスペースにたこ焼きを置く。

 ちょっとだけ残念に思った。


 いきなり辺りが明るくなり、すぐに暗くなる。

 遅れて破裂音。

 そして、夜の闇を切り裂くように一筋の光。

 繰り返し。



「始まったみたいですね」

「うん、そこの手すりに行こうか」

「はい」



 自然に手を差し出されたので先輩の手を握り、少し崖になっている場所へ。

 自分たち以外にもこのスポットを知っている人はそれなりにいて、カップルの中に私達も交じる。

 七色の光。

 形も大きさも違う大輪の花が夜の空を彩る。

 一瞬の閃光。

 儚く美しい。



「綺麗だな」

「そう、ですね」



 隣の先輩を見つめる。

 花火の光に反射し顔の色が変わっていく。



「雰囲気に流されて告白とかしてそうですよね」

「夏の一大イベントだからな。雰囲気に呑まれるのもわかる気がする」

「……先輩」



 こっちを見てほしくてそっと呼ぶ。



「なに?」



 けれど彼は花火から目をそらさず、真っ直ぐ空を見つめる。



「……なんでもないです」



 雰囲気に呑まれたのは私。

 寸前のところで冷静になる。

 彼が私を見つめてしまったら、流されてしまうところだった。



「なんだそれ」

「いえ、前に先輩に私のことどう思いますかって聞いたこと思い出しまして」

「あったな」

「あれよく考えたら、告白っぽいですよね」

「確かに」



 笑って済ませる先輩。

 気になる相手に言う言葉だから、あながち間違ってはいない。

 脈があるかどうか。

 ただそれだけ意味。

 今はどうだろう?

 生意気で可愛い後輩から変わっただろうか。



「ちなみに今はどうですか?」

「生意気で可愛い女の子かな。前と変わってないと思う」

「そうですか、チキンですね。もしかしたら流れで私を落とせたかもしれないのに」



 わかっている。チキンなのは私だ。

 ただ後輩から女の子にランクアップしていることに嬉しさを覚える。

 浅ましい。



「恐れ多いよ。あと怖い」

「怖いですか? それなりにやさしくしてきたつもりですが」

「いや、市ノ瀬のことじゃないよ。僕のまわりにも市ノ瀬のこと気になってる人多いからさ」

「それこそチキンですよ」

「あはは……」



 時間にして二十分程度だったろうか。

 少し待っても次の花火が打ち上がらない。

 終わったのだろう。

 辺りのカップルも花火のように散っていく。



「帰ろっか」



 帰りも先輩の腕を掴む。

 腕を絡めて。

 これくらいは雰囲気に流されてもいい。

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