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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
二章 二年生
12/38

誕生日と

 また夏がやって来た。

 体育館特有の温気にみんなやられているようだ。

 隣にいる先輩もやられてるようで、室内の熱気が外に出るまで指先でボールを掴み、何度もつまむようにしてボールを浮かせていた。

 私も座っているだけなのに、じんわりと汗をかいてきた。



「市ノ瀬どっかいくの?」

「どこにも行きませんけど、どうかしました」

「いや、距離が離れていったから」

「いえ、その……」

「?」

「察してくださいよ」

「あぁ、ごめん。体操服透けてんね」



 言われて見て、視線を下げると黒い布地が見える。

 公立の中学。

 練習なんて体操服だ。

 薄い白地なんて透けて当然。



「別にそっちは構いません。スポブラなんで」

「そっち?」

「……汗臭いと思われたくないだけですよ。言わせないでください」

「ふ~ん」



 興味ないようで彼は視線を外し、寝転び天井にボールを放っていた。



「先輩のそういう鈍いとこ嫌いです」

「流石にわかんねぇって。今まで気にしたことなかっただろ」

「そうですけど……」



 ボール遊びをやめて、先輩は座り直す。

 私の方に向き直ると、



「今週の日曜、予定あるか?」

「日曜ですか。特にないですけど」

「そっか、じゃあ午前中に家にいくからよろしくな」

「はい。お待ちしております」

「室内の温度下がったし、練習はじめよっか」



 今週の日曜日は七夕。

 私の誕生日だ。

 教えてなかったけれど、知っているのだろうか。

 母さんかな。

 素直に感謝。



 ※



「ふぅーー」



 緊張を隠すように深呼吸。

 緊張するのはいつ振りだろうか。

 おかしい所がないか何度も鏡でチェックする。

 髪型を少し変えてみた、ハーフアップにして小さなお団子を作る。

 首元が空いて幾らか涼しい。



「夏菜、そろそろ降りてきなさい。柊くん来たわよ」

「今行く」



 まだまだ確認したいが、待たせるは良くない。

 諦めてリビングへ向かう。

 先輩はソファでコーヒーを飲みながら寛いでいたが、ドアの音に反応して登場した私に目を向けた。



「……何ですか?」

「浴衣すげぇ似合ってるね。いつもより大人っぽく見える」

「そうですか」



 母が私の反応を見て笑っている。

 やりづらい。


 今日の私は浴衣を着ていた。

 黒地をベースに白と赤の花柄。

 私の街では七夕に大きい祭りがあり、花火も上がる。

 いつも両親と三人で祭りに行ったあと、家で誕生日ケーキだけを食べるというのがお決まりだった。

 今年は先輩もいる。



「あぁ、そうだ。これ」



 先輩はソファの脇に置いてあった紙袋を掴み私に差し向ける。

 隙間から見えるのは綺麗なラッピングが施された箱。



「ありがとうございます」

「時間がなくて大したもの用意出来なかったから許してくれ」

「いえ、いただけるだけ嬉しいですよ」



 父さんからはポーチ、母さんからは私が普段遣いしているリップバームはハンドクリームなどスキンケアグッズ。

 実用的でかなり嬉しい。

 同年代の男子からプレゼントを貰ってもこんなに喜ぶことはないだろう。

 意地でも顔には出さないけど。



「開けても?」

「どうぞ」



 ラッピングを綺麗に剥がし折りたたむ。

 中からはシンプルな真っ白な腕時計。



「これ高いんじゃ」



 このブランドは比較的安い部類だが、中学生のお小遣いでは一万円を超えるのは高い部類。

 いくら仲がいいとはいえ、ぽんっと出せる金額じゃない。



「僕の小遣いって生活費と合算だし、市ノ瀬のおかげで最近食費がかなり浮いてるから。それ以外もかなりお世話になってるからね」



 お礼も込めて。

 やばい、すごい嬉しい。

 いつも態度を変えない彼にヤキモキしていたけれど、ここまでしてくれるのはその他大勢とは違うという優越感と安心感。



「先輩の誕生日十月でしたよね? 期待しててください」

「いいよ、別に。そうすると市ノ瀬に返せるものなくなるし」

「それなら来年も何かいただければ」

「考えとくよ」



 プレゼントを左の腕に巻きつける。

 じっと眺めていたいけれど、先輩に気づかれたくなくてすぐに視線を離す。

 私たちの様子を見守っていた母が一段落と思ったのか、声を掛けてくる。



「そろそろ行くわよ、二人とも」




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