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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
二章 二年生
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修学旅行(仮)

 新着メッセージ。


『柊渉』

 

 文章はなく一枚の写真だけが送られてきた。

 アメリカ西海岸の夕焼け。

 のように見えるけれど日本のビーチ。

 先輩は沖縄旅行中だった。

 来年は私がそこに行くことになる。

 修学旅行。


 新たなフォルダを作成し写真を保存していると、聞き慣れた着信音。

 先輩から掛けてくるなんて珍しい。



「どうしたんですか先輩」

「頼まれたお土産だけど、本当にこんな写真でよかったのか?」

「はい。出来れば他の観光地もお願いします」

「了解ー」



 旅行のお土産。

 私がお願いしたのは、観光先の写真。

 特に欲しいものがないのは確かだけど、なんとなく一緒に旅行した気分になれるのではとお願いしたのだ。

 なんなら来年、同じルートを辿ろうかなと。

 土産に写真を希望されて困惑しているのだろう。

 確認の電話だった。



「楽しいですか?」

「楽しいっていうより癒されるかな。普段見る景色と全然違うから新鮮だし。ビルもないからか空が近くて開放感ある。海も綺麗だし、……聞こえる?」



 ……ザァー。……ザザァー。

 耳をすませば遠くから波の音。



「先輩、少し詩的でくさいですよ」

「吟遊詩人になろうかな」

「また適当なことを……。熱中症には気をつけてくださいね」

「ちゃんと水は飲んでるし大丈夫。それより潮風気持ちいいよ」

「いいですね」

「来年は市ノ瀬が行くんだから楽しみにしてなよ」

「はい」

「どうせなら一緒に行きたかったけどな」

「……え?」



 先輩も同じことを思っていてくれたのだろうか。



「正直、学校で一番仲いいの市ノ瀬だからな。一緒にいたらもっと楽しそうだなって」

「……そうですか。残念ですね」

「それじゃ自由時間終わるから切るわ」

「はい」



 どきっとすることを言わないで欲しい。

 脈があるのかと。

 両思いなんじゃないかと勘違いして、勝負を急ぎ負けるのだけは勘弁だ。

 先輩を好きになって気づいたのは振り回されてばっかりだ。



 ※



 昨日は気にならなかったけど体育館がとても広く見えた。

 三年生のいない部活は覇気がなくどこか静か。

 二年はいつも通りだけど一年生は圧重がないのか遊び感覚のよう。

 実際、部活に身が入らないのも確かだ。

 先輩と競っていないとやる気が起きない。

 雑にやっているわけではないけど、私の練習にはならなかった。

 

 あと三ヶ月もすぎれば三年生は、夏の大会を最後に部活を引退する。

 これが日常になってしまう。

 今になって母の言葉を思い出す。

『柊君は来年3年よ。あんまりもう遊ぶ時間はないんじゃない?』

 時間は許してくれない。

 どう足掻いても先輩は一年早く卒業する。

 あの時から母さんは私の気持ちに気付いていたのだ。

 

 実りのない部活が終わり、真っ直ぐ家路を辿る。

 平日なので両親はおらず自宅はとても静かだ。

 お風呂を沸かす間、部屋のベッドに寝転びながらスマホを取り出して、先輩から届いた写真の一覧を整理しながら眺めていく。

 期待していたわけでないけど、彼の映っている写真は一枚もなかった。

 

『夜、暇だったら電話してもいいですか?』


 お風呂が沸いた知らせが聞こえたので、メッセージを送っておく。

 あれから距離は近づいたと思う。

 一緒にいる時間は増えたし、私が強引に誘っているのもあって家に来る回数も増えた。

 前より大きく変わったのは土曜日に部活があれば、先輩が家に泊まることもあった。

 これは母さんのアシストによるものだけど。

 客間だった和室が完全に先輩の部屋みたいな扱い。

 母の応援の形は度肝を抜かれる。

 まぁ父さんは苦笑いしていたけど。


 お風呂を上がり夕食後も、彼からの返事は来ていない。

 まだ寝るには早い時間。



「夏菜、そわそわし過ぎよ」



 スマホを眺めながら唸っていると、食後の紅茶を飲んでいる母に話を振られた。



「そんなに顔に出てた?」

「ううん。表情には出てないけど、頻繁にスマホ見すぎ」

「あはは……」



 私は苦笑いを浮かべるしかない。

 恥ずかしい。


 手元の携帯が震えると、ランプが点滅している。

 先輩からの着信。



「母さん部屋に戻るね」

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