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連勝中の私が唯一勝てないもの  作者: 「」
二章 二年生
10/38

今回の賞品

「罰ゲームですね、先輩」



 10対8。

 今日は少し危なかった。

 大会を終えて、強豪校と戦ったことで先輩の動きが更に良くなっていた。

 春休み中も一人であの公園で練習していたのだろう。

 それに比べて私は少しサボっていたこともあり、先輩に触れると意識して動きが鈍くなっていた。

 だけど負けるわけにいかない。



「はい。なんなりと」



 悔しそうに顔を顰めながら座る先輩を一瞥すると、賞品を受取るために告げる。



「先輩の連絡先、教えていただけますか」

「そんなんでいいの?」



 私は前もって用意していた言い訳を口にする。

 ちょっとしたオマケ付きで。



「真剣勝負するためですから、そんな重いもの掛けたりしませんよ。先輩は勝ったらなにを私にさせるつもりだったんですか?」

「今週の土曜に食べる弁当作ってもらおうかなって」

「……言っていただければ作りますが」



 この人は本当に。

 もっと欲を出してもいいと思うのだけど。

 挑発した私が馬鹿みたいだ。



「先輩って私のことどう思っているんですか?」



 つい口に出してしまって後悔。

 それに、答え次第ではこの場から逃げ出してしまう。



「生意気で可愛い後輩」

「……生意気ですか」



 ほっとするけれど複雑。

 いやプラスに捉えよう。

 生意気を除けば可愛い後輩。



「卒業までに一回ぐらい勝ちたいもんだ」

「勝てるといいですね」

「そうね……。はいこれ」



 先輩がスマホを渡してくる。

 QRコードも表示していない真っ暗な画面。

 電源キーを押してしまったのかと思ったけれど、単純に起動すらしてないだけだった。

   


「任せた」



 個人情報の塊をそんな気楽に渡してくるのに驚いた。

 パスワードも指紋認証もない。

 友達からの新着メッセージが届いているのだけど……。



「本当に学生なんですか? 悪い意味で」

「目覚まし時計付きゲーム機だと思ってるから」



 ちょっとだけ理解できるのが悔しい。

 メインで使ってるのは動画を見ること、その次に目覚まし時計。

 新しい料理に挑戦するときにレシピを開いたりと、連絡に使うことのほうが少ないのは私も先輩も一緒のところ。

 クラスのグループに入っていたけど発言することはなかった。



「お返しします」



 私のアプリに舌を出してヨレヨレのスマイリーのアイコンが登録された。

 指でやさしくなぞる。

 何のマークだろう?

 調べてみると90年代の洋楽に関係するものだった。

 先輩にこういう趣味があることを初めて知った。


 負けず嫌いで、甘いものとコーヒーが好き。

 魚介が苦手で、理由は魚の骨がめんどくさい。

 大人っぽいのに無邪気な一面を持つ。

 私の知っている彼の情報はこれだけ。

 知っていることのほうが少ない。

 けれど、それはこれから知っていけばいい。

 でも今は優先的に知っておきたい情報が色々ある。

 いつ聞くのかはタイミングによる。



「卒業といえば先輩は進学先決めてるんですか?」

「今のところは、梅ヶ丘かなぁ」

「そこバスケ部ないですよね?」

「いやあるけど。弱いからないことにするなよ」

「バスケ部も強い進学校ならあると思うんですが」



 先輩ならもっといいところに行ける実力があるのに。



「そういうところ私立だからなぁ」

「すみません」

「いいよ。親父のおかげで不自由はしてないから」



 父親と二人。

 母親がどうしていなくなったのかは教えられてないけれど、大きく分けて二つ。

 言いたくない理由があるとして、知らなくていいと思っている。

 そこまで踏み込むには、まだ私には資格がない。

 


「バスケは続けないんですか? もったいないような気がしますが」

「まぁ僕は負けず嫌いなだけで、バスケに固執してるわけじゃないから」



 彼の心境を窺い知れない。

 その横顔をみつめてしまう。

 夕日に照らされて朱くなった先輩の顔。

 何をみているのか、何もみてないのか。

 

 下校を知らせるチャイムの音。

 先輩は振り向いて立ち上がり、私に向けて手を差し出す。



「市ノ瀬帰ろっか」

「はい」

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