イートボット
人間がパソコンと一体化する未来。その時代には首元に接続され、計算や記憶の補助をするカラー端末とよばれるものがでた。
色々な人間のためのソフトが用意された。苦痛を緩和するソフトや、快楽ややる気を刺激するソフト。
その中でもその時代、もっとも話題となったのが、“イートボット”別名“記憶食いのボット”人が選んだ記憶、それもカラー端末の中に記録された記憶を消去するというものだった。
このボットを使うと、人は任意にその記憶を失う事ができる。ただ問題は周辺の情報も少しばかり失うことになる。その記憶に紐づいた小さな記憶も失うことになる。よく見るとソフトの注意事項にはこうかいてある。
※多少の周辺記憶を失うことがありますが変わりに喪失感を味わうことができます。
まさか、当初はこれをつけた少年の人格がかわって人道、倫理的な問題に発展するとは考えられなかった。
だが事実、貴族の少年の性格がいっぺんし、スラムに通うようになってから、家族がそれを怪しみ、直近の変化といえば?と調べて姉の推理でイートボットの使用が挙げられた。
すぐに彼の記憶や情報はまき直しが行われることになったが、その変わった性格まではもどせなかった。それこそ、脳をいじったり、好き嫌いや価値観を無理やり捻じ曲げるしかない。
といってもスラムの人たちは大喜びだったが、なんといってもこの少年がスラムにとっては好青年であり、たべものや金をどこからか調達してきてはスラムにばらまいていくのだったから。
彼に対しいろんな人が、“何をみたのか”“何を忘れたのか?”と尋ねた。
少年はスラムの中で明るく答えた。ハトやカラスが飛び上がるなか、それがとても神々しい光景だった。
『嫌いな自分を忘れたら、神を見たんだ』
カラー端末には、カラー端末にだけ記憶を保存、そこでうまれた思考や感情は、人間の思考を補助する、それこそ普通なら忘れる情報ばかり、海馬に一時保存され、忘れ去られる短期記憶だ。それらさえも、人格を左右する変化を生み出すとは、この事例はとても特殊なものだった。