一、ヒロイン殺しの九十九神④
4回目の投稿です。
とりあえず導入は一段落です。
読んでくれたら嬉しいです。
一、ヒロイン殺しの九十九神④
次なる一手をうつ、それは勿論放課後だ。と言いたいところだが、まだチャンスはあるものだ。そう、誠はおっちょこちょいなところもあるんだ。それがまた女子に受ける。お昼過ぎの数学の時間、誠が教科書を忘れたと知った時、私はガッツポーズした。
「やべえ」
なんて、小声で漏れてる。漏れてる。誠くん。さあ、麗華はどうしたいと考える? そうだよなあ。見せてあげたいよなあ。机をくっ付けたいよなあ。いいよ。いいよ。大胆になって来たよ。私も、やりがいあるよ。でも、これはそう難しくもないよ。簡単だ。
「なあ。望結。教科書見せてくれよ」
誠が最初に頼るのは勿論ヒロインだ。麗華にそこまでの信頼関係はまだないし、幼馴染の関係の深さはそう簡単には崩れない。しかしだ。問題はヒロイン側にある。素直に見せてしまえば、こちらは何も出来ない。引き下がるだけさ。でもどうだ? ヒロインは今日ここまでの事もあって、一言で言えばすねているのだ。単純に。そうこれは、大チャンスなんだよ。
「何だよ? 望結。無視するのかよ?」
少しだ。少しだけすねてやろう。そう考えてるんだろう? 姑息だねえ。でもね、すました顔して無視してる場合じゃないんだよ。私が、このチャンスを逃すと思うかい? 麗華、少し借りるよ。
「佐藤くん。どうかしましたか?」
何も無ければわざとらしいかも知れないが、この場合、横で一悶着しているのだから普通のやり取りになる。ヒロインの行為を利用した作戦だ。にわかに、ヒロインの顔色が変わるのが分かる分かる。
「いや、ちょっと。教科書忘れちゃってさ」
「そうなんですね。それは大変だわ」
もっと大変な人が、誠の隣に。そうだよな。このままじゃ、麗華が誠に教科書を見せてやるのは当然の流れ、しかし、元々はヒロインの仕事だ。でも、今更焦っても無理さ。お前はその仕事を自ら放棄したんだからな。私は、このチャンス逃さないよ?
「じゃあ、佐藤くん。私の教科書を一緒に見ませんこと?」
「本当? いいの?」
「勿論。困ったときはお互い様ですわ」
「ありがとう! 助かるよ!」
誠が机を寄せてくる。それに対して、反応するのが教師だ。
「どうした? 誠」
「あっ! 先生。俺、教科書忘れてさ。大月さんに見せて貰うけど、いいよね」
教師は不思議そうな顔を見せる。
「へえ、お前は鈴木にべったりだと思っていたがな? 珍しいこともあるもんだ」
「いや。そんなことないですよ。はは」
そうだ。そんなことはない。付き合っているわけではない。幼馴染で付き合いが長いだけだ。誠が言うことは何一つ間違っていない。しかし、これは効く。ヒロインに対しては効果抜群だ。自分はしょせん、そんなことないのだ。全否定に近い。最早、怒り心頭だろうな。すました顔してるが、真っ赤になっているぜ。
さて、そろそろ引っ込もうかな? 麗華のお楽しみだ。邪魔しちゃ悪い。
「あら? 私、どうしたのかしら? 今日は変ね……」
「大月さん。これって、どう解くの?」
真横から誠の声がして、麗華はびっくり仰天だ。驚いたドキドキなのか、嬉しいドキドキなのか分からなくなっちゃってる。可愛いなあ。本当に。
「大月さん? どうかした?」
「えっ? いいえ。大丈夫です。大丈夫」
「そう? ならいいけど。それで、この問題なんだけどさ」
「はい。この問題ならこうして……」
嬉しいよなあ。麗華。大好きな誠くんと席を同じくにして、問題を教えてあげられるんだからなあ。君の喜びは私の喜びだ。大いに楽しんでくれ。私も十分に楽しんでいるよ。見ろよ。あの邪神と言い伝えられるヒロインの憎しみに歪んだ顔を。奴の歪んだ心はもはや、人の物ではないよ。
さあ、ゆっくり楽しんでくれ。私は次なる一手を考えるとしよう。
放課後を知らせるチャイムが鳴った。
麗華も当然のことながら、家路に着こうとしている。
「麗華様。また明日。御機嫌よう」
「ええ、皆様。御機嫌よう」
取り巻き達と、靴箱の所で別れる。これから十分程の徒歩で家路に着くのだ。今日も習い事が一杯だ。そんな日が多いんだなこの娘は。令嬢として完璧だ。見えないところで努力を重ねるものなのだ。しかし、最後には大した努力もしていないヒロインにいいところを全部持って行かれるのだ。そんな理不尽が許せるか。
さあ、今日の仕上げをしようか? 今日、誠はサッカーの練習だ。ヒロインはそれが終わるまでグラウンドで応援していることが多い。しかし、今日はそうはならないだろう。自信があるね。何故なら、ヒロインのすねてる度はMAXにまで高まっているからさ。
「誠。バイバイ」
「あっ、望結」
ヒロインは一言だけで、靴をはき始めた。麗華となれ合う男を許さないってとこだろう。分かってないなあ。すねたら、注目はして貰えるだろう。しかし、それは悪い意味でだ。男は面倒臭いと思いながらも、構わなくては仕方なくなるのだ。そうつまり、男側に別のより所があれば……。少し借ります。
「佐藤くん。これから練習?」
「あっ、大月さん。そうだよ」
「そう。練習頑張ってね」
「あ、ありがとう。頑張るよ」
誠は嬉しそうだ。今この瞬間は、麗華に注目しているのだ。それが分からないヒロインではない。自分も今まで、麗華を踏み台にして散々使ってきた手段なんだから。ヒロインは何も言わず、帰って行った。
「何なんだよ? 望結のやつ」
「佐藤くん。良かったら、グラウンドまで一緒に行っていいかしら?」
「えっ、うん。勿論」
さあ、お膳立ては終了だ。楽しめよ。麗華。
「あれ? 佐藤くん」
「じゃあ、行こうか。大月さん」
「えっ? あの、その……はい!」
会話はぎこちない。ぎこちないが、嬉しい。そうだよなあ。良いよ麗華。もっと楽しみなさい。そして知りなさい。好きな男と過ごす時間の楽しさを。そうしなければ倒せない。あのヒロインは倒せない。そう簡単に、仲の良い幼馴染というアドバンテージを崩すことはできないんだからね。
「じゃあ、今日はありがとう。大月さんも気を付けて帰ってね」
「う、うん。……練習頑張ってくださいね」
「ありがとう! 頑張るよ!」
軽く手を振って、バイバイだ。嬉しくてしょうがないって感じだなあ。さあ、これからも頑張ろうか。でも、そろそろ今晩辺り、私の本職に手を付けさせてもらおうかな?
さあ、帰ろう。帰りに少し、体を借りるよ? 標的を見つけなくちゃいけないからね。
続く。
ありがとうございました。
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