一、ヒロイン殺しの九十九神③
三回目投稿です。
読んで貰えたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
一、ヒロイン殺しの九十九神③
さあ、待ちに待ったお昼だよ。麗華念願の誠くんとの学食だよ。
「大月さんは何頼むの?」
そんなたわいない会話にも麗華の心はドキドキだ。取り巻きの皆も気を使って少し距離を置いている。できる連中だよ。いい友達を持ったなあ。でも、油断はできないよ。あの悪鬼たるヒロインがこっちをにらんでいるからね。
「私はAセットかな……」
「そっか、じゃあ俺もAにしようかな? いい」
「えっ? ええ、もちろん」
唐揚げ定食が被っただけでもドキドキだよ。若いね。青春だね。
「ごめんね。おごって貰っちゃって」
「だ、大丈夫ですわ。気にしないで」
その通りだ。一緒にご飯できると考えたら安いもんなんだよ。それにしても、嬉しそうでいいね。やったかいがある。脇役が輝く瞬間こそ美しい。そして、ヒロインが嫉妬に狂うさまは私にとってまさしく至福だ。見ろよ。あのザマを。
「どうしたのよ? 望結。ちょっと変だよ?」
「だ、大丈夫だよ。なんにもないよ」
なんにもなくないんだよな。大丈夫じゃないだろう? 悔しくて仕方ないくせに。追加で何かしてやろうか? そうだな……。これがいい。麗華、少し体を借りるよ。
「どこで食べようか?」
「そうですね。あそこが空いてますわ」
何気なく、さり気なく、そこに誘導してやる。そこはもちろん、ヒロインの横の机だ。
「あれ? 望結じゃん」
「ま、誠?」
ヒロインは戸惑いながらも、嬉しそうな顔を見せるが、それは一瞬。やはり性悪鋭いな。そうだ。ここで喜び、誠と会話をするということは、麗華から恵んでもらったことになるのだ。そんな事はプライドが許さないだろう。
「き、奇遇だね。私、由紀と話してるから」
「そっか。ごめん。ゆっくりな」
こちらの意図を悟ってか、ヒロインはあえて誠を突き放す。この後いつでも、逆転のチャンスがあると思ってるんだろう? というか、眼中にもないか? でも、私相手にそう上手くいくと思うなよ。
「私達もいただきましょう。誠くん、皆様」
「はい。麗華様」
「おう。いただきます」
私がうつ次の一手はこれだ。誠はサッカー部で食事はよく食べる。そこを利用するのだ。
「ああ、唐揚げ美味いなあ」
「あら、佐藤くん。唐揚げ好きなの?」
「えっ? うん。大好きだよ」
「そう。なら」
私は唐揚げを一個、箸で掴んだ。くくく、喰らうがいい。必殺だぞ。
「これ。差し上げますわ。私には少し多いんです」
「えっ? 本当? ラッキー! ありがとう!」
おかずを一個上げるだけの行為だ。それだけと考えれば、大したことはない。しかし、人はハードルが高いと考える。しかし、デメリットなんて無いのだ。よく食べる相手なら、勿論喜ぶし、何より、見てみろあのヒロインの顔を許せないって顔だぜ。全く愉快だな。
「本当に大丈夫? 望結」
「な、何が? 何もないよ」
何も無い訳ないだろう? 噛ませ犬だと思っていた女が、お前の誠くんと一緒に食事して、ましてやおかずのやり取りまでしてるんだぞ? 悔しいよなあ。私は愉快だよ。どうだ? 誠くんは麗華の唾液のついた唐揚げを食べるんだぞ? はらわた煮えくりかえるんじゃないか?
っと、そろそろ時間か。仕方ないな。後は頑張れよ。麗華。
「あら? 私……唐揚げ食べてる?」
麗華としてはびっくりだろう、突然意識を取り戻したと思ったら、唐揚げ定食を食べているんだから、しかし、驚くのはそこだけじゃないんだなあ。
「大月さん。貰ったこれ、美味しいよ。ありがとう」
麗華はキョトンとしている。はは、面白い。でも、誠にお礼を言われてまんざらではない。嬉しくて、心臓が高鳴っている。私は何をしたんだろう、でも嬉しい的な?
「麗華様。意外に大胆ですね。誠くんに唐揚げを一個あげちゃうなんて」
「凄いと思います。私も見習いたいですわ」
「うん。うん」
「私が唐揚げを?」
自分がした事を認識した麗華は顔を真っ赤にした。そうだよな。イメージとは外れてるよな。それはもうカップルじゃん。なんて麗華は考えちゃってる。可愛い娘だ。
「大月さんって、もっと気難しい人なのかと思ってたよ。優しいんだね。俺、勘違いしてた。今度は俺がおごるから」
そんなことを言われたら、もうドキドキMAXだ。次もあるの? なんて期待しちゃう。心臓の高鳴りがとどまるところを知らない。嬉し過ぎるんだろう? 私もそうだ。嬉し過ぎる。見てみろ、あの悪魔たるヒロインの顔を。口から火でも吹きそうだぞ? 最早、完全にダークサイドに落ちたな。いい気味だ。最高だ。ざまあみろよ。
「由紀。私、教室帰るから……」
「望結。保健室いかないで大丈夫?」
そうだろう。逃亡しか出来んよなあ。イメージってものがあるからな。ここで酷いふるまいを見せれば、誠にも嫌われちまう。そうだろう? でも、そんな頑張りは無駄さ。私がいるからな。
麗華は取り巻きも交えて、昼休み終了まで誠との会話を楽しんだ。本当に楽しんだ。心の底から楽しんだ。もうこんなことはないかも? なんて思っちゃってる。そんなことはないんだよ。私がいる限りね。終了のチャイムが鳴る。
「大月さん。本当にありがとう。俺がおごる約束。忘れないでね。俺直ぐに忘れるからさ」
「えっ? ええ、よろしくお願いしますわ」
もう、嬉しくて恥ずかしくてだなあ。本当に可愛い宿主様だよ。さて、私は次なる一手を考えようか。あの悪魔を倒す次の手を。
続く。
ありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。
ブクマ等もお待ちしてます。