一、ヒロイン殺しの九十九神①
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一、ヒロイン殺しの九十九神①
私は九十九神としてこの世に生を受けた。私の正体、それはボロボロになって捨てられた、このテニスのお姫様27巻だ。私には染みついている。この巻で非業の敗北を遂げ、全てを失うことになる悪役令嬢の怨念が。
その悪役令嬢の名はアレイ。私の名もアレイだ。もはや、私はこの作品の悪役令嬢そのものと言っても過言ではない。そして、私にはとある強い感情が宿っている。それは。
ヒロインは絶対に許せない。
というものだ。テニスのお姫様は大ヒット少女漫画だ。当時、影響を受けた女の子は数多い。だから、アレイという悪役令嬢ほど少女達のヘイトを集めたキャラクターはいないのだ。
作品のキャラクターに心はあるのか?
当然だ。概念であっても彼らは生きている。アレイは辛かった。皆から嫌われ、疎まれ、敗北を望まれる。しかも、敗北は決まっているのだ。絶対に抗えないのだ。こんな理不尽なことがあるだろうか?
そんなアレイの怨念。自らの運命を、自らを踏み台にしていく悪魔のようなヒロインを憎む気持ちが九十九神たる私を産み出したのだ。
私の目的は唯一つ。ヒロインにとっての悪魔となり、ヒロインを追い詰めて潰すこと。そう、それはこの現実世界もそうだが、私は物語の世界にも介入することができる。物語の世界に入り、ヒロインをぶっ潰すのだ。貴様が噛ませ犬だと思っている存在がどれだけ恐ろしいかを教えてやるのだ。
さすがの私でも完結作品に介入することはできないが。死んだ人間をどうこうできないのと同じだ。現在進行している物語じゃないとダメだ。だが、だからこそ面白いのだ。
さて、私はまず依り代が欲しい。何故なら、このままでは私の本体は焼却炉行きだ。ブック○フでも買い取ってもらえなかったボロボロには仕方がないことだ。人間の宿主を見つけ、私を保護しなくては。
私は周囲を探った。そして、丁度いい娘を見つけた。負のオーラをビンビン感じるぞ。素晴らしい美人だ。育ちも良さそうだ。だが一つ恵まれていないのは恋愛において脇役であるということだ。素晴らしい逸材だ。
この娘に決めたぞ。
私は、この娘に取り憑いた。この娘の名前は大月麗華。17歳。大月財閥のご令嬢だ。素晴らしいじゃないか。性格は悪い。と周りに思われている。何故なら、素直になれない性格だからだ。俗に言うツンデレだ。それが災いしている。
好きな男にも怖い女だと思われているのだ。
それが、この娘をどれだけ傷つけているか、誰か考えたことがあるのか? 好きな男には幼なじみがいる。そいつが言うところのヒロインだ。ヒロインと男とはいつも一緒に帰っている。この娘はそれをいつも羨ましく感じながらも、どうしょうもないと、諦めているのだ。
しおらしいじゃないか、可哀想じゃないか。物語のヒロインをとっちめたい気持ちはあるが、まずはこの娘をヒロインに勝たせるとするか。家賃代わりだ。
これ以降、娘のことを麗華と呼ぶこととする。私は麗華の体を少し拝借した。私のいるゴミ捨て場へと歩を進める。束をほどき27巻だけを取り出す。他は必要ないと蹴飛ばす。ヒロインの活躍などクソ喰らえだ。私は、それを麗華のカバンに詰めた。見つからないように。
「あら? 私、どうしてこんなところに?」
私が人の心を操れる時間は僅かなものだ。魂を持つものを操るのは絶大な力を必要とする。
「変ね。……大変。早く帰らないと。ピアノの先生が来てしまうわ」
ひとまず、私の命は助かったというわけだ。
麗華は帰ってのルーティンをこなし、ようやくの事で部屋に帰ってきた。ピアノ、礼儀作法、勉学の家庭教師達に揉まれ、麗華はボロボロだ。夕食は夜の10時を回っていた。味も分からなかったくらいだ。素晴らしい。本当に逸材だ。
「とりあえず。明日の準備をしないと」
おっと、危ない。危ない。私が見つかってしまうな。少し体を借りるよ。私は麗華の体を借りると、本体を本棚の奥に隠した。ここならそう簡単に見つかるまい。念を入れてブックカバーを変えておこう。
「本当にどうしたのかしら? 私」
さあ、明日からが楽しみだ。この娘を逆転生活に導いてやろうじゃないか。
続く。
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