B1
「……ふわあ」
体をぐっと伸ばすと欠伸がでた。
なんだろう、すごく頭が痛い。
「カケル様、朝食の準備が整いましたので…」
「ああ、ありがとう。すぐ行くよ」
今日は我がノラ王国と唯一肩を並べることのできるサドニカ帝国との親睦会当日である。メイドもそして王国民も皆一様に厳しい表情を固めているようだ。
するすると寝巻を脱ぎ、自分で王族の衣に着替える。
メイドに任せるのは王族ながらどうしてもそりが合わず、無茶を言って自分に任せてもらっている。
寝癖を整え、真珠に縁どられた豪奢な鏡の前で思案する。
俺は…非情な選択でも国民の為にとるべきなのだろうか。
それとも王国の長きにわたる偉大な歴史を守るべきなのだろうか。
考えても答えは出ようはずもない。
痛む頭をおさえ、かぶりを振って朝の食卓へ向かった。
「おはようございます!お兄様」
「おはよう、エラ」
妹と2人で食卓を囲む。今日の献立は…ほとんど見たことがないものばかりだ。
メイドや召使たちはテーブルから離れた場所でクロスを抱えたり空いた皿の片づけを行っている。
父も母も、今日はいらっしゃらないようだ。
「っ…!」
その瞬間ズキりと鋭い痛みが頭に走る。
「どうかしましたか?お兄様」
「…ふう。いや、何でもないよ。ちょっと考え事でね」
「あ、申し訳ありません!あたしったら考えなしに…」
「いや、気にしないでくれ。」
心底申し訳なさそうにするエラを慰める。
申し訳ないのはこっちの方だ。
親睦会は17時からだが、サドニカ帝国の第二皇子と第三皇子は昼頃には顔を出す。俺の他の兄妹たちもあと2時間もしないうちに顔を出すだろう。
「ごちそうさま。先に部屋に戻ってるよ」
「はい!ではまた後ほど…。」
エラの表情もどことなく固い。いつもは天真爛漫な彼女だが、やはり今日は緊張しているのだろう。
空いた皿をメイドへ渡し、ゆっくりと食卓を後にした。
部屋に帰ってすぐ剣術の修行を始める。
俺は王国の第二王子ながらも剣術も魔法もまるで兄妹に歯が立たない。素手の兄上に竹刀を持っても勝てなかったし、妹のエラは俺が呪文を詠唱している間に3発は同じ呪文を唱えるだろう。
本当に俺は兄弟で役立たずだ。
たった一つ、俺にあるのは王家が代々受け継いできた聖剣ノラを引き抜けたこと。これだけしかない。
なぜ俺なのか。どうして最も才の無い俺を選んだのか。
聖剣は何も語ってはくれない。
しかし父も、兄上も皆大手を振って喜んでくださった。
聖剣の選択に異を唱えることもなく、俺を祝福してくださった。
この御恩に報いたい。
今日も聖剣はボックスの中へとしまいこみ、竹刀を片手に修行へ向かう。
俺は皇子として、誰にも負けることは許されないのだ。