A9
あっという間の出来事だった。
銀髪の女性が恐ろしい形相で襲い掛かってきたと思ったら、
金髪の男が狂ったように虐殺し、
目の前で命を絶った。
それも僕の名前を呼んで。
「ハア、ハア…ハア」
ゆっくりと呼吸をしようと試みる。
目の前でこと切れた男の亡骸を抱えているためか上手く肺が動かない。
でもこの男から離れるという選択肢は自分には無かった。
男の手には神々しい剣が光り輝いている。
何となくだがこの剣に見つめられているかのような錯覚を得る
「ハア、、、なんで、、、」
思いの丈を言葉にのせる
「なんで、、僕の名前を知ってるの、、、?」
倒れた男は何も答えない。
首から噴き出す赤色がドクドクと小気味よいリズムで私の体を染め上げる。
その赤色を眺めているうちに色々な考えが消えていく
思考がフラットに、
思考が研ぎ澄まされるような感覚に。
「君は、僕を知っている。」
「僕も君のことをきっとどこかで見ている。知っている。」
ドクドク……
赤色は少しずつ勢いを失っているようだ
「君は僕にとって遠い存在ではなかった」
ドクドクと自分の斬られた腕に彼の血が流れ込んでいる気がする
「思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、」
ズキズキと痛む頭が今までにない痛みへと変わる。
しかしそんなことに構っている暇はない
腕の傷口を無意識に搔きむしり、止まりつつあった血がまた噴き出る。
「しtっって得る。そおおだ。よkっくおもいだすんだ」
視界が揺れる。
気を抜くと気を失ってしまいそうな痛みが駆け巡る。
彼の背中に水滴が伝っている
僕は泣いているのだろうか
「この人のことを」
「忘れてはいけない人」
ゾクリと背中に鋭い冷たさが走る
鳥肌なのか頭皮が毛羽だっているような意識だ
「この人は……」
彼の剣がより激しく光を放ち、カタカタと音を立てて震えだす。
……止めなくちゃ。
逃げちゃだめ。
今まで知るのが怖かったんだ
彼の手の上から私はそっと剣を握りこむ。
刹那。
それまでを遥かに上回るほどの神々しい光が辺りを包み込み、
私の体から紫の煙が霧散した。
「全部。思い出せたよ。」
彼の綺麗な金色を優しく撫でる。
「今まで辛かったよね。怖かったよね。」
ポタポタと金色の髪を涙が伝う。
「カケルくん。」
ぎゅっと力なくもたれる人形を抱きしめる。
「私もずっと愛してるよ。」




