ネスティ・イルズ・テンペルドの願い
『私は悪役令嬢になる、はずだったんだけど……』一万PV突破御礼投稿第二弾!
今回の主人公は、モリシャスの兄、ネスティです。
追加で裏設定なんかを盛ってみました。
よろしければお楽しみください。
やれやれ、散々な一日だったな……。
モリシャスに平民がまとわり付いていると噂に聞いた時、俺には一つの危惧があった。入学式の演説騒動だ。
モリシャスはお世辞にも性格が良いとは言えない。俺とは違い、生まれながらの公爵家令嬢だ。周りの大人は甘やかすか、腫れ物を触るように扱った。
まともに叱った事があるのは俺位かも知れない。
そんなモリシャスが貴族を特別と感じ、他を見下すのは仕方ない事だった。
それがあの大立ち回り。後で聞いて、何度も人違いじゃないかと確認したもんだ。
紛れもない事実と知って、疑ったのは平民や下級貴族によるモリシャスの洗脳、または脅迫だった。
しかし、それは思い過ごしだった。あんな小動物みたいな奴が、モリシャスをどうにか出来る訳がない。
「くっ……」
モリシャスを産んだ時に、それ以上子どもが望めなくなった公爵夫人の為に、遠縁から養子として引き取られたのが俺だ。
まだ喋れもしないモリシャスの笑顔を見て、幼いながらに「守らなきゃ!」と決心した日の事は今でも覚えている。
だからこそモリシャスには一線を引いていたように思う。実の兄じゃない、そんな引け目がずっとあったから。
それをアイツは、「目元が似てる」と言いやがった! 他人に近い遠縁の俺が、しかもあまり気に入ってないこの目つきの悪さが、モリシャスに似てると……!
「くくっ……」
ダメだ。笑いが抑えられない! あれを聞いた時の、モリシャスのぽかんとした顔! 俺の指摘に顔を真っ赤にして狼狽えるアイツ! そしてけらけらと笑うモリシャス!
……あんな顔、出来るようになったんだな。いつも見下すか睨みつけるしかしなかったモリシャスが……。
「そろそろお役御免、か……」
寂しいような気もするが、もう俺が心配しなくてもモリシャスは大丈夫だろう。俺も来年には卒業だ。良かったと喜ぶべきだな。
俺は公爵家の嫡男として、いずれ嫁を貰い、子を成し、家を守る責任がある。モリシャスやアイツも、いずれどこかに嫁いでいく。
それまでは今より少し離れた場所から、アイツらの幸せを願い、見守っていこう。
「……かっ!」
一瞬頭に浮かんだ、くだらない考えを吐き捨てる。手元に置いて守りたいなどと、それは手前勝手な妄想だ。お気に入りの玩具を取られまいとする子どもと同じじゃないか。
……もしあっちから言われたら断れる自信は無いが……。
俺は訓練用の剣を持って中庭に向かう。守る力を得る為、そして妄想を断ち切る為に。
読了ありがとうございました。
お兄様も公式に攻略対象にする力業。
あ、でも乙女ゲームだとしたら主人公はウィニーなので、あまり意味は無いかも。ただカップリングの幅は広がったので、良しとします。
次はサブ役令嬢アウグスです。ちょいシリアスです。よろしくお願い致します。