ハンス・アーム・カインドネスの戸惑い
拙作『私は悪役令嬢になる、はずだったんだけど……』が一万PVを突破しました! ありがとうございます!
読んでくださった皆様へのお礼が何か出来ないかと考えていたら、サブキャラクターのアナザーストーリーが千文字制限で八話出来上がりました。
わけがわからないよ。
第一弾はハンス王子の物語。
よろしければお楽しみください。
今日は何とも衝撃的な一日だった。
廊下で会った公爵家令嬢、モリシャス・イール・テンペルドに誘われ、平民出身のウィニー・プリティアが手作りしたという昼食を共にした。
最初は王を継ぐ者として、分け隔てなく接しなければ、という気持ちしかなかったけど……。
平民が食べる安価な肉とたかを括っていた鶏肉に、あれ程の旨味があったとは! 王宮で出される料理に勝るとも劣らない!
そう驚いた私は、ウィニーを平民と侮っていた自分に気が付いた。
何が分け隔てなく、だ! 平民に私の口に合う物が作れる訳がないと考えていたから、あれ程驚いたんじゃないか!
その恥を未然に防いでくれたのが、入学式で『学ぶ身に身分など関係ない』と叫んだ公爵家令嬢モリシャスだった。
彼女の素直な感想を聞いたからこそ、
「えぇ、実に美味しい。味付けには相当工夫をされてますね」
あの心からの感想が出てきたんだ。
そうでなければ、少なからず失礼な言葉をかけてしまっていた事だろう。
それにしてもあのモリシャスがあんな風に変わるなんて。
彼女は王家に次ぐ権力を持つ公爵家の人間。
以前父親に連れられて王宮に来た時は、貴族の悪い見本と言わんばかりの気位の高さ、傲慢さだったのに。
入学先の騒動は何かの気まぐれかと思ったが、今日話してみて、決してそうでない事が分かった。
ウィニーへの対応と私への対応、どちらにも等しく礼儀を尽くしていた。
……どちらかと言うと、ウィニーの方を大事にしているようにさえ見えた。
「それにしても……」
思い出すと笑いが込み上げてくるのを止められない。
ウィニーのあの慌てぶり。
大抵の貴族は上辺を取り繕って気持ちの悪い作り笑いを浮かべるものだから、あの素のままの反応というのは新鮮だった。
またそれを嗜めるでもなく、かと言って嘲笑う事もせず、ただウィニーが落ち着けるよう穏やかに対処するモリシャス。
「参ったな……」
料理を褒められた時のウィニーの笑顔が目の前にちらつく。
そつなく、だが温かく心を配るモリシャスの姿が忘れられない。
王位継承者として、利を求めてへつらう者との付き合いをし続けて、慣れ切ったと思っていたのに。
あの二人に触れ、そうでない関係をこんなにも渇望していた事に気付かされてしまった……。
明日になれば落ち着くだろうか。
何かに付け彼女達の姿を追うような、王位継承者にあるまじき浅ましさを見せる事にはならないだろうか。
溜息が、一人きりの寝室に降り積もっていった。
読了ありがとうございました!
恋心のような、そうでないような、微妙な感じ、いかがでしたでしょうか?
次回はツンデレお兄様、ネスティです。よろしくお願い致します。