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コミュ障ソロハンター生活  作者: ネームレス
開拓都市ヴェルト
2/7

2

 夢を見る。

 あの時の夢を見る。

 俺は一体、どうすればよかったのだろう。


 ◆


 その時は、唐突に来たともいえる。前から前兆があったともいえる。

 元々ラクはあるパーティに所属していた。ラクの弓の腕は同世代の中ではトップクラスだ。コミュニケーションは苦手であったが、数か月も共にすれば身内のようなものだし、決して仲も悪くはないと言えた。

 ただ、そう思っていたのはラクだけだったのかもしれない。

 別に、何か事件が起きたわけでない。ただ、陰口を聞いてしまっただけだ。

 仲間だと持っていた三人が、ラクの陰口を言い合っていた瞬間を見てしまっただけだ。

 顔を合わせれば何事もなかったかのように笑いかけてくれる仲間たち。ラクも自分が過剰反応してるだけだと自分に言い聞かせた。だが、そこから少しずつズレが蓄積されていく。

 些細なミス。相手の顔を真っ直ぐに見れなくなった。言葉の裏を勘ぐってしまう。

 そして、その時はきた。


「初めまして。新しくこのパーティに所属する事になりました。よろしくお願いします」


 新メンバーの募集。それも、ラクと同じポジションの、だ。

 クエストを受けるメンバーの定員は基本四人だ。だが、負担の軽減のために五人以上のパーティを組んでローテーションを組むところもあるし、巨大化して[クラン]として一つの組織となるところもある。だから、決してそこに「ラクを追い出そう」という意図があったわけではないだろう。

 ただ、ラクは安堵していた。焦りでも危機感でもなく、安堵。


 __ああ、やっと辞める理由ができた。


 こうしてラクはソロになった。

 同時に、人との関わりにに強い苦手意識を持つことになる。


 ◆


「・・・腹減った」


 夢見の悪さにも慣れたものだ。

 ここからラクの一日が始まる__のだが、そもそも帰ってきたのが朝方である。今は昼も過ぎた頃であった。

 のっそりと体を起こし、体をあくびとともにほぐしていく。

 目線の先には昨日受け取った報酬。

 一瞬、追加報酬分は依頼主に突っ返してやろうかとも思うが、そうなると、あいつに会わなければならない。

 色々考えたが、結局のところ、その日暮らしうのハンターであれば、どんな事情であれ、後ろめたい理由でもない限りもらえるものはもらうべきである。

 装備と金を持って、ラクは宿を後にした。


 ◆


 馴染みの武具屋に行く途中で片手で食べれる軽食を購入し、人ごみの中を歩いていく。

 武具屋で装備を預けたら、訓練所にでもいこうか。

 娯楽が圧倒的に不足しているこの世界では、武器に触ってるだけでも退屈を紛らわす事ができる。ついでに技術も上がれば生活の足しにもなるだろう。

 そう考えながら歩いていると、目的の武具屋へとたどり着いていた。


「いらっしゃーせー。って、ラクさんじゃないっすか」

「うす」


 出迎えてくれたのは店主の娘であった。さっぱりとした性格で強面が多いハンター相手でも物怖じしない人柄はラクにとっても好ましい。

 短く挨拶。馴染みと言うだけあってすぐに用件はわかったようだ。


「親父―。ラクさんっすよー」


 いろいろなやりとりをすっ飛ばして、店の奥で作業している店主を呼び出した。

 店の奥から声が響いた。


「こっちに通せ。手が離せん」

「うーっす。ってなわけで、ラクさん入っちゃってください。いつも通り、帰りにお金払ってってください」

「了解です」

「もー、返事短いっすよー。見てくださいこの店。暇なんすよー。リアクションくださいよー。コミュニケーションとりましょうよー」


 店の中は閑散としていた。ただ、客いないわけでなく一部の人気店を除いて大体こんなものである。そんな何度も装備の更新などするものでもなし、さらに工房は店の奥だ。たいていの客はラクのように装備のメンテを頼んでいくだけなので、店が静かなのはしょうがない。

 しかし、年頃の娘にしてみれば、それが暇なようで。


「ち、近いよリーナちゃん」

「よいではないかーよいではないかー」

「いや、ほんと、怒られるから」


 などと絡んでいると、奥の方から怒声が聞こえてきた。


「・・・ほら」

「しゃーないっすねえ。親父によろしくっす」


 そう言うとリーナは道を開ける。そこから先は勝手知ったるだ。

 特に迷うことなく進んでいく。途中、景色が変わる。そこは正に、鍛冶屋とも言うべき場所であった。数人の職人と、その職人を眼光鋭く睨んでいる、否、見守っている大柄な男。リーナの親であり、店主であり、工房長である。


「おやっさん」

「きたか」

「装備のメンテをお願いします」


 言葉の数は少ない。いつもの事だ。

 ラクは持ってきた装備を渡す。工房長は受け取った装備をその場で検分する。


「ふん。手入れさぼってんな。大方、今日持ってくる気だからってさぼっただろう」

「うぐ」

「いつも通り仕上げてやる。三日後に来い」


 ラクは若干の後ろめたさを覚えながらその場を後にしようとする。

 そこに、声がかかる。


「おい」

「は、はい?」

「お前。装備は更新しねえのか」


 __いつか、一番すごいハンターになるんだ。その時はおやっさんに装備を作ってもらうから。


 それは、過去の幻影。

 才能があった。努力をした。実力があった。

 しかし、ある時を境にその歩みは止まる事になる。


「・・・俺は、底辺でうろちょろしてるだけなんで」

「そうかい」


 もう行け、とラクは追い出されるようにその場を後にした。


「あ、お帰りっすか?」

「あ、うん。三日後に装備取りに来るよ」

「別に用事無くても遊びに来ていいんすよ。前みたいに」

「いや、前は」

「ま、いいっすけどね。足を運びたくなったら来てくださいっす」


 代金を払い、出口へと向かう。離れていく背へ向かいリーナは軽く応えた。


「リーナちゃん」

「なんすかー」

「いつもありがとね」

「いいってことっす」


 いつも明るく、変わらない態度で接するリーナ彼女の存在に、ラクは心がすくわれる思いだった。


 ◆


「さて、と」


 ラクは予定通り訓練所へと向かった。

 昔は少しでも時間を確保しようと駆け足で向かっていた。今はもうそんな熱も残っていないが。


「ししょーう!」


 訓練所には昔からお世話になった人もいた。今は時間もあるし顔を見せに行ってもいいかもしれない。


「あれー? 気付いてませんかー? 無視しないで下さいよー」


 目の前にひらひらと揺れるナニカを意識的に視界から排除しながらラクは手土産に何か持って行った方がいいかとも考える。そういえば最近クエストに出ずっぱりだった。少しあいさつ回りでもして顔を見せた方がいいかもしれない。


「ちょっと師匠。これ以上無視するならこっちにも考えがありますよ」


 ラクは人付き合いは苦手だが、交友関係は広い。誰かに頼らなければ生きてこられなかったからだ。装備が戻ってくるまでは時間もある。そうしよう。ラクは今後の予定を決めたところだった。

 突如、視界が塞がれる。


「わ、わ、ぷ」


 思わずいった形で体は後ろへと倒れていく。ヤバい、と思ったところで後頭部への衝撃を覚悟する。

 が、いつまでも衝撃は来ない。どころか、どこかやわらかい物に触れている感覚。


「あー、大胆ですねー。こんな人目の多い場所で年下の女の子に膝枕なんて」


 どこか人を小ばかにするような、しかし聞いてるだけで多くの男を魅了するような甘い声が、至近距離で投げかけられる。


「これに懲りたら、もう人を無視したらダメですよ? しーしょう」


 もし天使がいたら、こんな感じだろうか。気付いたら頭を撫でられていて、その心地よさに身をゆだねてしまいそうになって__


 正気に戻る。


「ば、お、ま、なっ、にやってんの!?」

「あ、起きた」


 ラクは知っている。目の前の美少女は天使のような外見に小悪魔のような内面を秘めている事を。

 付き合いは短い。しかし、どういうわけか[前回のクエスト]で異様に気に入られてしまったのだ。

 内容はただの技術指南。ギルドからの依頼で、駆け出しのハンターとベテランのハンターを繋げ、ハンター同士の交流と駆け出しハンターたち全体の戦力の向上を目的としたクエストであり、ラクも仕事ぶりが認められお鉢が回ってきたのだ。正直断りたかったが、ギルド関係者にいる恩人から頼まれたこともあって、仕方なく受けた。そこで、出あったのだ。

 跳ね起きるようにして立ち上がり、改めて地面に座り込んだままの少女を見る。何が楽しいのか、ラクの事を師匠と仰ぎ、数日間だけの付き合いではあるが、街中では執拗なほどラクに触れてくる。正直、周りの視線が痛いから接触はしたくない相手であった。

 そこでふと思う。そういえばここ、どこだっけ。


「っっっ」


 音にならない悲鳴。周囲から人の目が突き刺さる。

 もはや逃げるようにその場を後にする。


「あ、待ってくださいよー」

「来んなよ! なんで来るの!?」

「弟子が師匠の後を追いかけて何の問題が?」

「弟子にした覚えなんかないからな!」


 もはや恐怖に近い感情を抱きながらその少女から逃げるが、少女もまた離されないようについてくる。

 余りにも目立つ二人の追いかけっこはほんの数日間でもはやここら辺では名物になっていた。

 周囲から漏れる笑い声。呆れたような吐息。どちらかを応援する声。

 そんな周囲の騒ぎにも気付かず、ラクは声を上げた。


「アイ! いい加減あきらめろ!」

「数日間じゃいい加減じゃありませんよー」

「教える事はないって言ったろ!」

「それでも諦めませんよ」


「私は、一番凄いハンターになりたいんですから!」

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