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コミュ障ソロハンター生活  作者: ネームレス
開拓都市ヴェルト
1/7

 風が草木を揺らしていく。


 ◆


 周りはうっそうと生い茂った草木たち。

 そこらじゅうで生命の音が鳴る。

 生き物たちが、自らの存在を主張するように。


「・・・」


 その大自然の中に身を隠すように、姿勢を低く、息をひそめる生命が一つ。

 名を[ラク]という。

 手には身の丈ほどある弓。全身は何か生き物の皮で作られたような装備で身を包んでいた。

 視界の先には巨大な草食獣の群れ。小さな(それでも人間でいうなら大の大人ほどの大きさはあるが)草食獣が、親であろう大型の草食獣に寄り添い、美味しそうに雑草を食べている。

 ラクはおもむろに弓を構えた。矢をたがえ、引き絞る。

 それは今までに何度もやってきた動作。構え、引き絞り、狙い、撃つ。同じことを同じようにやる。だというのに、狙いを付けるこの時だけはいつまでも慣れる気がしない。

 深く息を吸い、吐く。頭の片隅に残る不安を棚に上げ__射る。

 バシュン、と空気を切り裂く音。


 __ギャァオ


 草食獣__モンスターの悲鳴。

 それが引き金になった。

 新たに周囲から三人の陰。


「囲め囲め! 一体も逃がすな!」

「油断すんなよ! 踏まれたら死ぬぞ!」

「ここまで来てそんなドジ踏むかよ!」


 その人影は全員がバラバラの装備を身につけ、武器もまた大剣、ハンマー、槍と統一性のない物であったにもかかわらず、互いの動きを阻害する事もなく慣れた連携でモンスターの群れに突撃していく。

 クエスト{草食獣の肉の納品}

 ラクを含めた4人の[ハンター]が受けた仕事であり、目の前のモンスターこそがそのターゲットであり、そして俺以外の三人は固定のパーティでもあった。

 俺の役割は初撃でモンスターの子どもを狙うこと。群れが子どもの悲鳴で、混乱したところを三人が叩き、俺がサポート。

 正直言って、楽な仕事であった。


 そのはずだった。


 戦闘が佳境に入り、俺もまた援護の為に弓に矢をたがえたところで、[ソレ]はきた。


「げっ」


 最初に気付いたのは俺だった。周囲の索敵もポジション的に俺の仕事でもあったので当然と言えば当然なのだが、そいつが来たのはあまりにも突然だった。

 迷う余地なし。大きく息を吸い、前で戦う三人に叫ぶ。


「ドラゴンが来たぞー!!!」

「はぁ!?」

「まじかー・・・」

「撤収だ! 急げ!」


 刈り取った命をそのままにすることを悔やみつつ、俺もまた武器を折りたたみ背中へと回す。あれは無理だ。絶対強者の代名詞。この世界の半分近くが未開拓のままで放置されている要因であり、人間と言う弱者をいともたやすく屠るバケモノ。

[ドラゴン]


「GYAOOOOOOO!!!」


 はるか上空からでありながら、鼓膜を破らんほどの声量の咆哮。


「逃げろ逃げろ逃げろ」

「ブレス、来るぞ!」


 一目散に逃げる俺たち。一瞬、振り返り後ろを振り向く。

 目が合った。

 嘲るような表情。

 気のせいだろう。しかし、その口からはかすかに火がこぼれていた。

 炎の息吹ブレス

 あらゆるものを焼却し、滅却し、塵へと返すそれを、ドラゴンは逃げる俺たちへと向けて、放つ。


「くそったれーーーー!!!」


 背中に迫る劫火。ガチャガチャと音を鳴らし逃げるハンター。そして、その程度は日常茶飯事だと言わんばかりに揺るがない大自然。

 世界の半分は未だ秘境。

 生きるためには命をかけるしかないこの世界で、今日もまた俺はハンターなどというくそったれな肩書を背負っている。


 ◆


 ガタガタと揺れる荷台。四人の男は所狭しとぎゅうぎゅう詰めになりながら身を寄せ合う。

 ふいに、一人の男が口を開く。その声は明るかった。


「いやー、ドラゴンが出た時は死ぬかと思ったが、依頼達成だな!」


 結局あの後、命からがら逃げだしたラクたちは、少し離れた場所に運よく別の群れを発見。依頼に必要なだけの肉の確保ができたのだった。三人はそのまま解体作業に移り、ラクは安全な場所で待機してもらっていた運び屋を呼うに行き、そのまま四人五体無事の状態で帰路についていた。


「気を抜くなよ。道中も絶対安全ってわけじゃないんだから」

「固いこと言うなよ。大体お前はいつも__」

「お前は毎度大雑把なんだ__」


 ラクの対面の二人がそのまま言い合いになるが、険悪な感じはしない。いつもの事なのだろう。


「あー、悪いな。いつもなんだ」


 と、隣にいたメンバーが話しかけてきてくれた。言葉に気づかいがとれる。


「いや。まあ。はい」

「なんじゃそりゃ」

「・・・すんません」

「なぜ謝る」


 ラクは困ったように顔を歪める。元より、話すのは苦手である。ましてや、相手はほぼ知らない相手であったし、命を預けた仲間であってもラクが態度を崩すだけの理由にはならない。

 相手もまた、なんとなく気まずい雰囲気を感じてか、それ以上話す事は控えた。が、対面のお調子者はそうでもないらしい。


「なあ。帰ったら一緒に飯食おうぜ」

「えっ」

「いーじゃんかよー。俺らドラゴンに合って死ぬとこだったんだぜ。祝勝会ならぬ祝生会? なんでもいいからのーもーおーぜー」

「あ、えと」

「無視していい。何かにつけて騒ぎたいだけだこいつは。装備のメンテもあるのに、いちいち付き合ってられるか。一人で飲め一人で」

「寂しいじゃんかよぉ!」

「おいおい。大の大人がうすら寒い事大声で言うなよ」


 いつの間にかラクを抜きにして騒ぎ始める三人。しかし、居心地は悪くなかった。輪の外から眺めるその光景をラクは薄い笑みを浮かべながら眺めていた。


 ◆


 野宿を一回挟み、荷台で揺れる事しばらく。ようやく地平の向こう側に見覚えのある城壁が現れる。ラクたちの活動拠点であり、人類が誇る唯一にして最大の[都市]。

 それこそが、[開拓都市・ヴェルト]である。

 モンスターの脅威から守るために四方を囲む城壁と、取り付けられた砲台。都市の中には人々の活気が満ちており、中央には巨大な塔のような建物がそびえ立っていた。

 ラクたちはそのまま城壁の門の前まで移動し、パーティリーダーが荷台から降り門番へと対応する。今回のクエストの依頼書と入場許可証など提出し、暫く。門がゆっくりと開かれた。

 そのまま馬車は動き出し、門をくぐっていく。


「おかえりなさいませ」


 通り過ぎる瞬間、そう門番が帰ってきた者たちに声をかけた。

 ようやくラクたちは肩の力を抜いた。


 その足でそのまま向かうのは都市の中央である塔である。そこは、ラクたちハンターがクエストを受けるための寄り合い、通称ギルドと呼ばれる施設でもあり、同時に塔の上層はそのまま役所としての機能もあった。

 門をくぐってすぐは露店などが広がり、人々の喧騒が響き渡る。中央に行くほど、宿屋や武具屋などといったハンターであるラクたちも活用するような施設が存在し、中央部分は人々の営みも見える住宅街となってた。

 大通りを通り、ギルドの入口へとついた。そこでようやく荷台から降り、固まった体をほぐしていく。


「そんじゃあ運び屋さんらは今日の依頼物を納品しといてください。おい、付き添い頼む」

「りょーかい。損じゃ行きましょ」

「俺たちは完了報告にいこう」

「おーっす」

「はい」


 お調子者のメンバーは運び屋を先導し別の入口へと向かった。ラクたち三人はそのまま正面の入口へと入っていく。

 ギルドの中は多くの人間が入り混じっていた。ラクたちのようなハンターもいれば、身ぎれいな格好をした役人。併設している食堂の制服を着た店員。どこか風変わりな格好をした人間もいる。とどのつまり、見飽きたほどいつもの光景だった。

 ギルドの受付へと向かうとそこには大量の人が並んでいる。これからクエストを受ける者、俺たちと同じように、クエストを終えた者。受付の人間は十数人以上の人が総動員で列をさばいていた。

 待つ事数十分。お調子者も合流したころにようやく受付へとたどり着く。とはいえ、やる事と言えば達成報告をして、ギルド側が内容を確認。報酬もすぐに支払われるわけでないので受け取り方法を分配にして個々人で受け取るか代表者が一括で受け取るかを選んで後は解散という流れである。依頼を適当に誤魔化して報酬だけかすめ取るような犯罪をなくすための段取りなんだろうが、その日暮らしのハンターとしてはやきもきする。


「あ、そちらはもしかしてラクさんですか?」

「へ? あ、はい」

「こちら、前回のクエストの報酬です。内容の確認をお願いします」


 完全に気を抜いていたラクは受付に突然声をかけられてびくりとする。渡された依頼書と報酬を確認する。


「・・・なんか多くないですか?」

「追加報酬だそうです。」


 依頼書の下の備考欄に追加報酬理由なども書かれていた。それを読んでラクは少し顔をしかめる。


「すいません。不備がなけれ後ろの方がお待ちですので」

「あ、すんません」


 反射的に体をそらすと大柄なハンターがそのままラクの前へと身を滑り込ませた。ラクは報酬を持ったまま、いつの間にか分かれていた今回のメンバーの元へ向かう。


「お待たせしました」

「いいよいいよ。さてと、そんじゃとりあえず」

「今回もお疲れー!」

「うるさい」


 ひと段落、と言う形でメンバーからも笑みがこぼれていた。


「いやー、今回は助っ人に呼んで良かったよ」

「ほんとほんと。やっぱ一人は遠距離手段持ってるやつがいたほうがいいよなぁ」

「そんなことは」


 素直に褒められると恐縮してしまう。ラクは褒められるのが苦手だった。


「なあ、このまま正式にパーティにはいらねえか?」


 そう声をかけられると、びくりと体を震わせた。


「・・・えーと」

「おい、困らせんなバカ」

「すんませんうちのバカが」

「酷くねえ!?」

「あはは。すんません。今はソロが楽なので」


 そういって、その後も言葉を交わし彼らとは別れた。ご飯に誘われもしたが、それも断る。

 人と関わるのは、楽しい。しかし、煩わしくもあり、一人の時間も恋しくなるものだ。少なくともラクはそうであったし、[あのこと]がってからは、特に顕著になった。

 そのままラクはギルドを出る。人々の隙間を縫うように歩き、自分が寝泊まりしている宿屋へと足を運ぶ。


 __明日はどうしようか。


 頭の片隅で次の予定を組み立てる。装備は自分でも手入れしてるとはいえ、一度そろそろ点検に出した方がいいかもしれない。最近はクエストに連続で出ていたこともあるし、一度ゆっくり休もうか。

 具体的な中身こそはないものの、なんとなくで今後の予定を組み立てていく。その頃には宿はもう目の前だ。

 扉をくぐる。受付に座る男性はちらりとこちらを見ると、すぐに視線を手元に戻す。いつもの事だし、ラクからしてもそちらの方が気楽だ。そのまま自分に割り当てられた部屋へと入る。ハンターが生活しやすいように広めに作られた部屋は、長年暮らしてきたせいか、私物化と言っても差し支えない程に汚かった。雑多とした部屋の中を装備を脱ぎ捨てながら進み、勢いのままにベッドに倒れこむ。そのまま、眠気とともに目を閉じた。


 ラクの一日は、こうして終わる。


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