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episode:7,右側

おはこんばん日わ。アネモネです。

さすがに一言は書こうと反省しました。

ついでに感想もどうか……

川をなぞるように吹く風に、気がついたら俺は、手すりに寄りかかるようにし、風へと当たっていた。


この巨大な役場の裏にある郵便局の目の前には大通りが通っているらしく、そこには日々、朝から夜遅くまで出店があるらしい。


そんな良い意味で騒がしい空間がこの反対にあるとするのならば、役場の目の前にあるのは、この街を代表する、大きく、よく澄んだ川だった。こっちはいい意味で静かだった。


……がしかし、こんな川の目の前に役場を置くなんて、正直言うと設計ミスとしか言いようがない。なんて言ったって、この役場の入口から川までの距離は10メートルのないだろう。この街を代表する施設が、こんな所に在っていいのか?


……と最初こそは考えていたものの、この風に当たり、考え事をしているといやはや、案外過ごしやすい空間だと訂正するしかない。


「にしったって、大変な事になったな………」


あの検査室での一件の後、エルザさんは彼女、マリーを迎えに裏まで行っている。


まず第一、俺はその案を聞いた途端、断ろうと考えた。


いくら俺の能力が凄いと言っても、それは俺の力ではなく、恐らくこの体の本当の持ち主、椛のモノだろう。そう考えたのと、やはり、俺の脳裏に彼女の顔がチラついた事が主な理由だった。


しかし、俺が断る前に口を挟んだ人がいた。エルザさんだ。


「この子は国の外から来た子です。きっと親もいるはずです。そんな子を、私の判断だけで好き勝手扱う訳には行きません。」


そう言って彼女は、職員からの誘いを断ったのだ。


その時の横顔を、俺は見ることが出来なかった。


「………………」


裏側の大通りからだろうか、反響する声が聞こえる。


この風に当たっていると、何だか気が抜けていく感じがする。


俺が元いた某F県のとある小さな市は、都会とも呼べず田舎とも呼べない。中途半端に成長した市だった。そのせいか、あの街を通る川は一つもなく、俺が川を初めて見たのは、当時仲良かった部活の先輩に都会に連れ出された時いらい、一度も見たことがない。


その時の川は、やはり都会の中に在るからなのか、酷く濁っていた。


けれど、今俺が見下ろす川は、濁るどころかゴミ一つ浮いていない。真上に昇った太陽の光によって、流れる水面が綺麗に乱反射をしている。


「…………綺麗だ」


そう、綺麗なのだ。この異世界に迷い込んでから、俺はその光景にただただ心から癒されていくのを感じている。


都会に憧れを抱いていないのかと聞かれると嘘になる。けれどもそんなモノより、今こうして目に映るこの光景の方が、よっぽど価値がある。


……けれどもそう思えるのは、未だに俺が、『観光客』気分でいるのが主な原因だろう。


帰る手段がある。そう俺はまだ諦めていないから、こんな思考になるのだ。


確かにこの場所は素敵だ。けれどもそれ以前に、俺は元いたあの場所が恋しく感じているのだ。


いつも笑いあっていたアイツらにも。


そして椛、アイツにも。


『俺はこの世界から帰る事が出来ない』想像するだけでも手先が震えてくる。


……だったら決まっている。


今の俺の目標は、元の世界に帰る方法を見つけ出す。


それが、俺が今するべき事なのだ。


「………それにしても、女子のこの髪は鬱陶しいな……」


先程から風に靡かれ、ひと方向に暴れている、マリーが横に結んだ髪を左の人差し指で絡め取る。


──瞬間だった。


「きゃぁぁあ!!窃盗よぉ!!」


突然、背後から女性の声がこだましながら聞こえてきた。


突然の出来事に、俺は反射的に振り返る。勿論背後にあるのは、この街を代表する役場だ。


けれども、その奥の大通りから、次第と大勢の声が大きくなっている。


「なんだ?窃盗かよ」


通り過ぎたローブの人種と思われる人がそう呟く。


「早く警備官を呼ぼうぜ」


通り過ぎた犬の顔をした亜人種がそう呟く。


周りを歩いていた人達も騒動の中心に集まろうとしている。


……俺はこの状況、どうする事が最善なんだ?


俺も騒動の中心に向かうのか、それともこの場から離れる場所か、警備官なる人達を呼んでくるべきなのか、それとも………


「いや何考えてんだよ、俺……」


犯人を追う?そんなドラマみたいな事が俺に出来るわけない。


元々俺は、面倒事に巻き込まれたくがない為、これまでの学校の行事では一度も先頭を立つような役をした事がない。


俺には無関係な出来事。そう、俺には無関係なのだ。それに自分から首を突っ込もうとするなんて、どうかしている。



『またそうやって逃げるの?』



声がした。右側から声がした。


しかも、良く聞き慣れた、アイツの声が。


「えっ?」


思わず横を見る。そこには─


──真っ黒があった。


不自然な程に真っ黒な、地面から浮いた円球が、そこにあった。


冷や汗が流れる。


初めて見る、異物としか言いようがないそれを、俺は息を忘れたかのように、ただただ眺めていた。


……なんだこれは。ひとめで分かる。これはこの世に存在してはいけない異物だ。見ているだけで吐き気がする。視界が収縮していく。足下が不安定に感じる。本能が全力で逃げろと伝えている。


それでも俺は踵を返す事をしなかった。それを見るのを辞めなかった。辞められなかった。


だってそれは、それから発せられた声は、紛れもなく………


「…………椛……なのか……?」


震える喉から、何とかその言葉だけを絞り出す。


そう言いながら、遂に俺も狂ったなと、独り思う。


こんな世界に来て、人間じゃない人達を見て、挙句の果てには魔法ときた。これが夢だったら、きっと俺は疲れ過ぎているのだ。


そうだ、これは夢だ。全部夢なんだ。目が覚めたら全てが夢て、あの見慣れた天井になっているんだ。だったら爆破オチでも何でもいいから、この夢を終わらしてくれ。


『残念、この世界は夢じゃないわ。立派な存在概念を持った、もう1つの立派な銀河系だわ』


目の前の球体は、俺の考えている事がわかったのか、アイツの声で喋り始めた。


『貴方がそう恐れるのは当たり前の事だわ。今、私と貴方は違う次元どうしにいるのも。それをこの世界の執行者を通してこうやって会話しているのも……これでも信じて貰えないようね』


「お前……椛なのか……?」


『ええ、正真正銘の青山 椛よ。貴方の大親友の』


「本当に椛なら……」


『私なら?』


「………あの秋の事を覚えているか?」


そう聞くと、円球の向こう側から、クスッと、困ったような笑い声が聞こえてきた。


『えぇ、覚えてるわ………中2のあの秋、私が貴方に告白して…………それを断った、あの日のことでしょ?』


「…………そうだ」


そうだ、あの日俺は、アイツの告白を断ったのだ。そして俺からお願いした。俺の人生での、唯一無二の親友になってくれ。そう頭を下げた。その時のアイツの顔は見ていないが、恐らく……


『この事は私たち二人だけの秘密。だから他に知る人はいない』


「ああ………本当に椛、お前なんだよな?」


返って来た返事は、それを肯定する、短い言葉だった。


「椛、だったら教えてくれ……ここは何処なんだ?俺はなんで椛の姿になっているんだ?俺は………元いた場所に帰れるのか…………?」


いつの間にか、吐き気も震えも収まっていた。


アイツは何かこの事態について知っているのかもしれない。そう考えると、これまで胸の奥に留めていた言葉を思いきり吐き出す。


すると球体の向こうのアイツは、クスッと、先程とは違う、アイツ特有の優しさが入った笑い声を零した。


『出来るのなら全て話したいものだけれど……そうとはいかないの……もう時間になる』


「時間ってなんだよ……」


『この球体に接続出来る時間。私がこうして貴方と喋れる時間がもう終わる。だから最後に、これだけ……』


そう間を開けると、アイツは真剣な口調で話始めた。


『全てを知りたければ、この国で一番空に近い場所を目指して。そこに向かえば私ともう一度、こうして会話をする事が出来るわ。』


「一番……空に近い場所……?」


言葉を反復するように呟き、覚える。


『そう、そこを目指して……』


後それと、と彼女は急に口調を戻し、少しおどけるように会話を再開した。


『貴方の今の姿、私のコピー品だから。転生する時に、そうするようにある人に頼んだの。勿論、潜在能力とかも使えるように鍵とドアは用意したわ。後は貴方がその体を上手く使いこなすだけよ』


「えっ…?」


コピー品?なんの事か分からない。更に謎は深まるばかりだ。


けれども球体は、俺の意図に反するように、次第に小さくなっていく。俺はそれが、彼女が次第に遠くに行ってしまうと感じた。


「っ!待って、椛!」


呼び止める。しかし球体はどんどん小さくなる。


けれど、最後に球体は俺にその声を聞かせてくれた。


『それはそれとして、貴方、この世界でせっかく出来た友達のピンチに何やってんのよ。仕方ないから、今回は私の方からドアを開けて上げるわ。だから……』


……少しはカッコいい所見せなさいよ。


そう言い終わると、球体は完璧にこの空間から消滅していた。


それと同時に、これまで止まっていたかのように感じた世界も動き出した。次第に音も感じ始める。


俺はその場に突っ立ったまま、強く拳を握る。


……アイツは言った。友達がピンチだと。けれど、俺はこの世界に来てから、まだ友達の一人も作っていない。


アイツにとって、どこからどこまでが友達として成り立つのかは知らないが、この世界に来た俺が出会った、一番有力な人物は一人しかいない。


「……マリーか……!」


アイツは危険と言っていた。ならばマリーの身に何かが迫っている事になる。


途端に心臓の鼓動が早くなる。


……アイツはカッコいい所を見せろと言った。だったら見せてやるよ。


「……だからさっさと力を貸せ!椛っ!!」


どこで誰かが微笑んだかのように感じた。


瞬間、それを合図に世界が変わった。


いや、恐らく正確には『俺が見ている世界』が変わったのだ。


息を着く暇なく変わってしまった世界は……全ての物体の『線』が『白』へと変わり、その『線』の中にある筈の『色』が全て『黒』へと変わっていた。


あまりにも簡略化された世界。


突然の変化に、思わず喉から変な声が漏れるが、気にしている場合ではない。


恐らくこれがアイツが言っていた『潜在能力』というモノだろう。俺の中に三つある内の、一つ。


……しかし、こんな見え方になってから、急に目が乾き始める。恐らくこの能力が影響だろう。


「早くマリーを探さないと……!」


右へ左へと周りを確認する。しかしこの見え方は、どうも奥行が感じ取れない。だからなのか、手掛かりとなるモノが何も見つからない。


すると、役場の右側、ずっと奥へと行った空間の先、何やら一つだけ色が違うモノがあった。


否、それはただ色が違うだけではなかった。


それは人型のシルエットで、この真っ黒な世界の中、様々な色に変わっている。


あまりにも『探している人はここですよ』と言わんばかりに目立つその存在は、もう誰がなんと言おうと、俺が今探している存在だろう。


「そこか……マリー!」


限界に感じていた目を強く瞑る。次に目を開いていたら、そこには色のある、元の世界に戻っていた。


これでは彼女の存在を逐一確認は出来ないが、それでも一度足跡は掴んでいる。これなら後は走りながらでも探せるだろう。


そう思い立った俺は、彼女の方へ急ぐ為、レンガで出来た道を強く踏み、その一歩を前へと進めた。


episode:7,END

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