episode:6,マリー
ウオオオオアアアア( 'ω')/アアアアアッッッッ!!!!!
私の存在は昔から忌み嫌われるモノだった。
背中の小さな翼がその証拠だ。
私は元々、この国の首都から離れた、小さな村の辺境に住んでいた。
母親は人種だった。
父親は亜人種だった。しかも竜族の血を引いていた。
古来より、人種と亜人種が交わるのは禁忌とされてきた。
どうやって私の親達が知り合い、私を産むまでに至ったのか、それを確認するすべはもうない。
私の親は殺された。
政府の人によって殺された。
あの二人を忌避せず、向かい入れた村の人達も、全員串刺しにされた。
男も、女も、老人も、子供も。
全員殺された。殺されてしまった。
今の王様の一つ前の代の人が、直々に兵を連れて。
私だって殺されかけた。
私の背中には、今も尚その時に切りつけられた醜い傷跡が残っている。
目の前で殺された。
二人とも、全身に槍を刺され、苦しみながら死んだ。
あの頃がもう戻って来ない事を悟った。
あの春の日、家族皆で草原へ行った、あの思い出ももう戻って来ない。
憎んだ。
全てを憎んだ。
涙が留めなく溢れてきた。
口から血が滲み出るくらい、目の前の現状を憎んだ。
なんで私の家族は殺された。
なんで村の人達は殺された。
なんでお母さんは殺された。
なんでお父さんは殺された。
なんで。
なんで。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんで──!!
頭が、ぷつんと音を立てた。
次に私が気がついたら、私は真っ白い空間にいた。
鼻を奥を突くような刺激がある匂い。
どうやら私は助かったらしい。
私はお医者様と呼ばれる人に説明された。
君は、約50年眠ってたんだと。
50年。
人種にとっては、人生の半分以上の時間らしいが、竜族にとっては、幼子が立派な子供へと成長する時間らしい。
私にはどうやら、色濃く竜族の血が残っているらしい。
お医者様が言ってくれた。君のご両親を殺したあの王様は今はいないと。
今から10年前に反乱が起き、今の新しい王様に変わったんだと。
優しい王様に変わったんだと。
亜人種に対する差別は、とうの昔に無くなったらしい。
今では人種と亜人種での交際は、忌み嫌われるモノでは無くなったらしい。
そう聞かされた。
何とも思わなかった。
だからどうした。
それで私の親は帰ってくるのか。
あの頃が戻ってくるのか。
いくら王が変わろうと、いくら法が変わろうと、絶対戻ろないモノがある。
私の場合、失ったモノが私の全てだった。
やっぱり、全てが憎い───
あれから何度かの春を、病院の施設で過ごした。
病院の人達は、私にいつも優しく接してくれた。
その気遣いにはとても感謝している。
けれども私は、自分からその優しさを跳ね除けた。
どうしても気持ち悪かったからだ。
あの人達は、私の事をどう見てるんだろうか。
どうしても信用出来なかった。
いつしか、私は高台にある大きな教会に流れた着いた。
そこの子供達は全員何らかの事情があり、集まってきたらしい。
黒色の肌をした、金髪のお姉さんは、私を『家族』と呼んでくれた。
最初、私は差し出された手を跳ね除けた。
けれども、その人は私に何度も手を差し伸べてくれた。
何度も、何度も、何度も。
いつしか、私はその手を握っていた。
そこで私は、『家族』の形を再確認した。
私は泣いていたと思う。
それが何の涙なのか、今の私にも分からない。
「………………………やった………!」
封を開け、中にある紙に書かれてある内容を読んだ時、気がついたらそう呟いていた。
今はちょうど昼所。
大通りを歩く人達の顔は輝いており、誰もが幸せの中にいると、見ている方も感じてしまう。
大通りにある公共の椅子に座った私は、先程郵便局から直々に回収した、私宛の手紙を何度も読み返していた。
「これで……これでシンセルス魔術学園へ行ける…………!」
声を押し殺すが、体に溜まったエネルギーをどうしても外に出す為、子供らしく、足をバタバタとさせながら、目の前の紙に頭を沈みこませる。
近くを通る人は、私のその反応に驚いたのか、視線を向けているが、今はそんな事はどうでもいい。
私が今握っているこの紙、それはこの国が私の価値を見出した証明書、シンセルス魔術学園への入学許可書だった。
どんな宝石よりも価値のあるそれに、私は自然と出た涙を落とした。
長年の夢だった、シンセルスへの入学許可書。これで私は来年のこの春、シンセルスの門の前に立つ権利を得た事になる。
……最高の気分だ。やっと神様が私の願いを聞いてくれたのだ。
何とも言えない高揚感。これから先の未来を想像すると喉の奥から変な声が出そうになる。
しかし私の夢はこれで終わったわけではない。むしろ私は、やっと入口へ立ったのだ。
……そうだ。ここからだ、ここからが私の戦いだ。
心の奥に早くも次の決意を込める。
充血しているであろう目を擦り、鼻をすする。
「さて……だったら早くシスターの所へ……」
あの二人の所へ早く行って、シスターにこれを見せよう。恐らく彼女は一番喜んでくれるだろう……今思い出すと、彼女には沢山心配をかけている。やっとこれで親孝行が出来る。
そう思い立ち、座っていた椅子から立ち上がる。
──その時だった。
「きゃぁぁあ!!窃盗よぉ!!」
どこからか、そんな叫び声が大通りを通り抜けた。
なんだ?盗みか?警備官はまだかなのか?………ヤジが直ぐに声の方へと集まり始める。
なにかあったろだろうか……そう考えている時だった。不意に視界に入ってきた人物がいた。
その男は、目の前に出来始めた人集りから焦るように出てきた。かなり年期が入ったローブを頭まで覆い被せるように羽織っている。覗かせる顔には、男性特有の無精髭が生えており、そしてその腕には、何かを抱えるているようにも見える。
横を通り過ぎる瞬間、私は『目』を見開いた。
……やっぱり、そういうことか。
「……追いかけないと」
無意識に出たその言葉は私の耳に届く事はなく、気がついたら、私の体はその男を追いかけるべく、動いていた。
episode:6,END
\( 'ω')/ヒィヤッハァァァァァァァア!!!