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episode:11,握った右手

おはこんばんにちわ。アネモネです。

ちょうどこれで一区切り着いたので、微調整へと入りたいと思います。

そのうち設定資料集でも書こうかと思います。

「………ありがとうね、色々と」


やっと泣き止んだ彼女はそう言った。


泣いた事によって腫れた目は、けれども確かに迷いはなかったように感じる。


「……貴方の言葉に救われたよ」


まだ鼻を啜りながら言う彼女。けれども、その顔は先程とは違い、雲一つない笑顔を浮かべている。


「そう言って貰えると幸いだよ」


俺も笑みを浮かべる。


……安心した。仮にも先程まで『大変』と表せない程の出来事に巻き込まれていた彼女なのだ。


本来ならもっと喚くなり叫ぶなりしてもおかしくない。けど、今の彼女の笑顔は本物だ。その確信が何処から来るモノなのか分からないが、それでも、そうと言いきれる程の裏付けが、今の彼女にはある。


それはそうと、と話を切り出す彼女。


「あの時、なんであんなに早く私を見つけられたの?」


突然の話題に喉が詰まる。


『君がピンチだと思ったから、君を感じながらここまで来た。』なんて洒落てもない事を言うつもりは毛頭ないが、それでも、本当の事を言うべきか迷う。


あの時、俺は『椛と名乗る物体』に、マリーが危険だと言われて初めて行動に動いたのだ。それに、マリーをあんなに早い段階で見つけられたのは、恐らく俺一人の力じゃない。あの時、あの物体は力を貸してやると言っていた。だからあんな摩訶不思議な世界を見る事が出来て、マリーを見つける事が出来たのだ。


いくら魔法やら亜人やらがいる世界でも、こんな話が通じるとは思えない。いや案外、そんな世界だからこそこの話が通じてしまう事があるかも知れないが、それでもこの事は黙っておく事に……


「嘘をつこうとしても無駄よ」


突然、そんな言葉が彼女から聞こえてきた。


それだけじゃない。今の彼女の目は、先程までの透き通るような碧色から、今では何もかもを呑み込んでしまいそうな、紅色へと変わっている。


思わず息を飲んでしまう。


「私の眼はね、この目で見た人の真実を見る事が出来るの。その時に目の色が変わるのが証拠」


「目の色が変わる……って事は……」


「そう、今貴方の事を見ているわ。私の目じゃ考えている事は詳しくは分からないけど、今の貴方には『嘘をついてる』って出ているわ」


「んな……!」


……しまった。そんな能力が彼女にあるなんて、全く知らなかった……まあそりゃ今日会ったばかりの人だから、仕方ないと言えば仕方ないけど。


嘘がバレる時特有の、何とも言い難い冷や汗が額から流れる。何か言おうと考えるが、遂に何にも思い浮かばなかった。


「……まあ、初めて見た時にも貴方の事は見ていたけど……今改めて聞くわ」


そう言うと、彼女は1歩、その間を縮めて来た。


「モミジ、貴方は何者なの?」


「何者って…………」


……勿論、俺は俺の他ならない。けれども彼女が知りたいのはこんな答えじゃない事は重々承知している。


今から、今日会ったばかりの彼女に、俺がこれまで体験した事の数々を言ってしまっていいのだろうか。


事故の事、目が覚めたらこんな場所にいた事、体が女しかも俺の親友のになっていた事、何とか能力の事、あの物体の事……



下手に嘘を混ぜると直ぐにバレるだろう。そんな事なら、今から踵を返して全力で逃げる、そんな手もあるにはある。


けれど、俺の目の前に立つ彼女を見ていると、そんな気も起きなかった。


何故だが分からないが、俺の瞳に映る彼女の目には、形容し難いモノを感じた。


「……周りの人にはあまり言うなよ」


「言わない。これは約束してあげるわ。だから教えて……」


……貴方の『真実』を



「……つまり貴方は、私達が知らない世界から来た、別世界の人物だと……?」


「そう、しかも元は健康良児な男の子」


あの時、実にたっぷり30秒程脳内会議をした後、結局俺は、彼女に全てを教える事にした。


嘘をついても結局バレるのだ。無駄な足掻きはするべきではないと思ったし、こういう子は恐らく、と言うか確実に『全てを知るまで追ってくる子』だと察した俺は、仕方なく全てを話す事にしたのだ。


……全く、人生何が起きるか本当に分からないもんだな。


「……別に嘘をついてる感じじゃなさそうだし……」


「……だから全部話したって」


「ちょっと待って、今見てみる」


「俺はどんだけ信頼されてないんだ?」


「そりゃ今日会ったばかりの人だのも。しかもそんな奇想天外な事態に会った人だのも。疑わないわけないわ」


……なんかこう、心にグサッと刺さるな……


「それにしても異世界ときたはね……これはどう考えるべきなのかしら」


首を傾げながら考える彼女。やはり情報量が多過ぎたのでは?


「けど、似たような話なら、教会にある本で読んだ事があるわ」


「えっマジで?」


思わぬ言葉に、耳を疑ってしまう。


……いや待てよ?現に俺はこうして異世界にいるのだ。だったら俺と同じような体験をした人だって二人や三人程度じゃない筈だ。


「確か………………その時の本には、『別の次元から召喚されし勇者が、この国を救ってくださった』と書かれていた筈よ。勿論『この国』って言うのは今私達がいるこの国じゃなくて、全く別の国、中東に属する国の事よ」


「別の次元……」


……どう考えるべきだろう。俺の母国で流行っていた異世界転生と言うのを、コレに当てはめて考えるのは、正解に近いのか?


「……まあ、今はそんな事を考えても分からない事だわ……取り敢えず、貴方は異世界から来た人って事が分かった事は分かったし……貴方の素性も少し分かったし、これで良しとしましょう」


満足気に言う彼女。どうやら俺の情報は結果的に彼女を満足出来た事だ。


……そう言えば、俺も彼女の事について一つ知りたい事がある。


「……なあマリー、俺にも一つ教えてくれ欲しい事があるんだ」


「ん?私が答える範囲だったら」


急な事に、驚きながらそう言った彼女。


「なぁ……どうして君は、シンセルスに行こうとするんだい?」


「……え?」


「いや、エルザさんから聞いたんだ。君はこの国最大の魔術学園に行こうとしてるって。けど、そこは亜人種に対する差別が凄いって……なのに君が行こうとするのは『夢』があるって……その夢って一体何なんだい?」


苦笑いを浮かべる彼女。視線を降ろしたり上げたりを繰り返している。


……もしかして、何かマズい事でも聞いたのだろうか。だとしたらかなり申し訳ない。


「あっあのな、マリー……別に無理して答えなくても……」


「私の夢はね」


そう切り出す彼女。しかし、当の本人には、先程までの様な明るさはなく、その顔は苦笑いを浮かべている。


「私ね……ずっと昔から、一つだけ夢があるの」


「夢……」


「そう、夢…………いくつの時だったかは忘れちゃったけど、多分10歳の時かな。私、あの村で中が良かった男の子がいたの」


言葉にするごとに表情が暗くなる彼女。けれど、その言葉を途切れさせる事はなかった。


「ある夜にね、一緒に星を見たの。この街は一日中賑やかだから、星を見ることなるて滅多にないけど。あの村では、毎日星を見ることが出来たの……空いっぱいに輝く、そんな夜空を、その子と一緒に見た事が、一度だけあったの」


「…………」


「突然、その子がね、『僕はね、あの空の上に行ってみたいな』って言い出したの。当時の私は笑い飛ばしてやったわ。『あの空に?行くの?』って……」


「……………」


「けどね……その子の目は、確かに本気だったの。『僕は、あの空に浮かぶ星に行きたい』って……今でもそんな事をしようと言い出す人なんていないのよ?……本当、今思い出しても馬鹿みたいな話よ……」


「……………いや」


……俺の元いた世界にも、星、と言うより、近くの惑星に足を踏み入れた人達がいた。危険を顧みず、それでもあの空を超え、月と言う小惑星に足を付けた、そんな人達が。


……俺自身、この年になっても星の美しさと言うものに惹かれることも度々ある。


塾の帰り道なんて、最近は帰る方向に月が登っているのだ。それに見蕩れることも少なからずある。


……それが原因であの事故が起きた、なんて事はあまり考えたくはないが。


「そんな馬鹿みたいな話に、最終的に憧れてしまった愚かな娘が、ここに一人」


「え?」


「私の昔の夢は、『その子といつか、一緒に星に行くこと』だったの」


「星に……行く……」


「……多分、好きだったのよ、私。そうやって真っ直ぐ自分の夢を追えるその子の姿が」


「淡い恋ってやつか……待って…今、昔って……」


「そう、昔……あくまで昔の話よ」


ジャケットの端を、強く握り締める彼女。


「それから直ぐの事よ……私の村が焼かれたわ。それも、たった一夜で……」


「……っ」


「家は焼かれ、逃げ惑う人は槍で滅多刺し……地獄をこの世にそのまんま持ってきたような状況だったわ……結果、私以外の皆は全員死んだって聞かされたわ。その子のに至っては、肉片どころか、骨すら残っていなかったって」


「…………」


……言葉が浮かばない。こんな辛い思いをした彼女の事が、あまりにも儚い存在に見えてしまう。それに今こうして、過去の事を思い出しながら話している彼女に、何か言葉をかけるべきとは分かっている。


けれど、その肝心の言葉が浮かばない。今この場で、無理矢理彼女に何か言おうというその考え自体がもう既に愚かなのだ。


中途半端な同情は帰って人を傷つけるから。


そう思うと、余計に口が動かなくなる。


自分の小ささが、滲み出てくる。


「……なんで貴方がそんな顔すんのよ」


覗き込むようにして、目線を合わせてくる彼女。その顔には、やはりどこか曇っている。


「そりゃ……そんな話聞いたら、誰でもそうなるさ……」


「……ごめんなさいね。困らせるつもりはなかったの」


けどね、と彼女はそっぽを向く。その横目からは、どこか晴れている。


「……ずっと言えなかったの。この話をしたのはシスターだけ。他の皆には私の過去は何一つ話していないの」


「…………」


「……だから、教会の皆とは、なにか壁のようなモノを感じていたの………だけど」


「……だけど?」


「貴方は違った……今日初めて話しただけの関係なのに、貴方はこうして私を助けてくれた。だからなのかな、貴方にはそういうモノを感じないの」


「……………」


「本っ当に……不思議……」


……別に俺はそこまで話術がずば抜けている訳でもない。むしろその逆、俺は元々コミュ障に人見知りなのだ。


けど、確かにここに来てから、俺のコミュ障も人見知りも、全くと言うほどない。


……けど少し考えれば、今の俺の体はアイツ、椛の体だ。それにアイツは俺とは違い、そのコミュ力を活かして生徒会長になった程だ。だったら多少はアイツのコミュ力が今の俺にあるのか?……いやそれはないか。


……けど、少なくとも彼女がそう思ってくれてるなら、俺も心が軽くなるような気がした。


「けどね、そんな『昔』の夢も、『今』では新しい夢になってるの」


「……『今』の夢って?」


「私の『今』の夢はね……『新しい星を自分で見つける』ことなの」


「新しい……星」


「そう、新しい星……昔一度ね、昔の夢を家族に話した事があるの。勿論皆、応援してくれるって言ってくれたわ………けど、今となっては、そう言ってくれた人達は一人もいなくなったわ……」


「……だったら」


「私は別に皆の為にこの夢を叶えようと思ったわけじゃないの……けど今じゃ、私に夢を与えてくれた人はいないの……だから、今まで何度もその夢を諦めようとしたの」


「…………」


「けどね、結局無理だったの……その結果、『今』の夢になったの」


「……だからシンセルスを目指していたの?」


「そう…………知ってる?この国の中心、富裕層の街にはね、この国唯一の天体観測所があるの。世界中から集められた最新機器が揃う、そんな場所があるの」


「天体……って事は望遠鏡とかか」


「そう、よく知ってるわね……それも貴方の元いた世界にあるのかしら?」


「いやまあ……買おうと思えば買える値段で売っているからな」


「ふーん……まあいいわ…………それでね、その天体観測所で働く為には、この国一番の魔術学園の卒業証書が必要なの。それさえあれば、どんな人でもそこで働く事が出来るの」


「だからシンセルスに……」


「そう、それに私の場合、成長速度が極端に遅いから、ここ数年はずっと15歳扱いをされていたわ。だから何度も入学手続きを出せたわ。それで今日やっと入学書が届いた……筈だったの」


「……だった?」


「破かれたの……あの時、アイツらに…………別に紙事態は再発行出来るわ。だけどね……ずっと夢に見ていたモノを目の前で壊されるとね、やっぱ心が傷付いたのよ。だから……」


アイツらにいいようにされた、と彼女は言った。


「…………」


……やっぱり何も言葉が思いつかなかった。


「……だけどね、それでも私行こうと思うの。シンセルスに」


そう言った彼女の目は、力強く、どこか遠くを見据えていた。


「……だけど、シンセルスって……」


「……分かってる。あそこは亜人種の差別が激しいって。竜族の生き残りの私は、その比じゃない程の事をされるかもしれない」


「……だったら」


「だけど、私はそんな事は気にしてないの。そんな事より、私には夢の方が大切だから」


何かを決心したかのように握った右拳を、彼女の胸の前に持ってくる。けれど、その拳は小さく震えている。


「……お前、凄いよ」


「……え?」


思わず出た言葉に、彼女は反応する。


「そうやって、自分の夢に向かってひたむきに努力する奴、俺は殆ど知らないんだ」


頭の中にアイツの顔が思い浮かぶ。一年の時、俺の自室で一緒に勉強する彼女の顔が、浮かぶ。


「たった一つの夢を叶える為に努力出来る人は、俺は凄いと思う」


アイツの顔が浮かぶ。生徒会長を決める選挙の時、全校生徒の前でアピールする時の姿が、浮かぶ。


……ああ、そうか。そういう事なのか。


マリーと椛は、その努力する姿が似ているんだ。


「……凄い、か……そう言われたのは初めてかな」


そう気恥しそうに、目線を下にずらしながら、そう彼女はいった。


「……貴方、やっぱ優しいのね」


「……優しくはないよ」


……次はこっちが恥ずかしくなる。これまで直に優しいなんて言われたのは殆どなかったからだ。


「いや、貴方は優しいわ……お礼ついでに教えてあげる。貴方、元いた世界に戻りたいんでしょ?」


……戻りたい、か……


「……ああ、戻れるものなら戻りたい」


「これは私の憶測だけど、貴方の話に出ていた『空に近い所』って言うのは、この国には一つしかないわ……」


「……それはどこなんだ?」


一拍おき、俺の質問に答える彼女。


「この国の山より高い場所にある、この国のシンボル、『ゼルレッチ城』の事だと思うわ」


「……ゼルレッチ」


「そう、この国の王様が住むお城。それがゼルレッチ城よ」


あれを見て、と指を指したその先、建物を間から見える、山の上に確かに建てられた、西洋風の城。青い空によく似合う、白銀の色をした城。


「……あれが、ゼルレッチ」


「そう、あれがゼルレッチ」


「だったら、早くあそこに……」


「無理よ、あそこは私達庶民は勿論、富裕層の人までもが立ち入る事が出来ない、この国一番の警備を持った場所よ。どんな人でも入る事は不可能よ」


「そんな……」


……せっかく見つけた手がかりなのに、こんな所で詰みかよ……!


「けどね、たった一つだけ、そこに正式に入る事が出来るの」


「…………どうすればいいんだ?」


「あの城には、毎年シンセルスでの成績上位4名の卒業生が、城の警備兵として特別配備されるの」


「……それは、つまり」


「そう……ゼルレッチ城を目指すのなら、確実にシンセルスに入る必要があるの」


……これだ!と思うのと同時に新しい問題点も浮き彫りになる。


「……でも、俺はこの国の人でもなんでもないし……」


「シスターから聞いてないの?うちの教会、どんな子供であろうと役場に申請すると、その子はもうこの国に住んでいる事になるのよ?」


「……なるほどね……じゃなくて!確かにそれはそれで解決だけども、俺そこに行くための資格なんて……」


「けど貴方、魔力球5倍なんでしょ?そんな逸材と呼べるのを、この国がみすみす逃す筈がないわ」


「この国……?」


「シンセルスはね、ゼルレッチ城に住む王族、『ゼルファ』によって運営されているの。それに、今のこの国は少しでも戦力と呼べるものが欲しいのよ。だから庶民である私にも声がかかるのよ」


「なんだよ……戦争でもしてるのか?」


冗談を言うようにそう聞く。


「えぇ、今から70年前、隣国と大規模な戦争があったの。今は停戦状態だけど、いつ戦争が再開してもおかしくないわ」


他人事のように答える彼女。


「……どんな世界でも戦争ってあるのかよ……」


「そんな訳で、貴方みたいな人を、この国は欲してるって訳なのよ」


……俺は元々面倒事は苦手だ。だからそれ系統の行事や仕事は出来るだけ避けてきた。


けど、今この瞬間が踏ん張りどころと言うものだろう。


……正直、今この状況は特別な、それこそ異世界転生モノ特有のだと思っている。


異世界、亜人、魔法、それに特殊能力とか……なんでも揃っているこの世界に来れたことに、どこか喜んでいる自分もいる。


けど、先の脱走劇は俺の運が良かったからだ。そうじゃないと、今頃あの爪に串刺しにされていただろう。そう考えると、体がすくんでしまう。


俺の中で、自問自答が繰り返される。何度も同じ質問が、何度も頭の中を流れてはどこかに消えていく。


……けれど、そんなの答えは最初から分かっている。


「………分かった」


覚悟を同時にするように、言葉を発していく。震える拳を握り直す。そして彼女の方を見る。


「俺は……シンセルスに行く。それで、その成績上位4名のうちの一人になってやる。それが今、俺がすべき事だ」


そう告げた瞬間、彼女は口角を上げる。


「……そういうと思ったわ…………だったら目指すわよ!上位4名!」


力強く、そう言った彼女。その言葉が彼に反響し、その語尾が何度も聞こえる。


「けど、別に君の場合はそんな上を目指す必要はないんだろ?」


「どうせ入学するなら上を目指したいじゃない?だったら私も目指すわよ」


腰に手を当て、胸を反る彼女。


「そっか……だったら一緒に頑張ろ」


そう言い、彼女の右手を差し出す。その行動の意図を察したのか、彼女の方も右手を伸ばす。


「あっ、けど待って。その前に貴方の名前、教えてくれない?」


伸ばしかけた手を止め、そう聞いてくる。


「いやでも俺の名前は、最初会った時……」


「そうじゃなくて、本当の名前。知ってるのよ?モミジなんて名前は嘘だって」


胸を反り、腰に手を当てる彼女。


「……なるほどね。最初から知ってたって訳か」


「そ。だから教えてくれる?本当の名前」


体を曲げ、覗き込むようにして目線を合わせる彼女。その姿に、少しだけ動揺してしまうが、表には出さないようにする。


「ああ、分かった。言うよ」


そう言い、咳払いを一つする。そして彼女の顔を見ながら、『俺』の名前を言う。


「俺の本当の名前は……」


──後に、俺はこの一連の行為を酷く後悔する事になる。


──けれど、それでも俺は、彼女に名を告げる必要があった。


「『紅城あかぎあお』、それが名前だ」


「なるほど……やっぱ長いわね。ねえ、これからはアオって呼んでいい?」


「ああ、俺もそっちの方が聞き慣れているし」


じゃアオ、と彼女はもう一度右手を差し出す。


「気を取り直して……これから宜しくね、アオ」


姿勢を戻し、笑みを浮かべる彼女。


そして、俺の方も自分の右手を彼女に向けて伸ばす。そして、俺も笑みを浮かべる。


「ああ……宜しく、マリー」


互いに伸ばした手を取り合い、握る。


建物を通り抜ける風が、俺達の髪を揺らす。


光に当たり、彼女の銀色の髪は、より輝きを増し、まるで宝石のような美しさがあった。


そんな姿の彼女に、俺は一瞬だけ、心を奪われてしまった。


彼女の手は、確かに暖かかった。


──例え、その先が地獄であろうと、俺は決して忘れないだろう。


──彼女との、運命的な出会いに。




同刻。


「………おっ!やっと来たのか!」


夕焼けに照らされた山の上で、彼女は一人、そう呟いた。


否、そこはただの山ではない。


赤い液を絶え間なく流すその物体達は、先程までこの国を守る為に勇敢に戦っていた兵士達だ。


そんな死体の上に、返り血で染められた人間が、愉快そうに笑っている。


「全く……こんなに時間がかかるなんて!どこで油を売っていたのよアイツ……待ってる時間で国を一つ陥落させちゃったよ……」


まあけどいいわ、と足元にある死体を蹴り上げる。落ちた死体は、同じ物体に衝撃を吸収され、下から鈍い音が聞こえた。


「さあ……ここから先は」


その顔は、この世とは思えないほど、歪んだ笑みを浮かべていた。そして、舌舐めずりをする。


「君の『元』仲間パーティーが君の国に大虐殺パーティーをしに行く時間だよ!?『元』勇者様ァ!?!?………嫌」


……モミジちゃーん?


episode:11,END

感想くれゑ

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