episode:10,涙
おはこんばんにちわ。アネモネです。
本当は1話でまとめたかったんですけど、そうすると1万文字を優に超えるので、10、11と分けました。
南無三。
私の潜在能力は特別なモノだ。
竜族しかない、特別な能力。
世間はそれを『千里眼』と呼ぶ。
私はそれを『竜眼』と教えられた。
別に常時能力が発動している訳ではない。少しだけ、目元に力を込めると、いつもの『目』は『竜眼』へと変わる。
『竜眼』は、全ての生き物の『真実』を読み取る事が出来る。
名前、出身、年齢、潜在能力……それに、考えている事まで。
その『目』で覗かれた者は、その『目』の持ち主に全ての情報を丸裸にされる。
この『目』を持っている者は『竜族』の血を引いている証拠。
つまり、忌み嫌われる証拠。
どうやら、私の先祖様は昔、沢山の人種を殺した過去があるそうだ。
どうやらその年、彼らは食料に困っていたらしい。
だから生きる為に殺した。
彼らはただ食べ物を食べていたのだ。
それは、食料難が去った後から、亜人種へとなるまで行われた。
それが全ての始まりだった。
そんな過去があるからこそ、亜人種の差別が無くなった今でも、特に貴族を中心に、竜族を差別する風習が未だに根強く残っている。
さっき、私をアイツらから助けてくれた彼女は、きっと私が竜族と知らないから、会ったばかりの私を助けたのだ。
私の手を握ってくれた。
私がそんな呪われた種族の生き残りだと知ったら。
きっとその手を離してしまうだろう。
「ねえ、モミジ」
そう彼女を呼ぶ。彼女に渡されたジャケットは、どうやら私には少々大き過ぎたようで、結果的に太ももまで隠す形になっている。ボタンも付けると完璧に隠れる。結果オーライだ。
そんな服を渡してくれた彼女を、私は呼ぶ。
「ん?なんだい、マリー」
やっと落ち着いたのか、元の顔色に戻した彼女が反応する。
「さっきは、助けてくれてありがとう」
彼女の目を見ながら、心からお礼をする。
モミジ、彼女があの時来てくれなかったなら、私は今頃、アイツらに………そう考えると、身震いが止まらない。
けれど、そう思えるのは、彼女がこうやって助けてくれたからだ。
「いや、お礼を貰う程の事はしてないよ……」
そう言った彼女の声は、少し低くなっていた。
「だって俺、君がそうなるまでに間に合わなかったし……」
申し訳なさそうに言う彼女。先程アイツらを掻い潜ったとは思えない程、その声には覇気がなかった。
「結果的に君を助けるのが遅すぎた……だから俺は」
「違うよ」
言葉をわざと被せた。
これ以上、彼女が自分自身に迫る言葉を聞きたくなかった。
「違うよ……元はと言えば、私が勝手に首を突っ込んだ事が原因なんだよ……私の責任なんだよ。アイツらに襲われたのも、結局私が責任なんだよ」
そう、私が原因なのだ。
私の勝手な正義感が、私をこんな姿にしたのだ。
私をこんな目に合わせたのだ。
「それこそ違う」
けれども彼女は、私の言葉をそう否定し、私の両手を取った。
「君は正しいと思って、あの二人を追って来たんだろう?きっと俺はそんな事出来なかったと思う。」
俺は彼女の手を握り、目を見ながらそう彼女に言う。
彼女はあの時、あの悲鳴を聞いたから行動に起こしたんだと思う。けれど俺はその時、助ける所か逃げる方法を考えていた。
俺今がこうやってここにいるのは、あの時、椛の声がする黒い球体と会ったからだ。
俺はアイツに感化されて、マリーを助ける為に行動し始めたのだ。
そんな俺に持ち合わせていない正義感を、彼女は持っているのだ。
「マリー、君は正しいことをしたんだ。それを君自身が責める事はないんだよ」
そう言った途端、彼女の顔に様々な表情が出て来た。
嬉しそうに、困ったように、悲しそうに、けれども嬉しそうに、表情が様変わりしていく彼女は、重そうにその口を開いた。
「ねえ、モミジ……それは私が『竜族』の、末裔って言う事を知らないからなの………?」
「………え?」
予想外の話題を振られ、俺は少し考えてしまう。
しかし、そんな姿を見た彼女が、「あのね……」と言って話し始めた。
俺がエルザさんから聞いてない、彼女の過去を。
なんで全部話したんだろう。
今まで私の事について話したんのは、シスターしかいない。
そのくらい、自分の過去を話すのは嫌だった。
自分が忌避される血だと言うのを、他人に説明する事で確認したくなかった。
けれど、結局目の前の彼女に全て話してしまった。
今日初めて話したばかりの相手に。
竜族についても、私の過去についても。
……なんとなく分かる。
……それはきっと、私が少なからず彼女の事を信頼しているからだろう。
私は全てを話している時、彼女の顔を見ることが出来なかった。
もし彼女が全てを知って、私を嫌ってしまったら……そう少しでも考えると、より一層彼女の顔を見ることが出来なかった。
「それで、君がなんでこんな事になるの?」
説明し終えた途端、彼女から出て来た言葉は、私の予想の斜め上のモノだ。
「なんでって……貴方、私の話聞いてた?」
理解していないのだろうか……いや、彼女は『本気』の眼差しをしている。
「マリー、君の祖先の竜族が過去にどんな事をしたのかも、君がその一族の生き残りだって言う事も分かった。充分理解出来た。だけど……なんで君がそんな目に合ってしまう理由になるんだ?」
「それは……」
私の祖先は、沢山の人を殺した。だから皆から怨まれ、嫌われるのは当たり前だ。
「いやだから、それはあくまで君とは縁しかない人達の話で……君がそうやって迫害される理由にはならないだろう」
「……は?」
「だって、今のこの国では人種と亜人種は仲良くしてるんだろ?なのになんで竜族だけ迫害されるんだ?」
「……それは……それは!他の亜人種に比べて竜族は沢山人を殺したからよ!」
思わず声を荒らげてしまう。彼女は私の恩人なのに。
けれども、自分の中の感情を抑える事が出来ない。
私の祖先は。
生きる為に、人を殺した。
それが最大の誤ち。
「……だから、竜族の寿命が他の種族と比べてあまりにも多いのは、生きている間、民衆達から怨まれ続ける為の呪いだって、お父さんが教えてくれたの」
私達、竜族の寿命は約千年と呼ばれる。他の人種や亜人種は平均的に100年。多くても200年なのに対し、竜族の寿命は多すぎる。
昔、あの村に住んでいた時に、お父さんはこう言った。「私達、竜族が他の皆より長く生きられるのは、長く生きている間、祖先の人達の罪を背負い、皆からその罪を責められる為の呪いだ」そう言っていた。
だから、私の体の成長は遅い。80年も生きているのに、まだ体は子供のままだ。だからなのか、精神年齢もそれ相応になったまま成長していないようにも感じる。
私が子供のままなのは、その呪いのせいなのだ。
「……本当にそうなのかな?」
けれども、彼女のその顔は私の話を聞いても、曇り顔1つ浮かべなかった。
「俺は1000年も生きる気持ちはよく分からないし、その分君がよく分かっていると思う。」
「だったら……」
「だけどさ、俺は羨ましいと思うよ」
「……羨ましい?」
この寿命が羨ましい、なんて事はそれこそ想像の斜め上を行っている。
「他人事に聞こえるかも知れないけどさ、きっと寿命が長いって言うのは、他の人が時間がなくて出来ない事もする事が出来るって思うんだよね」
「……………」
「俺だったら、世界一周をしてみたいな……世界の全ての山に行ってみたり、秘境を全て巡ってみたり……それにその分、人との縁も沢山作る事が出来る。それはきっと他の人には出来ない、貴重な事なんだと思うよ」
「人との……縁……」
「それに、君はさっきがそうやって先祖の罪に縛らたままなんて、生きづらいでしょ?」
頭の中が混乱していく。この血を恐れず、それどころかこの寿命を褒めるなんて……そんな人は初めてだ。
「……貴方がどんなにこの体を羨ましがっても、当の本人は、この血が嫌なの。」
……この翼も、嫌いなの。
足元に落ちる雫が零れる。どうやら私が無意識に流した涙らしい。なんで零れたのか、今の私には分からない。それでも流れ続ける涙を、私は自分で止める事が出来ない。
「……マリー、君はずっと自分の一族に悩まされて来た、その辛さは俺には分からないモノだ」
「…………だったら」
「けどさ……だったら、なんで教会の人達は、君を慕っているんだい?」
「…………っ!」
「シスターも、子供達もそうだ。皆、君を避けるどころか、君と親しそうにしていた。本当に君の一族が嫌いなら、当の本人である君とそんな風には生活しないと思う。」
そう言われた途端、あの教会で過ごした、何十年にも及ぶ思い出が、私の中から溢れ出す。
嬉しかった事、悲しかった事、苦しかった事、恥ずかしかった事、泣いた事、笑った事……
……余計に涙が溢れて来る。
「それにこんな国なんだ。もしかしたら、本当は街の人達は、あまりに気にしていないかも知れないよ?案外君の思い過ごしかも知れない」
私を安心させるように、手を強く握りながら、笑顔を浮かべる彼女の姿は、どこかこの世とは思えない美しさを含ませている。
「君はさ、そんなに思い込む必要はないんだよ。もっと気楽に、喜楽に生きていいんだよ。自分の夢を叶えていいんだよ。」
episode:10,END
南無三。