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episode:9,最善策

おはこんばんにちわ。アネモネです。

9話目です。

後一話更新したら、これまで投稿した小説の微調整を行いたいと思います。

「大丈夫だよ、マリー……今から助から」


怒りで震える喉を、今目と鼻の先で震えている彼女の為、出来る限り安心出来るような声を出す。


俺はここに来るまで全力で走って来た。これまでの人生の中で、一番全力を出した。


マリーの居場所を確認する為、時々あの能力を何度かしようしながらここまで来た。


けれど結果はどうだ。


今、俺の目に映る光景は……今朝まで着ていた、少し大人びつつも子供らしさを残す服が、彼女の周りにただの布切れとなって放置されている。


そして当の彼女は、一糸も纏わず、その白く健康的な肌を顕わにしている。それにその肌は、恐らく俺がここに来るまでに付けられたのであろう、細かい無数の擦り傷が彼女を覆っている。


彼女の特徴だった二つの太いおさげも解け、彼女の魅力の一つでもあった丸メガネは、彼女のから遠く離れた場所に、その形を歪められていた。


役場で離れた時に見せた、の不安と、それ以上に、自信に溢れたその表情は、今の彼女からは微塵も感じ取れない。


「………………」


思わず奥歯を強く噛み締める。


俺はこれまでの人生の中、本気で『怒り』を覚えた事は、今まで一度も無い。


そりゃそうだ。俺が今まで送って来た人生は、自分でも自覚するくらいに甘いモノだったと思う。これまで俺とその周りで大きな問題が起きた事は一度もなかった。周りの奴らは性根のいいのばかりだ。


俺はそんな生活が好きだった。


それが当たり前だと思っていた。


だからこそ、今目の前に映る光景に、俺は怒りを覚えた。


これまでに感じた事のない、強い感情が腹の中に渦を巻く。


……体が熱い。体の中の芯を直に焼かれている気分だ。


「ふぅーー……」


無理矢理一つ溜息を尽く。


頭に登りきった血を、少しでも冷ます。不思議な事に、体の調子は幾分か元に戻った。


もう一度、冷静に状況を理解する為、目の前の『敵』を睨みつける。


『敵』は二人。


手前に蛇頭の奴。確かに教会にも同じような子はいたが、その子とコイツでは似ても似つかないモノを感じ取れる。


そして奥に……なんだコレは?顔一つから取れる情報が多すぎる。顔は犬、いや狼であり、そこから生える角は牛のモノだ。なのにその脚には蹄がある。


……異形だ。この世界にはキメラなる者もいるのか?


そして、その二人組より前。つまり俺の足元には……背中に大穴が開けられた、ローブを着た人が横たわっている。その下には、赤い水溜まりが出来ている。


……恐らく、コイツらが……


一度冷めた熱が再発する。


拳を強く握り締める。


「おいおい、また新しいガキかよ……」


舌打ち混じりにそう言うキメラの言葉には苛立ちを感じ取れる。


別に『敵』と言っても闘う必要は一つもない。


一番の最前の策として、何とかして彼らの手を掻い潜り、マリーを無事に助け出せれば、それは俺にとって『勝利』に値する。


その為の手はもうある。


「おいそこのメスガキ、てめー、この竜族の仲間か?」


手前の蛇頭が舐めるような声で聞く。その声は生理的に惹き付けないモノが含まれているようにも感じる。


……けれど、こんな所で怯んでいる訳にはいかない。


右脚を地面に擦りながら前へと出し、一度も何処かの番組で見た時のような中国武術の構えを何となくで再現する。


「おいおいフエル、このガキやる気らしいぞ!」


笑うように、又は煽るようにそう言った蛇頭を押し退けるように、後ろからキメラが出てくる。


「おいガキ……テメーがこの竜族のガキとどういう関係なのかは知らねぇが、たった今、お前は俺の楽しみを邪魔した、つまり……」


死に値する、とそうそう言い終える前に、その腕からかなり長めで鋭利な爪を生やし、地面を抉るような衝撃をその脚で起こし、猛烈な勢いで迫って来る。


俺の額から冷や汗が一筋流れる。あの策は最初で最後の1発勝負なのだ。もし失敗したら、その時点で俺はあの爪の餌食になるだろう。


……だからこそ、今は落ち着け。今だからこそ心を鎮ろ。


10メートル、5メートル、……テレビ越しにでも見た事がないようなスピードで近づいてくる。


3メートル、遂に目の前まで迫ったキメラが、その顔に不気味な笑みを浮かべながら、地面を1回、強く踏み、飛翔するように接近する。


その爪が風邪を切り裂きながら、俺の顔へと引き寄せられる。俺の視界も、その一点を見ようと狭くなる。


心臓の鼓動がピークへと達する。


……今だ!


瞬間、今まで奇天烈な構えをしていた姿を、地面に付くくらいに低くする。そして直ぐに右脚で大きく、けれども出来るだけその姿勢を崩さないようにして踏み込む。


そのまま勢いよく体を前に出す。


直ぐ上をキメラが通り過ぎる。


「………何ぃ!?」


直ぐ後ろから、キメラの素っ頓狂な声がした。


「っウッソだろ……!?」


直ぐ目の前からもまた同じような声が聞こえる。


思わず俺もニヤける。


しかしまだやる事は残っている。


その姿勢を崩さないまま、勢い任せにスライディングをする。左腕が地面に接触。直後、服が熱を帯びながら擦り切れていくのを肌越しに感じながら、蛇頭の足元へと俺の脚をぶつける。


「うわぇっ!!」


そんな声を出しながら、蛇頭は宙へとその体を浮かせる。俺はその下をくぐり抜ける。


次の瞬間、俺が先程までいた場所を、蛇頭の体が叩きつけられる。「ぐべっ」と情けない声が聞こえたが、それも気にしない。


遂にその勢いも消え、失速し、地面とほぼ平行になった体を、右手に力を入れ無理矢理立たせ、遂にマリーの目の前まで来る。


「マリー!!大丈夫か!?」


彼女の肩を握り、その瞳を見ながら呼びかける。


近くで見る彼女の顔には、やはり細かい擦り傷が幾つもあり、右頬は少し腫れているようにも見える。


「……モミジ……大丈夫、何ともない」


そう答える彼女の声はあまりにも弱々しい。早くこの場所から離れ、病院にでも連れて行かないと……


「……ぉおい!ガキィ!!舐めた真似しやがって!!!」


後ろから怒号がする。急な怒号に驚き、後ろを振り向く。


10メートル程奥に、その目を鈍く光らせ、もの凄い形相の表情を浮かばせる、キメラの姿があった。


……マズい。思った以上にその距離が近い。あの突進だったら、あと2、3メートル程は行っていた筈だが……いやそれはあまり変わらないか?


いや、今俺たちが行うべき事は……


「マリー!早速だけど、君の手を取るよ!!」


「えっ?」

言うよりも早く、俺は彼女の力が入っていないその腕を強く握り締め、引っ張る。


想像していたよりも軽い彼女を体を引っ張り終えると、俺は今奴らがいる方向とは真逆の、その奥へと続く細道を目指す。


「えっ、ちょっと!」


彼女の声が聞こえるが、そんな事を気にしている場合ではない。


俺のその急な行動についていけなかったのだろう、彼女の脚が止まってしまう。


「いいから走れ!!」


そう後ろを振り向き、彼女へ言う。


眉を下げた彼女だったが、それで足を前に出してくれる。


地面に転がっていた、彼女のメガネを空いている手で回収し、そのまま奥へと目指す。


「おいガキィ!!」


蛇頭の裏がった声が響く。


「まてシンジェ!!……もう時間だ……」


後ろから悔しそうなキメラの声も聞こえた。


そんな声には注目せず、彼女を引っ張りながら、全速力で路地を走り抜ける。


くね曲がった道を考え無しに、勢いのままに進み、そこらじゅうにあった階段も一気に降りて行くと、遂にこの空間を照らす、眩しい光が刺す道を見つける事が出来た。


「………やった、出口だ……!」


後ろを振り向く、勿論の事、何の気配もなく、俺とマリー、二人だけの上がった息遣いだけが壁に反射し、耳へと届く。


ここまで来たら、奴らが追ってくる心配もないだろう。


心の底から安心した瞬間、その場に崩れてしまう。


「うわっと………」


……そりゃそうだ。ここまで常に全力だったんだ。ろくに運動もしていないこの体をここまで酷使したんだ。ちゃんと立つにはそれなりの時間は必要だろう。


「はぁ……はぁ……マリー……大丈夫か……?」


息が詰まるが、それでも彼女の心配を二の次にする訳にはいかない。


「………ええ、大丈夫……」


ここでやっと返事が来たので、マリーの方を向く。


勿論、そこには一糸まとわぬ彼女の姿があり……


「………って、そうじゃない!!」


大きな声を出してしまった。


おかげで声が壁に反響した。


肩をビクッとしながら彼女は驚く。


「ゴメンマリー!直ぐに着る服を…!」


そう言いながら、今自分が着ているジャケットを脱ぐ。


……そうだった。彼女があの場所で、奴らに何をされそうになったかは、彼女の格好を見れば大いに想像出来る。


……出来るが、あの時は非常事態だった為、そこまで気にしてはいなかったが、一難去った今、男としてまた一難が迫って来た……いやそんな事を考えている状況ではない。


「マリー……これ着て…」


脱いだジャケットを、彼女から視線をずらしながら渡す。声も勝手裏返る。


「…………………」


沈黙。あまりにも気まづい沈黙。それを破ったのは、他ならぬ彼女の笑い声だった。


「アハハ……アハハハハ……」


先程の件が精神的に来たのだろうか。そう心配し、思わず彼女の顔を見る。


「なんなのよ貴方、私と同じ女の癖に……本っ当可笑しい」


そう言った彼女の顔は、確かに笑っているように感じた。


……良かった。本当に良かった。


確かに、俺はマリーが襲われている時には間に合わなかった。けれど、ちゃんとこうして彼女を助けるられた。


気が付くと、俺も彼女と一緒に笑っていた。



感想下さい(涙目)

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