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発情中のうさぎメイドは狼騎士に食べられちゃう?!  作者: つきのくみん
第4章 ラフィールが守りたいもの
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79 一緒に帰ろう

エピローグの章まであと1話。長くなったので分割しました。良いところで切れているかも(´;ω;`)

 いつものように1羽と1頭が寄り添って過ごす、穏やかな夜の時間。


 ラフィールが微睡みに身を任せ、レナがひとしきり癒しの時間(モフモフタイム)を終えた頃。


「ねぇ、狼さん」


 突然囁かれたソプラノの声に、ラフィールは曖昧な意識を浮上させた。


 風呂敷を纏っただけの無防備なレナは、地面に敷かれたもう1枚の上で、居住まいを正して座っている。


 髪の隙間から覗くのは、長くて愛らしいうさぎ耳。


 残念ながら尻尾までは確認できなかったが、それはラフィールがずっと求めていた姿、すなわちうさぎのレナがうさぎとして、起きて動いている姿だった。


 薄い布で隠された、秘密の場所を暴きたい。

 耳と尻尾に触れたときの、甘いき声を聴かせてほしい。


 そんな狼の欲望を知らないレナは、太腿も満足に覆えない布の端を、思い詰めた表情で固く握りしめていた。


「匂いでわかったと思うけど、私はあなたと一緒にいたうさぎのレナ。実は私、獣人なの。今回は、あなたにお話ししたいことがあって人化したわ」


 ブン!


 ラフィールは、尻尾を振って頷いた。


「それでね。私は明日にでも、ここを出るつもりでいるの。行く先は、私がメイドとして働いてきた領主館よ」


 しばらくはしっかりとした口調で話していたのに、徐々にレナの声が小さくなって、目線が下に落ちていく。


「でも……。お仕事を辞めるとき、皆からあんなに温かく見送ってもらったのに、そう日にちも経たないうちにまた働かせてほしいだなんて、なんだかとても自分勝手な気がするけれど……。

 私がお付き合いしていた(ひと)も、置き手紙まで残しておきながら出戻ってきた私のこと、どう思うのかしらね……」


 そこでレナは、ハッとして口をつぐんだ。


 人から傷つけられる前に、あらかじめ自分を傷つけて諦める ――そのための準備の言葉を、吐いてしまったことに気が付いたから。


 決意したその日のうちに、別人に生まれ変われるほど、人は単純にできてない。び付いた無意識の改革には、相当な時間がかかるだろう。


 それでも――。


 強くなりたいと願う心は、間違いなく人を強くするから。


「私ったら、余計なことを言ったわね」


 (ラフィール)の頭を膝の上に導くと、レナは屈託なく微笑んだ。


 ラフィールはレナの契約期間を知っていたから、彼女の辞職については納得した。狼ばかりの危険な森にいる経緯いきさつは未だによくわからないが、焦って問い詰める必要性も感じない。


「狼さんには何度も助けてもらって、とても感謝しているの」


 小鳥のさえずりよりもんだ音色が、膝枕のラフィールには心地好く響いていた。

 吸い付くような素肌の感触と、えも言われぬ甘い香りに、存分に酔いしれることが許されて。


「あなたには、群れの仲間がいないのでしょう? そして私は、あなたが大好き ――だから……」


 一瞬呼吸を止めたレナを、ラフィールが見上げていた。


「だからこれからも、私とずっと一緒にいてくれる?」


 ラフィールの答えは決まっている。


「ありがとう、狼さん!」


 大好きな狼の同意を得て、レナは無邪気に喜びを爆発させた。




 ラフィールの反応は、レナを安心させたのだろう。

 

「そういえば、さっき恋人のお話しをしたでしょう? 彼 ――ラフィールさまは狼の獣人で、あなたにとても良く似ているの。

 ラフィールさまはね。仕事熱心で強くて、真面目で誠実で、格好良くて頼りになって、意地悪なときもあるけど優しくて……」


 レナは熱にけたマシュマロみたいな顔をして、ついぞ聞かれたこともない惚気(のろけ)話を始めていた。


 さて、ラフィールはというと、彼はこれしきのことで動揺するような、情けない男にはなりたくないと思っている。

 彼は精一杯の渋面じゅうめんこしらえて、口もとを真一文字に引き結ぶ。はしゃぎそうになる尻尾と感情を必死になって抑え込んだ。


「でもね。私、フラれてしまったの。たまに、現実を忘れてしまいそうになるけれど……」


 心を努めて空っぽにしていたラフィールは、最後にレナが付け加えた言葉の意味を、すぐには理解できなかった。


 フラれる? 誰に、誰が?


 別れの時間さえ惜しんで、危険な任務におもむいたのは、レナの幸せに繋がると信じたから。


 愛する女の幸せを、他人任せになんかしたくなかったから。


 そんなラフィールが、レナとの別れを選ぶなんて、絶対にあり得ない。


 しかしながら誤解される心当たりなら ――大いにあった。あり過ぎた。


「え? どこいくの、狼さん?」


 レナが呼び止めても、ラフィールはチラリと振り返っただけで知らんぷり。


 足早に闇へと消える黒い背が、あの夜の()の姿に重なって、レナの胸が嫌な鼓動を刻み始めた……。




 * * *




 しばらくしてラフィールは、レナが血眼ちまなこになって探していた結婚指輪マリッジリングを、口にくわえて戻ってきた。


 杞憂きゆうに終わった不安に、レナは心から安堵する。


「これを取りに行ってたの? 私に返してくれるの?」


 勢いよく頷かれて手を出せば、そこに指輪が乗せられる。


 左手の薬指だけを、器用に噛まれたのはその直後。


「ひゃん!」


 びっくりして変な声をあげたレナに、ラフィールは目だけで訴えた。


『は・め・ろ』


 そんな空耳が聞こえたような……。聞こえなかったような……。


 レナは率直そっちょくに確認する。


「今すぐに、はめれば良いの?」


 ブン!


「それなら、もう指を噛まないでね?」


 ブ……ブン!


 はめる資格があるものか、レナは少しだけ迷っていたが、結局は狼の意向に従った。


 久しぶりにはめた結婚指輪(マリッジリング)


 シンプルでありながら洗練されたデザインが、レナの繊手によく映えて、曇りのない白金(プラチナ)は、彼女の薬指で一等強く輝き出す。


 絶望に塗りつぶされたあの日。


 ラフィールは深夜のおとないを厳しく注意はしたものの、レナをそのまま帰らそうとはしなかった。


 ラフィールは彼の寝台で、レナが眠ることを望んだはず。


 でもレナは、恋人の匂いがするだけの、脱け殻の寝台が怖かった。

 物足りない口づけだけを残して去ったあの人の、らされた眼差しが悲しくて、話を聞いてもらえなかったことが寂しくて、どうしようもなく苦しかった。


 それらはすべて、いつもラフィールに甘やかされてきたレナにとっては、残酷な仕打ちだった ――けれど……。


 レナの「狼さん」は、また戻ってきてくれた。

 雄うさぎを岩陰に連れ込んだときも。そしてさっきも。


 表面上はレナが拒絶されたと勘違いしてしまうほど、ひどく薄情に見えたけれど……。


 待ち続けたレナのもとに、帰って来てくれた。


「もしかして私、まだ失恋していないのかも……?」


 その可能性に思い至り、レナがふと顔を上げれば、強い光を宿す琥珀色の瞳と、真正面からぶつかった。


 あの夜の悲しきラフィールの残像が、時も場所も飛び越えて ――今ようやく振り返る。


 あれだけ深かった絶望のもやの正体は、何のことはない、レナの目が曇っていただけのこと。


 最初から諦めるつもりで始めた恋に、おあつらえ向きの筋書きを当てはめた。悲劇のヒロインでなければ耐えられないと、無意識にその役を受け入れて。


 突然奈落の底に落とされるよりも、達観したふりをして、予想した未来を進み続ける方が楽だったから。

次話でついにレナが……!


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― 新着の感想 ―
[良い点]  レナの今までの鈍感さが際立っていましたね~。そろそろ狼さんの正体に気づく頃かな?ドキドキo(^o^)o  レナに膝枕されている狼って、ナニソレカワイイ!! [一言] いつの間にか更新され…
[良い点] ラフィールさんのいやら……嘘です、愛情籠った目線が大変美味しかったです。ご馳走さまでした。 そしてレナちゃんがまだ気づいてないという……w
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