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発情中のうさぎメイドは狼騎士に食べられちゃう?!  作者: つきのくみん
第4章 ラフィールが守りたいもの
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75 目覚めたらご馳走が

ラフィールが目を覚まします。レナは辛い経験をして、また少し大人になったみたいです。

ポヤンとしているのは、変わりませんが……(-_-;)

 殺風景な河原に佇むラフィールは、川の流れを見つめていた。

 どこからか聴こえてくる物悲しい旋律メロディが、彼の背中を、押し出そうとするのを感じながら。


 ここは何やら陰気くさい。


 ――音や気配はするのに誰もおらず、石で作られた不格好な塔があるだけの、不気味な場所。


 ラフィールは灰色の世界から、早く華やいだ対岸に、渡ってしまおうと考えていた。


 橋は遠い。近くに舟はあっても、かいがない。


 それでもここに長居をするよりは、と。ラフィールは濁った水を蹴り上げて、浅瀬を選んで大胆に進んで行く。


 肌を刺す冷たさに、彼はようやく靴も何を履いていないことに気が付いた。


『そういえば、俺は獣型で戦っていたんだ』


 大切な人たちの幸せを守るために、最後まで全力で戦った。


 けれど1番守りたかったのは、レナの笑顔。


 ――川を渡った先に、彼女はいるのだろうか。


『いや、いない』


 彼女は領主館で待っていてくれるはず。


『早く、帰らなければ……』


 大切なことを思い出し、ラフィールは引き返すことを決意した。

 けれど淀んだ歌が彼の背中を押し続け、膝を囲む水の流れは逃すまいと渦を巻く。


 足掻く度に上がる飛沫しぶきは、次々と泥のような手に化けて、ラフィールを深い川底へといざなおうとしていた。


『くそっ! 戻れない……!』


 そのときだった。


 パシャパシャと浅瀬を鳥が渡るよりも、軽やかな音がして――


『ラフィールさま!』


 トンっと軽い衝撃の後に、柔らかな感触がラフィールの背中に飛び込んできた。


 途端に重く暗い空気が浄化され、渦も手も、跡形もなく消えていく。


 その奇跡をラフィールは、茫然自失のていで眺めていた。


『レナ……』

『私だけを愛してください! 浮気なんてしないで、いつまでも私だけを!』


 彼を見上げる眼差しは、真剣そのもの。


『突然現れて、何を言うかと思えば……』


 意味がわからない。

 おまけに、状況にもそぐわない。


 ラフィールはもう新しい恋を探すつもりはなかったし、結婚指輪(マリッジリング)だって渡してある。


『俺が愛しているのは、お前だけだ』


 けれど言葉をほしがるのは女の(さが)


 うさぎの耳に愛の言葉を注ぎ込むと、ラフィールの肩に背伸びをした手が乗せられた。


 それはかがんでほしいときの甘い合図。


『それなら今すぐ、私を愛してください』


 いつの間にか、彼女はすべてを脱ぎ捨てていた。


『こんなところで……』


 目眩めまいを覚えたラフィールに、レナは美しい笑みを浮かべてみせる。


『ラフィールさまだって、私と同じ気持ちでしょ?』


 長い耳とまぁるい尻尾には魔力がある。


(こんな表情(かお)をする女だったか……?)


 身体は子どもを卒業しても、まだまだ大人になりきれていないと思っていた。


(ほんの数日会わないうちに、レナは……)


 そこでラフィールの理性は、完全にはち切れた。


 こんなご馳走は ――他では絶対に食べられない。




 * * *




 黒き狼(ラフィール)が琥珀色の瞳を開くと、ぼんやりとした世界が広がっていた。


 長い夢を見ていた気がする。


 ラフィールは、無明の闇に引きずられる瀬戸際で、恋人(レナ)に助けられたことを知っていた。


 もっとも、夢になまめかしさが交ざったのは ――彼は認めたくはないものの―― おそらく別れた夜の後悔のせいだろう。


 しゃがかかっていた視界が、徐々に鮮明になっていく。


(ここは、どこだ……?)


 見えるのは土の壁と、所々に飛び出た根っこ。

 白々とした弱い光が、入り口から射し込んでいた。


 大方おおかた崖にでもできた洞穴に違いないが、本能のまま歩いてきて、ここまで辿り着けたのなら上出来だ。


 少し離れた地面には、地図と植物、見たこともない柄の布が、綺麗に並べて置かれていた。


 そして生と死のあわいで、痛みと熱に苦しめられた記憶とは裏腹に、身体がとても楽だった。


(あれは薬草……? つまり俺はここにいた誰かに、治療をしてもらったということか……?)


 けれど恩人の姿を見つけられないうちに、ラフィールは耐え難い空腹に襲われる。


 カタリナのところでスープとパンを食べて以降、まともな食事を取っていないのだから仕方がない。


 携行食は栄養価重視なので、ボリュームには総じて欠ける。

 それはレナがこっそりとラフィールにあげていた、赤い果実も同様だった。


(肉……。無性に肉が食いたい……)


 獣型になると、本能にあらがう力が弱くなる。血を流し過ぎたせいか、身体が肉を欲していた。


 ラフィールが腹拵はらごしらえするために立ち上がると――

 

 コロリン


 すやすやと眠る小型のうさぎが、彼の横に落ちてきた。


 その毛並みは艶やかな淡い茶色。


 ――淡い茶色は、ラフィールが大好きになった色の1つ。


(まさか、俺の背中で寝ていたのか?)


 危機感皆無で寝息を立て続けるその姿は、ラフィールの狼としての矜持きょうじいちじるしく傷つけた。


 しかも寝ぼけうさぎは、再びラフィールの背中に登るつもりなのか、彼の前脚付近でもぞもぞと動いている。


(…………)


 不覚にも、めちゃくちゃ可愛いと思ってしまった。


 だがしかし、狼の背中を借りて眠るうさぎなんて、今まで聞いたことも見たこともない。


 真性の獣ではないから、野うさぎごときに背中で爆睡されてしまうのか。偉大なる領主に仕える狼の騎士が、真性の狼に劣るとでも言うのか。


(舐めた真似をするのにも程がある)


 ラフィールが前脚を振ると、うさぎはちょうど食べやすい位置まで転がってきた。


 彼も人型ならば、こんがりと丸焼きにして、塩をかけて食べたいところではあるが……。


(獣型の今なら、生のままでも充分だ)


 レナと付き合ってからも変わらずに、ラフィールの大好物はうさぎ肉。


 体力の回復に必要なこと ――それはよく眠り、そしてよく食べること。


 鼻先でつつくと、うさぎは眠い目をこすりながら、やけに人間染みた動作で起き上がった。


 はしばみ色の(つぶ)らな瞳が、恐怖で大きく見開かれる。


 プルプルプルプル……


 うさぎは奇妙な柄の巾着を、固く握りしめて震えている。


 ――ちなみに榛色は、ラフィールが大好きになった色の、もう1つ。


(まさか……このうさぎ……)


 最高に可愛くて哀れな獲物からは、夢にまで見た恋人の香りがした。


(レナ……! どうしてお前がここにいるんだ?!)

ここはあの世とこの世を隔てる川。

無数の手に(から)み付かれ、ラフィール現在大ピンチ。


レナ「ラフィールさま。今、お助けに参ります!」

ラフィ「お前は岸に戻れ! 引きずり込まれるぞ!」

レナ「大丈夫です! では……ラフィールさまは、そっちの手を引っ張ってくださいね。私はこっちの人を助けますから」

ラフィ「おい。俺を助けにきたんじゃないのか? いや、そもそもこの手を引っ張って、気持ち悪い感じの本体が付いてきたらどうするんだ?! 待て、レナ! 俺の話を聞け!」


ザッパーン★


レナ「わぁ、大漁でしたね。男女あわせて20人はいます」

ラフィ「大漁って……。それに俺の足元にこんなにいたなんて、人口密度おかしいだろ……」


手代表「ありがとうありがとう。あなたたちのおかげで、手だけ日焼けし続ける苦行から、今ようやく解放されました」

ラフィ「どんな苦行だ……」

手一同「「「このご恩は一生忘れません!」」」


手一同平伏す( ノ;_ _)ノ ははー。


レナ「(あたふた) そ、そんな! みなさん、お顔をあげてください! ね、ラフィールさまっ?」

ラフィ「俺はそんなことより、彼らの『一生』が、既に終わっているかどうかが気になっている……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] おはようございます!(*´▽`*) これからどうなるのか気になって気になって……。ラフィールが気がついてくれて安心しました! これから甘々モフモフタイムでしょうか♡ 楽しみすぎます! く…
2020/08/06 07:59 退会済み
管理
[良い点] レナちゃんももラフィール隊長も、お互い不足が半端ないですね 死の淵から生還するほど甘々(*ノωノ) そして後書きにめちゃ笑いました。 優しいレナちゃんらしいですが、なんかいっぱい引っ張り…
[良い点] やった! 更新だ!! そしてラフィール起きたぁ~!(≧∇≦*) パクッとご馳走として食べられる前にレナだと気づいて良かったです……味見、とか言って噛みつくんじゃないかとヒヤヒヤしましたよ(…
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