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発情中のうさぎメイドは狼騎士に食べられちゃう?!  作者: つきのくみん
第4章 ラフィールが守りたいもの
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67 驚くべき事実

 ご機嫌斜めの赤ん坊に、カタリナはどうやら悪戦苦闘しているようだった。ゴリラのおばさんが途中で呼ばれ、部屋の中へと消えていく。


 ラフィールは意外にも、子ども ――特に赤ん坊が好きだった。今だって彼は、未来の甥っ子の顔を早く見たいと願っている。


 しばらくすると、カタリナが赤ん坊を抱っこして現れた。

 その小さな頭には贈り物の白い帽子。可愛らしい2つの手には白い手袋ミトン


 カタリナは言う。


「ラフィールさん。ようやく準備ができました。この子もひとまず落ち着いたようだから、早速行きま……」


「ふんぎゃあー!」


「まぁまぁ、どうしたの坊や! 泣かないで」

「カタリナさま、人見知りをしているんですよ」


 おばさんの言葉に、ラフィールはそっと赤ん坊の視界から外れてみる。

 目を固く瞑って玉のような涙を結ぶ赤ん坊を、カタリナは必死になってあやしていた。


 ようやく泣き声が止んだところで、カタリナは眉を下げてラフィールに謝罪をする。


「ごめんなさい。どうかお気を悪くなさらないで。この子は私と籠りきりの生活をしているから、あまり人に慣れていないみたいで……」

「いえ、気になさらないでください。人見知りするのは賢い証拠ですよ」


 そこまで言って、ふと彼は疑問に思った。


「ご主人さまと私は似ているんですよね?」

「ええ。でも夫は王都に行ったきりなの。この子がお父さまと顔を合わせたのは、産まれた直後くらいのものよ」


 おばさんが嘆く。


「カタリナさま、おいたわしや……! こんな狭い部屋に閉じ込めておいて、ファルークさまは坊やに会いに来てもくださらないなんて……!」


 大判の手巾(ハンカチ)で目の端を拭う仕草を、カタリナは苦笑しながら(たしな)めた。


「そんなことを言うものではないわ。ファルークさまは明るい未来のために、遠く離れた王都で頑張っていらっしゃるのよ。……ね、坊や? 寂しいけれど、あなたも我慢できるわよね」


 カタリナは帽子の頭を優しく撫でて、形の良いひたいに触れるだけのキスを落とした。すると赤ん坊の琥珀色の瞳が、こそばゆそうに細められる。


 そして我が子を抱く腕に力を込めた。


 上げられた華の容貌(かんばせ)に宿るのは、母としての強さと同じくらいの弱さで。


 カタリナはせきを切ったかの如く、心のおりを一気にラフィールの前で吐き出した。


()()()は第1、第2両王子殿下とその取り巻きたちに狙われているわ。

 でも聞くところによると、第1王子派と第2王子派に分かれている貴族たちだって、決して一枚岩ではないそうよ。

 国を変えるために立ち上がったファルークさまを助けてくださる方は ――希望的観測かもしれないけれど―― あなたの領主さまのように確実にいると考えているの。

 この国をしんに愛しうれう、貴族や民衆の心を取り込めれば……そのときはきっと……」


 カタリナは熱くなりすぎていた。

 何を言っているのか、ラフィールにはよくわからない。


 いや、わかりそうだからこそ、彼は敢えて遠回りをしようとした。


 冷たい興奮を、冷まさなければいけなかったから。


「取り込んで、どうするんですか?」


 もし仮に、愛する(カタリナ)を守るためだけに、一介の貴族が行う宮廷工作の話だとしたら、あまりにも馬鹿げている。


 この国の王権は絶対的。


 国王と王太子は神にも等しい存在であり、王太子不在の今、その後継候補である獅子の王子たちにあだなすことは、国家への反逆と見なされてしまう。


 それなのに英邁えいまいなはずの領主が、愚かで恐ろしいたくらみに乗っかっていることの意味とは――。


(第1、第2両王子に宣戦布告しても許される人物が、国王を除いて1人だけいる。後継争いから脱落したと見なされて、一般的には名前すら知られていない存在……)


 その人物とは――。


 カタリナは答えの代わりに、射るような眼差しでラフィールを見つめていた。

 他人事でも遠い世界の話でもないと、彼女はその眼差しの強さだけで、未来の義弟に訴える。


「3人の王子のうち、獅子の男児を1番先にもうけた者が、立太子されることは、当然ラフィールさんもご存知でしょう?

 王命ですもの。逆らってはいけないわ。たとえご生母さまの身分が低く、今までかえりみられることもなかった王子が、立太子されることになったとしても。

 でも政治の世界は根回しがすべてだと、ファルークさまと領主さまは仰られた。私とこの子の身の安全を守りながら、王太子として認められるには、それなりの準備が必要なのよ。

 ファルークさまが王位につけば、きっとこの腐敗した世の中は変わるわ。私たち(うさぎの獣人)も堂々とありのままの姿で、街を歩けるようになるかもしれない」

「カタリナさま。あなたのご主人さまは……」


 カタリナは赤ん坊の帽子を取って見せた。


 ふぁさり……


 ラフィールの目に飛び込んできたのは、ほむらのように立ち上がる金色の髪。


 耳は猫の耳に似ているが、少し分厚くて丸みがあり、尻尾は長くて、毛先は筆のようだった。


「よくご覧になって、ラフィールさん。この子は、あなたの血縁になるのだから」


 ラフィールの鼓動が、血管を破りそうなほどに早くなる。


黄金おうごんの獅子……!」


 カタリナは静かに頷いた。


「そうよ。私の夫はフォレスターナ王国の第3王子ファルークさま。

 そしてこの子は見ての通り、獅子の男児 ――(すなわ)ち王位を継ぐ者」


 カタリナはおばさんに頼んで、赤ん坊にまた帽子を被らせてもらう。


「兄王子たちは後継争いから距離を置き、後宮に背を向けて生きてきたファルークさまのことなんて、ほとんど眼中にはなかったの。

 でも彼らは偶然の噂で、私の存在を知ってしまった。多産で発情期を選ばない私たち(うさぎの獣人)は、子を産む道具として、彼らにとって理想の相手。

 そして長年軽んじてきた弟王子が、私の夫だと知られるのに、ほとんど時間はかからなかった……」


 そこから先の話は、ラフィールも領主から聞いている。


「獅子の男児を先にもうけられては困ると、一気に追跡の手が厳しくなったところを、あなたの領主さまに助けていただいたの」


 もともとカタリナはファルークの正体なんて知らなかった。

 彼は出会ったとき、髪を染めていたし、そもそもそんな尊い身分の人間が、嵐の夜の迷いの森にいるなんて、誰が想像できるだろう。


 運命に導かれ、愛し合った相手が、たまたま王子さまだっただけ。


 彼との間に授かった子どもが、たまたま王位を継ぐべき者として生まれただけ。


「もう少し時間があれば、王都の方の下準備も済んだのでしょうけど……」


 カタリナは真っ直ぐにラフィールを見つめた。


「万が一の場合は、この子だけでも……」


 ラフィールは首をふる。

 好きな女の姉も、その息子も、必ず守ってみせる。


「いいえ。愛するレナのため、あなたもこの子も、私が命を懸けてお守りします。この子は私の甥っ子になるのですから」


 ラフィールたちはまた暗い通路を戻り、ガイゼルたちと合流する。


 外はひどく吹雪ふぶいていた。

レナ「お姉さまのお相手が、王子さまだったなんて! でもどうして王子さまが嵐の夜の迷いの森に……」

長老「大方、自分を見つめ直す旅の途中だったんじゃろ。彼の母親は、狼領主が治める辺境出身なのだからな」

☆ 幼い頃に母親を暗殺(表向きは自殺)され、厭世的で投げやりだった王子は、愛する者ができたことで生まれ変わりました。カタリナは貴族社会でも生き抜けるような、非常にしっかりとした女性です。彼女がレナと赤ん坊の血の繋がりを強調したことによって、ラフィールは……。


★ 話の核心にもっと近づきたい方は「53黄金の獅子」「54秘密の小部屋」「58うさぎの正体」を再度お読みいただければ話が繋がると思います。

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[良い点] やっと出て来たカタリナ、考えていたより数段しっかりしたお姉さんでしたね! 母は強し、かな? カタリナの子どもが黄金の獅子だったとは、ラフィールもびっくりですねぇ。でも直後に私の甥っ子にな…
[良い点] こんばんは♪ お話の核心にせまっていてとても面白く、伏線も気になって第一話から読み直してきました(⁎˃ᴗ˂⁎) 全67部あるのにノーストレスでさらさら読めてしまいます! かと言って物足りな…
2020/06/05 23:39 退会済み
管理
[良い点] カタリナさん! これは大変なことですね! 隠れなきゃならなかったのもよく分かります……! けなげなカタリナさん、幸せになってほしいものです。
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