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発情中のうさぎメイドは狼騎士に食べられちゃう?!  作者: つきのくみん
第4章 ラフィールが守りたいもの
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65 神さまに守られて

情報量が多くなってしまったので、カタリナ登場は次回に持ち越します(´;ω;`) 後書きも長いですが、読んでいただけると泣いて飛び上がって喜びます。

 やがて雪は止み、朝になった。

 夜通し道無き道を歩き続け、気がつけばもう8時間。


 疲労困憊のラフィールたち一行が辿り着いた先には、こじんまりとした素朴な建物があった。


 灰色の空を背景バックに十字架を頂く三角屋根。


 雪化粧でも建物の旧さは隠せないのに、周りを取り囲む木の塀だけが真新しかった。


「こんな森の奥に教会……?」


 誰かの質問にガイゼルが首をふる。


「違う。女子修道院()()()建物だ」


 信仰心が薄らいでいるこの時代。難路の果ての修道院に、需要なんてないだろう。教会は権力とにかわのようにくっついて、世俗の垢にまみれている。

 ――尤も、狼領主が治める地域に関しては、教会の腐敗はその他の地域に比べれば、随分とマシだったけれど。


 一行は元修道院の正面から裏手に回り、小さな扉の前で足を止めた。ガイゼルがノックと共に訪問を告げると、少しのがあってから、ゆっくりと扉が開かれる。


 出てきたのは、30代前半くらいの虎の獣人。


 黒の混じった黄橙色の伊達な髪が、雪景色を鮮やかに背負っていた。腰にいている武骨な剣は、まさしくカタリナを守る騎士の証。


(彼もまた虎とは……。俺たちと来た3人と併せれば、既に4人目だ。

 レナのお姉さんの夫は、虎の獣人なのだろうか。或いはただの趣味か。もしかしたら、領主さまよりも高貴な身分である可能性も……)


 まだ見ぬカタリナの夫に、ラフィールは想像を巡らせた。


 狼の領主に仕える騎士たちの大半は、同じ狼の獣人で占められている。

 それは命を懸ける現場において、種族を同じくした方が、理屈でなく本能の領域で、連携が取りやすいという理由のため。


 そうでなくても勇猛な虎の獣人は稀少であり、彼らの高雅こうがな容貌は、貴族の護衛として非常に人気が高かった。

 国王や王子の盾となる近衛騎士が、獅子の近縁種である虎の獣人で揃えられていることも、彼らの価値を補強した。


 つまり、権威の象徴とも言える虎の武人を、直ちに少なくとも4人も遠方に派遣できるカタリナの夫は、どう考えても只者なんかではなかったのだ。




「まぁまぁ、遠路はるばるお疲れさま。今日はやけに大勢で来たんだね」


 虎の護衛騎士が屋内に消えると、次に現れたゴリラの獣人の女性が、寒さも吹き飛ばす陽気な声でラフィールたちの労をねぎらってくれた。


 年の頃は40代後半から50代半ばくらい。

 彼女は力仕事から繊細な作業まで、すべてを高い水準でこなすことのできる極めて優秀なスタッフだ。


 そのゴリラのおばさんは、ラフィールの姿を認めると、一瞬とても驚いた顔をしていた。


 そんな中、ガイゼルが新しく指示を出す。


「準備が整うまでのかん、私たちも休憩の時間とする。短い時間ではあるが、気力と体力の充実に努め、帰りの護衛に備えてほしい」


 突然の来訪のため、カタリナサイドの準備ができていないのは当然のこと。


 しかしこの小さな元修道院だった建物には、大柄な男たち9人が、一所ひとところでゆったりと休めるような場所スペースはなく、やむを得ず、礼拝堂と食堂の2手に別れて束の間の休息を取ることになった。


 濡れた着衣を暖炉の側で乾かす者、仮眠を取る者など、時間の過ごし方は様々だ。


 ラフィールは礼拝堂の長椅子に座ると、急遽用意してくれた温かいスープとパンで空腹を満たした。


 礼拝堂でくつろぐのは罰当たりなことだと、そう教えられて生きてきたが、なぜかここはすこぶる居心地が良かった。


 ラフィールは祭壇にまつられた神を見る。


 そのアルカイックな微笑みは、慈しみと同じくらい、深い悲しみを宿しているように見えて……。


(後継争いで揺れる王家や腐敗する教会を、神は天の上からどんな気持ちで眺めているんだろうな)


 ラフィールは打ち捨てられた修道院に遺された、神の気持ちに思いを馳せた。




 ガイゼルがやってきたのは、ラフィールが心地よい静謐せいひつにその身を任せているときだった。


 気がつけば、周りには誰もいない。


「ラフィール。もうそろそろ、カタリナさまをお部屋まで迎えにいってくれ」

「私がですか?」


 顔見知りのガイゼルの方が適任なのではないかと、ラフィールはいぶかしんで聞き返した。


「そうだ。カタリナさまは気丈な方だが、最近まで体調を崩すことも多かった。道中は厳しい。今もおそらく内心では、ひどく戸惑っておられることだろう。

 せっかくお前がここにいるのだ。レナの話でもしてさしあげれば、カタリナさまの気も少しは紛れるかもしれない」


 ラフィールは琥珀色の双眸を見開いた。


「ご存知だったのですか? レナと『カタリナさま』の関係を……」

「ああ。色々と領主さまから聞いている」


 カタリナはレナの姉だが、世間では認められていないと言えども領主の知人の奥方で、またその知人とやらがとんでもなく高貴な身分である可能性が高いことから、公私を分けてラフィールはカタリナに敬称をつけた。


 ガイゼルは苦笑する。


「お前も難儀な相手を選んだことだ。彼女レナが背負う運命はあまりに重い」


 ラフィールは迷わない。


「たしかにそうかもしれませんが、私はそれでも彼女を愛し続けます」


 そして領主から既に()()()を教えられていたガイゼルも、この若者ならばどんな試練が訪れても、きっと乗り越えていけるだろうと確信した。


 それから彼は空色のリボンがかけられた、可愛らしい包みを取り出した。


「これをカタリナさまに渡してくれ。領主さまからの贈り物だ」

「……了解いたしました」


 ラフィールは実際のところ、レナの話なんてしたい気分じゃなかった。


(それよりも早く帰って、アイツを思いっきり抱きしめてやりたい)


 そう願う彼は、何も知らなかった。


 たった今。まさに今。

 愛するレナが領主館サヨナラの門を、くぐってしまったことなんて……。




 * * *




 ゴリラのおばさんに導かれて、ラフィールは建物の奥へと向かっていた。


 階段横に据え付けられた、本棚の裏にある秘密の通路。


「昔からここは事情のあるお嬢さんのための、とっておきの隠れ場所なのさ」とおばさんは説明した。しかし最後に決められたゴリラウインクの衝撃で、ラフィールの具合が悪くなってしまったことこそ、また秘密。


 ――こういうとき、ラフィールは可愛いレナが恋しくなる。


 人1人通るのがやっとの狭い通路は、やがて曲がりくねる階段となり、暗闇と複雑な道のりは、ラフィールの方向感覚を狂わせた。


 けれど落ち着かない気分の彼には一向に構わずに、おばさんは自分の身の上話を延々としてくれる。


 5人子どもがいること。

 1番上の娘がたまたま「カタリナ」という名前であること。

 その娘が妊娠中であること。


 生憎あいにくどの話にも、ラフィールは興味をもてなかった。相手の気分を害しない程度に、適当な相槌を重ねていく。


「初めての子育ては大変だからね。アタシは5人の子どもを無事に育て上げたし、家事全般から大工仕事まで、何でも1人でこなせるよ。

 それにアタシは迷いの森近くの村の出身だ。ここまでの道のりはそりゃあ厳しいもんだけど、他の人間に比べれば、森歩きは慣れているからね。

 アタシ以上に、カタリナさまのサポート役に相応しい人間はいないって、今回領主さまが任命してくださったのさ」

「それはすごいですね。ところで初めての子育てって、誰の話なんですか? 娘さんの話ですか?」


 棒読みながらもようやく関心を持ってくれたラフィールに、おばさんは興奮で鼻の穴をふくらませた。


 バチコーン!


「なぁに、言ってるんだい!」


 痛い。ものすごく痛い。

 ゴリラのおばさんに、思いっきり背中を叩かれた。


 背骨が折れたかもしれない。少なくとも手形はついているだろう。


 ――こういうとき、ラフィールは非力なレナが恋しくなる。


「カタリナさまに決まっているじゃないか!」


 けれど今は、そんなことを考えている場合ではなかったのだ……。

レナ「信仰心が薄れたら、この国はどうなってしまうのでしょう……。何か私たちに、神さまの罰が下されたりとか……」

ラフィ「神の罰なんてものが、この世にあるかどうかはわからない。但し、確実に王家の求心力は弱まるだろうな。

王権は神から授かった神聖不可侵なものという(てい)で国を支配しているのに、神の存在が顧みられなくなったら、思想的根幹が揺らいでしまう」

レナ「つまりは神を(ないがし)ろにしたことによって、王家は滅ぶということですか?」

ラフィ(頷く)

長老「でもカタリナは打ち捨てられた修道院に守られてきたんじゃろう? ワシは何かしらの、神の意思を感じるんじゃが……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます~!! ゴリラのおばさんの存在感がすごい回でしたw あのゴリラのカタリナのお母さんなんですね。こんなところに繋がりが~。楽しい! ゴリラウインクにやられましたよ。好…
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