表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
発情中のうさぎメイドは狼騎士に食べられちゃう?!  作者: つきのくみん
第3章 結ばれてもすれ違う想い
61/88

61 レナの覚悟

「でもな。ワシのことはともかくとして、ラフィールとも、このまま別れるつもりなのか? レナが平気なら、もうワシからは何も言うことはないんじゃが……」


 ゴードンもやはり、黒猫の先輩メイドと同じ疑問を口にした。


 しかしそこに好奇心はなく、あるのはレナに対する真摯な愛情と心配だけ。


 雪に濡れてしまったゴードンを、レナはまた傘に入れてあげた。


 至近距離で瞳を覗きこまれれば、共に過ごしてきた時間が心に嘘をつくことを許さない。


「平気なんかじゃ……ありません……」


 すっと視線を落としたブーツの下、ぬかるんで地肌が露出した草地に、雪が吸いこまれるように消えていく。


「本当は私……許されるなら……ラフィールさまと……ずっと……」


 迂闊うかつなレナはラフィールを愛してしまった。

 だからこんなにも、引き裂かれるように心が痛い。


 でもきっと、里の大人たちはわかったようなふりをして言うのだろう。


 恋の傷は新しい恋が癒してくれると。

 一等輝いて見えた一番星も、満天になった夜空ではつまらぬものだと。


 残酷な思いやりを高々と振りかざして。


 しかしいくら従順なレナであっても、里に帰ったところで、黙って運命を受け入れるつもりはなかった。


 父レオナールは娘のことを溺愛しているし、長老はなんだかんだでレナに甘い。

 里を出ていかないことさえ約束して、一世一代の反抗心をみせれば、驚いた彼らは無理矢理ほかの誰かとつがわせようとする里の民を、むしろ説得してくれるかもしれなかった。


 何しろレナは、里の非常時に狼の男性(ラフィール)と深い仲になってしまったという前科もち。

 世間と恋を知った大人しい娘が、追い詰められてとんでもないことをしでかしやしないかと、長老と父レオナールは大いに慌てるに違いない。


(もしそれが、叶わなかったら?)


 レナは己に問いかけた。


 ラフィールを慕う心は捨てられないが、うさぎ獣人が堂々と外の世界で生きられる訳もない。


 変化へんげの丸薬ももう貰えないだろうし、あれは常識外の代物しろものだから、仮に貰えたところで飲み続けることは避けたかった。


 一方で里のゴタゴタに巻き込んで、大切なラフィールに迷惑をかけたくない。


 領主の騎士であることを誇りにしているラフィールは、これからも皆に必要とされるべき人。

 彼の将来の障りになってしまうなんて、それこそレナにとっては、絶対にあってはならないことだった。


 先の見えないトンネルに、レナが見出だした唯一の希望。


 それは大いなる森に抱かれて、めぐ生命いのちの一部になること。


 誰に遠慮することもなく、好きな人を永遠に想うことが許されるなら、そっちの方がずっと良い。


(そして身軽になった身体で、ラフィールさまに会いに行くの)


 たとえ愛を伝える言葉を失くしてしまったとしても、レナは心を殺されたままで、生きたくなんかなかったから……。




「レナ!」


 ゴードンに名前を呼ばれて気がついたときには、強い風に傘がさらわれるところだった。


 ぼんやりしていた自分を戒め、レナは手に力を入れる。顔を襲う雪に、思わず目を閉じたそのとき。


 手もとに感じたのは優しい温もりだった。


「先生……ありがとうございます……」


 老医師は華奢な手を覆うようにして、レナと一緒に傘を支えてくれていた。


 皺だらけの手は乾燥していて、レナより少し大きいくらい。ラフィールとはまったく異なる、力強さとは無縁の手。


 それなのに、とても心強かった。


「お主が背負っているものが何か、ワシにはまったくわからない。でも難しく考え過ぎてはいないかの?」


 重ねられた手に染み込む熱は、凝り固まった心を少しずつ確実に溶かしていく。風が一呼吸待ってくれている間を、ゴードンは逃がさなかった。


「その重たい荷物を、ラフィールにも遠慮なく背負わせてやれば良い。アイツならどんな荷物も背負ってくれるじゃろうて!」


 痺れを切らした風がまた強く湖面をなぞる。木々を揺らし、薄氷の水面みなもさえもざわつかせて。


「独りで悩むな。ラフィールに相談しろ。ワシと違って、アイツは本当に頼りになるぞ!」


 ゴードンは目尻に愛情たっぷりの皺を刻んだ。


「なんせワシの可愛いレナを、唯一託しても良いと認めた男じゃからな」

「先生……」

「頼ってやれ。好きな女に頼られることもなく去られたら、男としてこんなに情けないことはないぞ。ラフィールに恥をかかせるな」

「…………」

「そんな泣きそうな顔をして、2人の未来を勝手に独りで諦めるんじゃない!」

「はい……」

「うむ。わかればいいんじゃ、わかれば」


 そう言った老医師の頬は、ほんの少しだけ赤かった。


 ひょっとしたら、初恋をこじらせたゴードンの、まだ引き始めの風邪のせいかもしれないけれど。


 突然尖塔から消えたうさぎのひと

 恋は道に迷っても、少年は彼女の幸せをこいねがう。

 終わらせられなかった初恋に、せめて幸せな色を重ねられれば、行く先を失った在りし日の想いは救われるから。


 今日も相変わらずレナからは、雄にだけわかるラフィールの執着の匂いがする。


 男女のことは2人にしかわからない。

 本来ならば、口を出すのも無粋なのかもしれないが、ゴードンはつい要らぬお節介を焼いてしまった。


 愛し合う若い2人がじれったくて心配で、応援してあげたくて。


 柄にもないことをしてしまい、ゴードンは鼻の頭をポリポリと掻いた。ついでに鼻がむずむずしてくる……。


「へーくしょいっ! うう、やっぱり寒いのぅ。

 ちゃっちゃと用事を済ませて帰るとするか。日が落ちるのはあっという間じゃからの」


 ゴードンは努めて明るい声を出した。レナは弾かれたように顔を上げる。


「はい! 雪に負けないで、沢山薬草を集めましょう!」


 レナはようやく、現実と向き合う覚悟を決めたようだ。

ラフィ「お前、他の男と夫婦になるくらいなら死を選ぶつもりだったのか?!」

レナ「え? (きょとん)」

ラフィ「違うのか?」

レナ「はい。人間の姿を捨てて、ただの野うさぎとして生きるつもりでした。野生生活にも慣れたら、ラフィールさまにも会いに行こうかと!

あ、でも……。ただのお肉扱いは、絶対にしないでくださいね。せめて愛玩動物(ペット)にしてください。それか放置か……」

ラフィ「そういう問題じゃない! 人間を辞める覚悟があるなら、早く俺に相談しろ(怒)」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは♪ ゴードン先生の言葉が金言すぎて……! また、くしゃみが可愛くてほっこりしました(笑) >終わらせられなかった初恋に、せめて幸せな色を重ねられれば、行く先を失った在りし日の想…
2020/04/27 21:08 退会済み
管理
[良い点] ゴードン先生……いいこと仰る! そうよレナ、ラフィールにも背負ってもらいましょ! 一歩前進、かな? 健気なレナを応援してますよ~(*゜▽゜)ノ この後書きで対話体方式、楽しすぎます。 好…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ