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発情中のうさぎメイドは狼騎士に食べられちゃう?!  作者: つきのくみん
第3章 結ばれてもすれ違う想い
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58 うさぎの正体

領主の赤い手はしもやけでした(*´∀`)

今回は長くなってしまいました。

「まずははっきりとさせておこう」


 領主はとうの籠を机上に置くと、再び慣れた手つきでカタリナを外に出した。

 顔と前脚の下に手を通せば、身体がだらりと伸びて、惜しみなく腹部を晒す格好となる。

 

 それに慌てたのはラフィールだ。


 ギリギリのタイミングで目をそらし、レナに責められるべき事態を避けた。


 けれど領主はラフィールの努力を無駄にして、鼻の先が触れそうなほどの距離にカタリナを近づけてくる。


「この子は雄だ」

「は?」

「信じられないなら、自分の目で一度確かめてみると良いだろう」


 ラフィールは半信半疑でモフモフの毛をかき分けた。


「く。これは……!」


 雄だった。

 狼との違いはあれど、間違いなく雄だった。


「納得したか? 誤解があったようだが、この子は正真正銘お前と同じ年くらいの雄うさぎだ。もちろん特殊な能力がある訳でもない」


(俺はただのうさぎ ―― しかも野郎ヤローに向かって、あんな気を遣って話しかけていたのか? 何てことだ……)


 真実を知ってしまうと、羞恥や落胆、困惑といった雑多な感情に襲われた。奥歯を噛みしめて感情の波濤(はとう)に耐えるラフィールに、領主は率直に詫びをする。


「すまなかった。この色彩のうさぎにはとても親近感があってな。ラフィール、お前も同じであろう?」


 領主はラフィールを、うさぎ愛で繋がった同好の士と見なしていた。その上で今回ばかりは、わざわざ「この色彩のうさぎ」と限定した意図を読み解く必要があるだろう。


 おそらく答えは1つしかない。


 領主はカタリナではなかったうさぎを、丸めるようにしてしっかりと抱え直した。

 その後もまた縷々面々(るるめんめん)と、記憶にも残らないような話が続く。


 途中、ラフィールは廊下へと繋がる扉に足音も立てずに近づいた。彼は領主の話をさえぎらず、そして領主もまた若き騎士に話かけることをやめなかった。


 バンッ!


 ぜたような勢いで、重たい扉が開かれる。


(もういない……)


 左右に伸びる廊下は無人。

 ラフィールは再び領主のもとへと戻っていった。


間者(ねずみ)は逃げたようだな」

「お気づきだったんですね」

「いや、偶然だ。いつも気を張っている訳ではない」


 領主は長く息を吐いた。


「また戻ってくるかもしれぬな。私がお前を重用していることは、この館における周知の事実。ほかにも私の周りの少数の人間から、不穏な気配を感じるとの報告を受けている」


 すなわち探られているのは、領主と有事の際に密命を受けるであろうごくわずかな家臣たち。

 そして領主は一介のメイドに過ぎないレナについても、ラフィールの恋人である以上は無関係ではいられないと言及した。


 例えば命懸けの任務の場合、多くの騎士たちは恋人との別れを惜しむ。領主はラフィールに、レナに向ける感情や態度にも厳に気を配るべきだと警告した。


 領主は雄うさぎを机に下ろす。うさぎは前脚を籠に引っかけると、ひくひくと鼻を動かして匂いを嗅ぐような仕草を見せた。


「さぁ、この話はおしまいだ。気分転換にお前も餌をやってみるといい。一生懸命食べる姿は可愛くて癒されるぞ」


 領主は籠から人参を手に取るや、軽々と真っ二つに折ってしまった。そしてその片方をラフィールの手に握らせる。


「この人参をやればいいんですね? わかりました……。わかりましたから、もう少し離れてもらっていいですか?」

「なぜだ?」

「近過ぎます。そんなに心配なさらなくても、餌くらい上手くやってみせますよ」


 吐息がかかるほどの距離は、あたかも愛を語らう恋人同士。ラフィールがある種の危機を感じて遠ざかると、また距離を詰められるの繰り返し。極度の緊張を強いられて、癒しからはほど遠い苦行に、彼は時が流れるのをじっと待った。


 そのとき。


『カタリナは私が安全な場所で保護している』


 突然耳に流し込まれた、あまりにも衝撃的な領主の告白。


 ラフィールが思わず横を向くと、唇さえも触れそうな近さに後悔した。次に叱責が飛んでくる。


「よそ見をするな! 餌やりはこの子の体調管理も兼ねた重要な任務であると心得よ」

「はっ。承知いたしました」


 大柄な男2人が真面目な顔で、うさぎを挟んで肩を寄せ合うこの光景。


 むさくるしくも微笑ましい餌やりの場面に見えなくもないし、それにこの至近距離ならば、もし仮にねずみが戻ってきたとしても、話を盗まれる心配もないだろう。


 雄うさぎは人参を前脚で器用に持って、しゃくしゃくと一定のリズムを刻んで食べていた。


『なぜ彼女を保護しているのですか?』


 雄うさぎの胃に収まっていく人参を見送りながら、ラフィールは率直な疑問を口にする。いつまでも手元で保護するよりも、信頼できる騎士に命じて彼女を家に送り届ければ済む話のはず。


『彼女は王家の後継争いに巻き込まれた。居場所を知られればどうなるかわからない。良くて後宮入り、悪くて命を奪われてしまうだろう』

『まさかレナのお姉さんが、そんな大変なことに巻き込まれていたとは……』


 ラフィールは驚きを隠せなかった。


 雄うさぎにもう半分の人参を差し出すと、それも瞬く間に消えていく。次にチモ草を渡された。


『レナの正体もご存知だったのですか?』

『うさぎの獣人であることか? それは勿論知っていた。カタリナが以前、里秘伝の丸薬の存在や家族の話をしてくれたことがあってな。レナを見てすぐにわかった』


 チモ草も次から次へと催促される。ラフィールは休む間もなく餌をやり続けなければならなかった。


「よく食いますね」

「繁殖に備えているんだろう。うさぎは精力旺盛だ。庭で放し飼いにすると、どこかで雌うさぎをひっかけてくる。相当なプレイボーイらしい」

「…………」

「おい。嫌そうな顔をするな」


 領主が彼女を保護することになった経緯も気にかかるが、それにしても困ったことになった。


 カタリナが王族に目をつけられたとなれば、表に出てくることは難しいだろう。


 早くレナを安心させてやりたいのに……。


『わずかな時間でも姉妹を再会させることは可能ですか?』

『残念ながら今はまだできない』

『…………。そもそも領主さまとレナのお姉さんは、どういった経緯でお知り合いに?』

『知人から彼女の世話を頼まれた。それに私もカタリナを守ってやりたかった。迷いの森も我が領地。そこに住んでいた彼女もまた、私が守るべき対象であろう』


 領主には苦い過去がある。


 昔この辺境の地で見初められ、無理やり後宮に召し上げられた娘がいた。


 国王は辺境の地の慰めとして、その娘を()()するように先代の領主 ―― つまりは今の領主の父親に命じた。父親は泣いて嫌がる娘を苦悩の末に国王へ差し出したという。国王はいたくその娘を気に入り、王都へと連れて帰った。


 そしてまだ若く未熟だった領主は、王に屈した父親の行いに何一つ物申すことができなかった。

 夫と産まれたばかりの赤子がいる娘を手込めにするなど、道義的に決して許されることではなかったのに……。


 娘の悲痛な叫びが今もなお、耳にこびりついて離れない。妻を得て改めて思い知る、愛する者を失うことの絶望。


 後々となって領主が風の噂で聞いたのは、残された夫と赤子、召し上げられた娘、それぞれが皆不幸になったこと。


 どのような事情があるにせよ、幸せだった家庭を自分の父親が壊してしまった罪は重い。


『ラフィール、しばらく待て。レナにはまだ何も言うな。いいか、これは命令だ。

 レナがカタリナの妹であることを、おそらくまだねずみは知らない。種族を変える薬なんて常識ではあり得ないからな。だからこそ下手なことを話してレナまで巻き込むな。彼女は秘密の共有には向いていない』

『…………御意』


 ラフィールは反論できなかった。


 いつの間にやら空っぽになった籐の籠。その横で転がっているぽってりとした腹の茶色のうさぎ。


(レナの丸薬が尽きる前に、彼女に真実を教えてやれるといいが……)


 レナにはもう時間がない。そのことを知っているラフィールは歯がゆい気持ちをぐっと堪えた。

ラフィ「まさか雄だったとはな。それにしても俺は、領主さまのあのうさぎをあまり好きになれそうもない」

長老「嫉妬ですかな? ラフィールさま」

ラフィ「何をバカなことを。相手は獣人ではなく、ただのうさぎだぞ」

長老「ならばこの雄うさぎと一緒に、獣型のレナを金の檻に入れてみますか?」

ラフィ「……絶対にやめてくれ(怒り)」

☆ 次はやっとレナのターンです。話の全容が見えてきましたね。

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[良い点] お久しぶりですクミンさん! リアルで忙しくなっちゃったんすかね? 我々愛読者はいつでも待っておりますんで復活してくだせぇ! ってかまさかのウサギはオスだったwww それを確認したいと思わな…
[良い点] 別人ならぬ、別兎だった……! そして間諜がいたとは(n゜O゜n) 絵面は微笑ましいのに(人参を頬張るうさぎさん)、この緊迫! レナちゃんのお姉さんが、領主さまに保護されていたのは良かったで…
[良い点] 更新ありがとうございます! 待ってました♪ えっ、まさかの雄だったよ!!Σ(゜Д゜;) でも乙女な領主はやっぱりカタリナのことを知ってたんですね…… ねずみがチョロチョロしてるのが気にな…
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