51 初めての夜
妄想力の準備はできましたか? なにぃ!
とっくにできているですってぇぇΣ(-∀-;) ?!
「風邪、じゃないんですか……?」
「違う。お前にも発情期が来たんだ、ようやくな」
「これが……発情期……?」
レナはハッと息を飲んだ。
言われてみれば最近、また妖しい夢を見ることが増えてきた。そしてついに昨日は……。
禁じられた遊びほど惹かれるのは何故だろう。夢の中ほど大胆になれるのは願望なのか。
今までも互いに触れ合っては愛情を確かめてきた2人。
すぐにぐずぐずに蕩けきってしまうレナとは違い、ラフィールは無垢な恋人の快楽を弄んではその反応を愉しんでいた。
「お前から発情した雌の匂いがする。側にいるだけで酔ってしまいそうだ」
柔らかな耳を食みながら、ラフィールは低く掠れた声を流し込む。
「いつもより敏感だろう?」
心地好いテノールは、甘い時間を告げる声。
「は……い……」
これから為される愛の行為の予感だけで、レナの身体は熱を上げた。
深くなる口付けとともに身体の柔らかいところに触れられれば、レナは粗相をしてしまった子どものように落ち着かない。
もうどうしようもできなかった。
「これ以上は……! おかしくなってしまいます……やめてください……お願いします……やめて……」
身体が未知なる何かを求めていた。
もっと決定的な刺激がほしいと、水面に顔を出す魚のように、パクパクと全身で落ち着かない呼吸を繰り返す。
レナは回らない頭でラフィールにお願いした。
何度も、何度も、何度も。
「やめてください……! そうしないと、私……」
けれど本気の想いを疑われ、本気の想いもぶつけてもらえなかったラフィールが、ここでやめてくれるはずもない。
「ラフィールさま……離して……。薬を……発情期を散らすお薬を……取らせて……ください……」
快楽に煙る意識を叱咤して、レナは作り上げられた幸運により、何とか逞しい腕から抜け出すことに成功した。
寝台とは反対側に置かれている机の引き出しから、発情期を散らす水薬の瓶を手に取った。
ラフィールは笑っていた。
レナは手間取りながらも蓋を開ける。
彼女がその中身を一気に呷ろうとしたときに、悠然と頭上から長い手が伸びてきた。奪われた水薬の蓋がまた閉まる。
「!」
「俺がいるのに、こんな薬を頼るのか?」
そしてラフィールは大切な水薬を放り投げた。
それはとても綺麗な放物線を描き、見事に屑籠に消えていく。レナは為す術もなく、呆然とその軌跡を見つめていた。
「続きをしようか、レナ」
「え……きゃっ……!」
ラフィールはレナを横抱きにして、再び寝台に座らせた。
恋人になって少しずつ関係を深めていたつもりだったが、2人の間には高くて見えない壁があった。身体に触れて心にまで手を伸ばすとどこか悲しそうにするこの瞳に、幸せな未来だけを見せてやりたい。
「一生愛すると誓うから、俺にお前をくれないか?」
レナに許された返事はイエスのみ。
けれどその言葉さえも言えないうちに、ワンピースタイプの清楚な夜着が、肌からするりと滑り落ちた。
絶え間なく与えられる口付けはレナの思考を奪っていく。
生まれたままの姿に剥かれ、芸術品のような曲線を、もどかしい手つきでなぞられる。未だ踏み荒らされたことのない場所を、大きな掌と繊細な指先で楽器を弾くように愛でられれば、押し寄せる波に飲み込まれて、レナは時の流れからも置いていかれた。
プロポーズを受け入れる日は永遠に来ない。
そう思いながらも、穢れなき乙女は肌を重ねれば情が移ることさえも知らなかった。
「はい……」
レナは操り人形のようにこくりと頷く。
薄紅色に染まる頬で。口付けのし過ぎていつもより朱くなった唇で。淡雪のように消えてしまいそうな小さな声で返事をして。
「ラフィールさまに、全部あげます……」
そしてその夜。
うさぎのレナは狼のラフィールに、頭の先から爪の先まで、余すことなく食べられた……。
* * *
ラフィールは心地好い疲労感と共に目が覚めた。あまり寝ていないはずなのに、すっきりと頭が冴えている。
手元に灯りを引き寄せれば、健やかな寝息を立てているレナの姿が浮かび上がった。
感度の良さそうな長い耳、ふんわりと丸っこいうさぎの尻尾。
ラフィールはこの時、初めて本当のレナに会えた気がした。
(これはヤバいだろう……。また喰らいつきたくなる……)
犬の姿でも、レナは充分過ぎるほど可愛かった。
しかし可憐で守りたくなる雰囲気が、うさぎ姿だと凶器に変わるとは思わなかった。ラフィールの理性が猛攻に曝されるのだ。
そっと恋人に手を伸ばすが、身動ぎされて引っ込める。まだこの姿で起きられては困るから。
それでも彼は願ってしまった。
(うさぎのレナが笑って泣いて、動いているところを見てみたい。いつものように俺の名前を呼んでほしい)
ラフィールは今なら、領主のクリスタルのうさぎも大絶賛できるような気がしていた。むしろ手を取り合い、夜通し語り合う必要がありそうだ。
大切なレナが本当に風邪を引いてしまわないように、ラフィールは寝台を簡単に調えた。
敷布に散る血の痕までもが愛おしい。起こさない範囲で、レナの愛情にまみれた身体を清めてやる。
部屋を去る前、ラフィールは簡単な手紙を残した。彼女がこれからも、安心して過ごせるように。
領主は新しく入手したうさぎの置物を、ご機嫌に磨いていた。
領主「~♪」
ラフィ「領主さま」
領主「む……私に何か用か? 今、忙しいんだ」
ラフィ「いえ。そのうさぎの置物、最高に可愛いらしいですね。是非近くで拝見させてください」
領主「ラフィール! お前もついにうさぎの愛らしさに目覚めたのか?!」
ラフィ「はい。今夜は語り合いましょう(酒ドーン)」




