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発情中のうさぎメイドは狼騎士に食べられちゃう?!  作者: つきのくみん
第3章 結ばれてもすれ違う想い
49/88

49 涙でわかる本気の恋

今更なのですが、この物語は結構大人向けです。

途中、切ない展開もあります。

でもハッピーエンドをご用意しておりますので、どうかどうか耐えてくださいませ(。´Д⊂)

「入るぞ?」


 ラフィールは声が返ってくるのを待たずして、レナの部屋の扉を開けた。入口のすぐそばには彼女がいて、その近さに少しだけ面食らう。


「もしかして、待っていたのか?」

「はい。何だか……落ち着かなくて」


 潤んだ瞳に忍ぶ羞じらい。「早く来てほしい」とばかりに袖を遠慮がちに引っ張られれば、一層近づいた榛色はしばみいろの輝きに魅入られた。その力は弱いのに、ラフィールを強力に引き寄せる。


 そもそも恋人が自分のおとないを待っていてくれることほど、幸せなことはないだろう。


 ラフィールは導かれるままに扉を閉めると、寝台の前でレナを優しく包み込んだ。彼女もまた広く逞しい背中に腕を回す。

 服の上から通う熱に、種類の違う熱さが徐々にそして確実に広がった。


 レナからはいつも甘くて優しい香りがする。花びらに埋もれて眠ったならば、こんなかぐわしい香りがするのだろうかと、ラフィールは常々彼女を腕の中に閉じ込める度に思っていた。

 実際レナは、花の香油を使って毎晩肌のお手入れをしている。医師であり、優れた研究者でもあるゴードンをも唸らせるほどの植物の知識を生かし、それらもすべて手作りしていた。


 でも今日はそれだけじゃない。脳天を痺れさせるほどの発情香が、ラフィールの雄を刺激する。


「大丈夫か?」


 問いかけられ、レナはとろんとした眼差しをラフィールに向けた。発情香さえしなければ、風邪を引いているように見えなくもない。

 女性同士では発情香はわからない。それに親しくもない男性から、「あなたは今、発情していますよね?」なんて不躾ぶしつけに指摘されることもほとんどない。


 一般的に、発情期が来たかどうかは、まず本人が自然と気が付くべきであるし、また普通は気が付いてしまうものであった。そうした事に疎いレナは、それすらもあまりわからなかっただけで……。


 酒場であだっぽいお姉さんが相手ならともかくとして、発情は女性の生理現象だから、本来はとてもデリケートな問題なのだ。恋人同士でもない限り、著しくデリカシーを欠いた人間でなければ、そのような話題を振ることはない。


「はい。たぶん……大丈夫です。でも……喉も頭も痛くないのに、身体だけがすごく熱くて……。特に身体の奥の方が……おかしいんです……」


 レナは困ったように呟いてから、体温を確めるためなのか、首筋や頬、額といった身体中のあちこちを、自分でペタペタと触っている。


 ラフィールは紳士然とした振る舞いで、落ち着かない様子のレナを寝台に座らせた。メアリ婆さんがゴリラ娘が来ると勘違いした結果、彼女の寝台はわりと広い。

 レナにとって初めての夜を始める前に、ラフィールには彼女に伝えるべきことがあった。


「今日はお前に渡したいものがある」


 そうして彼は懐から、天鵞絨ビロード張りの小さな箱を取り出した。


「これは……?」


 戸惑うレナの手に、ラフィールは夜の色の小箱を強引に握らせる。


「開けてみろ」

「はい」


 馬の蹄が鳴ったような、小気味の良い音と共に蓋が開いた。


「指輪……。まさか、私に?」

「お前以外に渡す相手なんて、いないだろう」


 ラフィールは苦笑したが、その声は蜂蜜よりもずっと甘い。


 中から出てきたのは、真白いサテンのクッションに浮かぶ白金プラチナの指輪。


 レナは宝飾品の類いはわからないけれど、父が常に身に付けていた指輪と、おそらく同じ種類のもの。


 それは、今は亡き(レナの母親)と誓った、永遠の愛の証。


「レナ。手を」


 ラフィールは柔らかな曲線を描く指輪を、長い指でそっとつまみ上げた。レナの左手を自分の方に引き寄せて、ほっそりとした薬指にはめてやる。それはあつらえたように華奢な指にしがみつき、控えめながらも清冽せいれつに、その存在を主張した。


「シンプルなデザインだから、仕事中でも付けられるはずだ」


 薬指で輝く指輪を、ただ呆然と見つめるレナ。


「でもこんな高価なもの、いただけません……。それに……これって……まるで……」


 レナは続く言葉をギリギリのところで飲み込んだ。「結婚指輪マリッジリング」という響きは、眩しいくらい神聖で、悲しいくらい重たくって、簡単に口になんて出してはいけない言葉だと、夢見るレナは思っていたから。


 ラフィールは淡い栗色の髪を一房掬い上げて、口づけを落とした。それから指輪をはめた左手の薬指にも。


「俺は、お前と添い遂げたいと思っている。幸せな家庭を……孤児だった俺に、くれないか?」


 レナは泣きそうだった。幸せな涙が溢れてくる。


「ごめんなさい、ラフィールさま……」


 うれしい。うれしいのに。

 頬を伝う涙はほろ苦い味がした。


「私には、この指輪をはめる資格なんてないんですっ……! 私は……本当は……。本当の、私は……」


 レナの心が悲鳴をあげる。すべてを話してしまえば楽になれるのに。それはどうしてもできなかった。


 うさぎの獣人の存在が世間に広く知れたら、レナの故郷ラビアーノの皆は一体どうなってしまうのか。


 レナだって、いつまでも変化へんげの丸薬を飲み続けて生きることはできないのだ。ありのままの姿で生きられる場所はラビアーノだけ。


 もしすべての真実を明かした上で、ラフィールをレナの故郷に連れ帰ったとしても、里の皆は狼の彼を受け入れてくれるのか。

 いや、そもそも騎士の仕事に誇りをもち、親子のような絆で結ばれている敬愛する領主に仕える立派な彼を、あんなひなびた場所に連れて行くのは、結局誰のためにもならないのではないか。

 それ以前に、嘘を重ねていた事実は、ラフィールの気持ちを変えてしまうかもしれない……。


 レナの思考は悲劇的な結末へと堕ちていった。

 このフォレスターナの国が変わらなければ、彼女はこの恋を選べない。


 ラフィールはとめどなく流れる恋人の涙を、親指の腹でぬぐってやった。


 レナの涙の意味が、彼にはわかる。


 つまりはレナはもう本気で、自分ラフィールを愛しているということ。

 想い合う気持ちの大きさは、2人ともまったく同じであるということ。


 ラフィールは今、それらの確信を手に入れた。

この物語に付き合ってくださる方に心からの感謝を。

ブクマや評価をしてくださった方、本当にありがとうございます(*´∀`)


ようやく2人は、肉体的には(言い方……)結ばれますっ!

ここまで長かったですよね(;´д`)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 39話目の後書きの長老に笑ったのですが、 この回はちょっと切ない感じになりましたね(´ω`*) 思わず長老出てこい!活躍するならここぞ!ってなりました。 >それは誂えたように華奢な指にし…
[良い点] .......夜が来ました...... なんでだろう...普通にR-18なのに感動しちゃうのは... ダメだ完全に自分の頭がイカれてる... やっとだよ...やっとくるんだよ!!! 愛読者…
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